フィブリノゲン製剤の適正使用と
適応拡大に関わる
厚生労働省通知について
審査番号:審J2412207
■はじめに
フィブリノゲンHT静注用1g「JB」(以下、フィブリノゲンHT)の使用に際しては、厚生労働省より発出された適正使用に関する通知1)を遵守する必要があります。このページでは、フィブリノゲンHTを使用されている医療関係者の皆さまに、厚生労働省の通知内容および適正使用を推進すべき背景をお伝えします。
■フィブリノゲンHTとは?2)
フィブリノゲンは、血液凝固カスケードの最終産物であるフィブリンの前駆物質です。正常人血漿中に200~400
mg/dL存在し、組織が損傷した場合に血小板の傷口への粘着に引き続いて血液のゲル化を起こし生体の防御・止血機能を果たす重要な血漿成分です。止血のためには、100~150
mg/dLのフィブリノゲンが必要となり、大量出血の場合には最も枯渇しやすい凝固因子です。フィブリノゲンの低下は出血傾向を来し、生命の危険にもつながる可能性があります。
フィブリノゲンHTは、ヒトの血液から分離した血漿から、人フィブリノゲンを濃縮・精製した製剤です。

■ウイルスに対する安全対策2)
フィブリノゲンHTの原材料となる献血者の血液についてはHBs抗原、抗HCV抗体、抗HIV-1抗体、抗HIV-2抗体及び抗HTLV-1抗体陰性で、かつALT(GPT)値でスクリーニングし、更にHBV、HCV及びHIVについての核酸増幅検査を実施しています。また、ウイルスの不活化・除去を目的として、製造工程においてリン酸トリ-n-ブチル(TNBP)/ポリソルベート80処理、ウイルス除去膜(平均孔径:19nm)によるろ過処理、凍結乾燥の後、80℃、72時間の加熱処理を施しています。更に最終製剤についてもHBV、HCV、HIV、ヒトパルボウイルスB19及びHAVについて核酸増幅検査を実施し、ウイルスの核酸が検出されないことを確認しています。ただし、以上のような安全対策を講じても、血液を原料としていることに由来する感染症の伝播の危険性を完全に排除することはできないことにご留意いただく必要があります。
■フィブリノゲンHTの効能又は効果2)3)
フィブリノゲンHTの効能又は効果は、
○先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向
○産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充
の2つです。
このうち、「産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充」に関しては、日本輸血・細胞治療学会、日本産科婦人科学会、日本心臓血管外科学会の3学会による要望に基づいて公知申請が行われ、2022年3月に効能又は効果として適応が追加されました。
■フィブリノゲン製剤適応拡大の背景4)
フィブリノゲン製剤の「産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症」の適応拡大に至る背景には、2017年から3度に渡り特別シンポジウムが開催され、適応拡大について議論されてきました。そして4度目の特別シンポジウムである2021年8月に開催された「フィブリノゲン製剤特別シンポジウム」には3学会および患者団体である特定非営利活動法人ネットワーク医療と人権、参議院議員、厚生労働省医薬品審査管理課が参加し、本会にて3学会合同の提言(福島宣言2021)が決議されました(表1)4)。
表1 フィブリノゲン製剤特別シンポジウム決議(福島宣言2021)
- 産科的危機的出血及び心臓血管外科手術による出血傾向は患者の生命に重大な影響を及ぼす
- これにより生じた後天性低フィブリノゲン血症患者(血中フィブリノゲン値が150mg/dL以下のもの)に対してフィブリノゲン濃縮製剤の適応とするべきである。ただし本剤の供給は未だ十分ではなく、同種クリオプレシピテートを有効に活用することが望まれる
- 関係学会は、血中フィブリノゲン値の迅速測定が可能であり、かつ後天性低フィブリノゲン血症による出血の管理に適した医療機関において適正に使用されるよう注意喚起しつつ、製造販売業者と協力して適正使用のモニタリング調査や必要な研究を行うべきである
- 担当医は、投与の判断にあたっては適応外使用を控え、漫然と投与しないようにすべきである
- 本剤の安定した生産と採算性を維持し、本剤を必要とする先天性・後天性低フィブリノゲン血症患者への安定供給が保持されるべきである
■フィブリノゲン製剤の適応拡大公知申請に際する厚生労働省の通知内容1)
2022年の公知申請に際して、厚生労働省よりフィブリノゲン製剤の適正使用に関する留意事項が通知されました(表2)1)。留意事項は5項目にわたって通知されており、特に重要な項目は「4.本剤の適正使用の方策について」および「5.本剤の安定供給等について」です。
表2 新たに薬事・食品衛生審議会において公知申請に関する事前評価を受けた後天性低フィブリノゲン血症における乾燥人フィブリノゲンの使用に当たっての留意事項
- 1.本剤の効能又は効果について
- 事前評価通知のとおり、当面、本剤の効能又は効果は、「先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向の改善」及び「産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充」であること。
- 2.本剤の効能又は効果に関連する注意について
- 本剤の後天性低フィブリノゲン血症患者に対する投与の適否や投与開始時期については、添付文書の記載に加え、関連学会のガイドライン等の最新の情報を参考としつつ、適切に判断すること。
- 3.用法及び用量並びに用法及び用量に関連する注意について
- 本剤を後天性低フィブリノゲン血症に用いる場合であって、投与後に血症フィブリノゲン血症が改善しない場合には追加の投与を検討することができること。ただし、追加投与の適否は、フィブリノゲン以外の因子の出血への関与の可能性も考慮して慎重に判断し、本剤を漫然と投与することがないよう注意すること。
- 4.本剤の適正使用の方策について
- 本剤の「産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充」における使用は、産科危機的出血を適切に管理できる医療機関において、適切な投与対象に対して行われる必要がある。そのため、本剤投与は、血中フィブリノゲン値の迅速測定が可能で、かつ産科危機的出血の管理に精通した医師が常駐するなど、日本産科婦人科学会等(以下「学会」という。)が定める使用施設の条件を満たした医療機関において使用すること。本剤の「産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充」での使用については、学会が適正使用に関する実態把握及び調査(以下「調査等」という。)を行いつつ使用することとされていることから、本剤を使用する医療機関においては、学会の調査等に適切に協力すること。また、副作用等の報告については、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に適切に報告すること。なお、製造販売業者から副作用等の報告に関する情報収集等の協力依頼がなされた際には、これに協力すること。
- 5.本剤の安定供給等について
- 本剤は、人の血液から製造される医薬品であり、血液を原料としていることに由来する感染症伝播等のリスクを完全に排除することができない特定生物由来製品であり、また、製造販売業者による供給量には限界がある。そのため、「先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向」を効能又は効果として本剤が既に使用されているところ、今般の事前評価終了に伴う使用の拡大により、有用性が確認されていない投与対象に該当する症例に使用されることがないよう、血液製剤の使用指針(平成31 年3月厚生労働省医薬・生活衛生局)における基本的考え方や関連学会のガイドライン※等の最新の情報も参考に、本剤を適切な対象に投与するとともに、使用目的に照らして適切な投与量に限ること。本剤を使用する医療機関においては、製造販売業者から安定供給のための使用状況及び使用症例の確認があった場合には、適切に対応すること。
■『産科危機的出血への対応指針2022』におけるフィブリノゲン製剤の使用条件
フィブリノゲン製剤の後天性低フィブリノゲン血症への適応拡大にあたり、本邦の関連6学会(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本周産期・新生児医学会、日本麻酔科学会、日本輸血・細胞治療学会、日本IVR学会)にて『産科危機的出血への対応指針2022』が策定されました5)。本指針ではフィブリノゲン製剤の使用条件など、関連6学会が取り組む内容が盛り込まれています。
■日本血液製剤機構よりフィブリノゲン製剤適正使用のお願い6)
日本血液製剤機構(以下、JB)には、厚生労働省より「安定供給を目的とした使用状況及び使用症例の確認の実施」が通知されております。本通知に従い、JBではフィブリノゲンHT の使用において、以下のお願いをしております。
- ① 「産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充」への投与に対して、日本産科婦人科学会等が定める使用施設の条件を満たした医療機関においての使用をお願いしております。また、本剤投与の適否や投与開始時期の判断にあたりましては、『産科危機的出血への対応指針2022』5)の『フィブリノゲン製剤使用に際して』の項の参照をお願いしております。
- ②実際の投与におかれましては、電子化された添付文書の「使用上の注意」7)にありますように、本剤投与直前の血中フィブリノゲン値を必ず測定いただくようお願い申し上げます。
- ③ 本剤はヒトの血液から製造される医薬品であり供給量に限りがあることから、適正使用及び安定供給等のための対応について厚生労働省より留意事項が示されております。JBでは、本剤がすでに使用されている「先天性低フィブリノゲン血症」の患者様への安定供給のため、有用性が確認されていない投与対象に該当する症例に使用されることがないよう、本剤が納入された医療機関に対して使用症例の確認を行うとともに、その状況につきまして定期的に厚生労働省に報告しております。また、適正使用の推進のためにJBによる上記の情報収集を進めておりますことに、ご理解をいただきたくお願い申し上げます。
医療関係者の皆さまにおかれましては、本事情をご賢察いただき、適正使用へのより一層のご協力を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
参考文献・資料
- 厚生労働省.新たに薬事・食品衛生審議会において公知申請に関する事前評価を受けた後天性低フィブリノゲン血症における乾燥人フィブリノゲンの使用に当たっての留意事項.2021.[https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6167&dataType=1&pageNo=1](2024/12/16 access)
- 日本血液製剤機構.フィブリノゲンHT 1g静注用「JB」インタビューフォーム.2023.(2024/11/29 access)
- 日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会.フィブリノゲン製剤の適正使用に関して.2021. [https://www.jsog.or.jp/news/pdf/20210910_FBG_shuuchi.pdf] (2024/11/28 access)
- 日本輸血・細胞治療学会.フィブリノゲン製剤特別シンポジウム提言.2021.[https://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/uploads/2021/08/5f50ff06829b2872c0176bc1d29ec982.pdf] (2024/11/28 access)
- 日本産科婦人科学会,他.産科危機的出血への対応指針2022.2022.[https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/shusanki_taioushishin2022.pdf](2024/11/29 access)
- 日本血液製剤機構.フィブリノゲンHT 静注用 1g「JB」適正使用のお願い.2024.
- 日本血液製剤機構.フィブリノゲンHT 静注用 1g「JB」電子化された添付文書.2023. (2024/12/06 access)