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自己免疫疾患にまつわる知識・情報UPDATE

自己免疫疾患にまつわる知識・情報UPDATE

2024年10月掲載(審J2409131)

Vol.2 自己免疫疾患に罹りやすい人とは?

自己と非自己を見分ける力

自己免疫疾患のかかりやすさ(感受性)は、遺伝要因と環境要因の影響を受ける(図11)-3)

図1 自己免疫疾患の発症に関わる主なリスク因子 図1 自己免疫疾患の発症に関わる主なリスク因子 <参考>
Peter Parham. 平野俊夫, 村上正晃 監訳. エッセンシャル免疫学 第4版. 第16章. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2023年8月.
Miller FW. Curr Opin Immunol. 2023; 80: 102266.
Mazzone R, et al. Clin Epigenetics 2019; 11: 34.

遺伝要因の中で最も重要な因子は「ヒト白血球型抗原(HLA)」である。HLAはヒトの体細胞の表面に発現しているたんぱく質で、自己と非自己を見分けるための目印となる。脊椎動物には総じてこの目印があり、「主要組織適合性複合体(MHC)分子」と呼ばれている(HLAはヒトMHCの別名である)。

MHC分子は抗原を載せてT細胞に提示するための器として働く(図24)5)。MHC分子のタイプにはクラスIとクラスIIがあり、クラスIは赤血球を除くほぼすべての体細胞に発現しているが(図2左)、クラスIIは樹状細胞やマクロファージ、B細胞などの抗原提示細胞(APC)に発現している(図2右)。クラスによって提示する抗原が異なり、MHCクラスI分子は細胞内にあるたんぱく質を提示するので、ウイルスに感染した細胞ならウイルス抗原を、腫瘍細胞なら腫瘍抗原を断片(ペプチド)として提示する。一方、MHCクラスII分子は細胞外から取り込んだ細菌などの病原体を分解してペプチドとして提示する。ただし、抗原提示能力が最も強い樹状細胞の一部は、外来抗原をMHCクラスI分子にも提示することができる。これを「クロスプレゼンテーション」という。

MHC分子上に抗原が提示されると、それまで抗原に出会ったことのないT細胞(ナイーブT細胞)が受容体(TCR)で抗原を認識してMHC分子と結合し、活性化してエフェクターT細胞になる。具体的には、MHCクラスI分子上の抗原を認識するのはCD8陽性T細胞で、活性化すると細胞傷害性T細胞(CTL)となり、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を破壊する(図2左)。一方、MHCクラスII分子上の抗原を認識するのはCD4陽性T細胞で、活性化するとヘルパーT細胞(Th)となり、ほかの免疫細胞を活性化したり、抗体の産生を誘導したりする(図2右)。

図2 MHC分子の抗原提示とT細胞による抗原認識 図2 MHC分子の抗原提示とT細胞による抗原認識 <参考>
山下政克 編. 基礎から学ぶ免疫学. 4章. 羊土社, 2023年11月.
西村尚子. 安部良 監修. いちばんやさしい 免疫学. 3章. 成美堂出版, 2022年4月.

自己免疫疾患は遺伝するか?

ヒトの場合、HLAクラスIの遺伝子としてHLA-A、HLA-B、HLA-Cが、HLAクラスIIの遺伝子としてHLA-DP、HLA-DQ、HLA-DRがある。それぞれの遺伝子には非常に多くの種類(多型)があり、多いものでは数百種類に上る6)。自己免疫疾患との関連でいうと、1型糖尿病ではHLA-DQ2やHLA-DQ8、関節リウマチ(RA)ではHLA-DR1やHLA-DR4などの発現が多いことが報告されている(1)7)8)

ただし、これらの遺伝子多型があるからといって必ず発症するわけではない。たとえば同じ遺伝子を持つ一卵性双生児では、一人が自己免疫疾患を発症した場合、もう一人が同じ疾患を発症する確率は、全身性エリテマトーデス(SLE)では25%程度9)、RAでは9~15%程度10)といわれている。つまり、自己免疫疾患は特定の遺伝子の異常だけで起こるわけではなく、環境因子などのリスクが加わり、それらのリスクの累積が閾値を超えたときに発症すると考えられる。

もちろん、家族歴がある場合は同じ疾患でなくても別の自己免疫疾患に罹るリスクもあるため、リスクに留意しておく必要はあるが、必要以上にリスクを気にしすぎるとストレスが高じ、かえって自己免疫疾患のリスクを高めてしまうことにもなりかねない。ストレスをはじめとする環境因子に配慮することも、自己免疫のコントロールには重要である。

表 自己免疫疾患との関連が報告されているHLA遺伝子型 表 自己免疫疾患との関連が報告されているHLA遺伝子型 <参考>
Peter Parham. 平野俊夫, 村上正晃 監訳. エッセンシャル免疫学 第4版. 第16章. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2023年8月.
山本一彦. 日内会誌. 2012; 101: 2818-2823.
「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会 編. 日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023. 第I章. 医学書院, 2023年9月.

自己免疫疾患はどのような環境で起こりやすいか?

環境要因と一口にいっても、ウイルスや細菌感染など病原微生物によるものから、喫煙やストレス、腸内環境、ホルモンなど生活習慣や身体状態に関わるものまでさまざまな因子がある(図1)。

たとえば、多発性硬化症(MS)は北欧や北米などの高緯度地域に多いことが知られており、その理由として血中ビタミンD濃度の低下や日照時間の短さが指摘されている8)。これは発症リスクとなるだけでなく、疾患活動性や予後との関係も示唆されている。SLEはその反対で、紫外線が発症リスクや増悪因子となることが知られており11)、疾患による特性の違いを理解しておくことが重要である。MSではさらに、リスク因子として喫煙やエプスタイン・バール(EB)ウイルス感染、ビタミンD不足のほか、日本人では腸内細菌叢などの関与も報告されている12)-14)。また、RAでは喫煙や歯周病、ウイルス感染、腸内環境などの関与も示唆されている10)

なお、感染により免疫応答が引き起こされる疾患の一つに、かつて膠原病に分類されていたリウマチ熱がある。これは連鎖球菌感染後に、細菌に対して産生された抗体の一部が心臓や関節、腎臓の組織と交差反応を示す一過性の疾患であり1)、原因菌や機序が判明していることから、現在では膠原病に分類されない。

周辺環境だけでなく体内環境も大事

環境因子の中では病原微生物だけでなく、常在細菌と自己免疫疾患の関連についての研究も行われている。ヒトの腸内には全身の免疫細胞の約60%が存在し、CD4陽性T細胞の一種であるヘルパー17T(Th17)細胞や制御性T細胞(Treg)が多く含まれ、多彩な細胞が存在している4)。口から入った食物は消化管内で分解されるにつれて共生微生物の数が増え、大腸には100兆個もの腸内細菌が生息しているといわれている(図315)。これらの腸内細菌と免疫細胞は密接な関係にあり、その例として、バクテロイデス属やクロストリジウム属などの細菌の一部は、それぞれTh17細胞やTregを誘導することが報告されている16)-18)

ところが自己免疫疾患患者では腸内細菌叢の多様性が低下し、健康な人に比べて特定の菌の増加や減少がみられることがある。このような状態は“dysbiosis”といわれ、生活習慣病やアレルギー、がんなどさまざまな疾患への関与が研究されている。たとえば、RA患者ではプレボテラ属細菌の増加19)20)、SLE患者では感染症に関わるストレプトコッカス属細菌の増加21)、MS患者では短鎖脂肪酸(SCFA)*を産生するクロストリジウム属細菌の減少22)やムチンを産生するアッカーマンシア属細菌の増加23)などが報告されている。さらにMSではこの結果を受け、動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスにSCFAを投与したところ、Tregの増加により炎症反応が抑制され24)、脱髄抑制や再髄鞘化が促進されたことが報告されている25)*腸内細菌によって産生される酸の一種で、酢酸、酪酸、プロピオン酸などがある。

近年は腸管と脳の相互作用を示す「脳腸相関(brain-gut axisまたはbrain-gut interaction)」に関する研究や、アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症などでもdysbiosisの研究が進んでおり、今後、腸管免疫がさまざまな疾患にどのような影響を与えているのか解明が進むことが期待される。

図3 体内の細菌数 図3 体内の細菌数 <参考>
Sender R, et al. PLoS Biol. 2016; 14: e1002533.
【参考資料】
  1. Peter Parham. 平野俊夫, 村上正晃 監訳. エッセンシャル免疫学 第4版. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2023年8月.
  2. Miller FW. Curr Opin Immunol. 2023; 80: 102266.
  3. Mazzone R, et al. Clin Epigenetics 2019; 11: 34.
  4. 山下政克 編. 基礎から学ぶ免疫学. 羊土社, 2023年11月.
  5. 西村尚子. 安部良 監修. いちばんやさしい 免疫学. 成美堂出版, 2022年4月.
  6. 田中稔之. 初めの一歩は絵で学ぶ 免疫学 「わたしの体」をまもる仕組み. じほう, 2016年8月.
  7. 山本一彦. 日内会誌. 2012; 101: 2818-2823.
  8. 「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会 編. 日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023. 医学書院, 2023年9月.
  9. 厚生労働省. 指定難病の概要、診断基準等、臨床調査個人票(告示番号1~341). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36011.html(2024年7月閲覧)
  10. 厚生労働科学研究費補助金 免疫・アレルギー疾患政策研究事業「ライフステージに応じた関節リウマチ患者支援に関する研究」研究班 編. メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド. 羊土社, 2021年12月.
  11. 難病情報センター. 指定難病一覧. https://www.nanbyou.or.jp/entry/5461(2024年9月閲覧).
  12. Zarghami A, et al. Expert Rev Neurother. 2021; 21: 1389-1408.
  13. Yoshimura S, et al. PLoS One. 2012; 7: e48592.
  14. Takewaki D, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020; 117: 22402-22412.
  15. Sender R, et al. PLoS Biol. 2016; 14: e1002533.
  16. Ochoa-Repáraz J, et al. J Immunol. 2010; 185: 4101-4108.
  17. Atarashi K, et al. Science. 2011; 331: 337-341.
  18. Atarashi K, et al. Nature. 2013; 500: 232-236.
  19. Scher JU, et al. Elife 2013; 2: e01202.
  20. Maeda Y, et al. Arthritis Rheumatol. 2016; 68: 2646-2661.
  21. Tomofuji Y, et al. Ann Rheum Dis. 2021; 80: 1575-1583.
  22. Miyake S, et al. PLoS One. 2015; 10: e0137429.
  23. Takewaki D, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020; 117: 22402-22412.
  24. Mizuno M, et al. PLoS One. 2017; 12: e0173032.
  25. Chen T, et al. J Neuroinflammation. 2019; 16: 165.

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