自己免疫疾患にまつわる知識・情報UPDATE
Vol.4 自己免疫疾患の特徴 ①全身性自己免疫疾患編
※記載されている薬剤の詳細に関しては各製剤の電子化された添付文書をご確認ください。
自己免疫疾患は免疫細胞が標的とする部位によって、全身に症状が及ぶものは「全身性自己免疫疾患」、特定の臓器や器官に症状が現れるものは「臓器特異的自己免疫疾患」と分類されている(図1)1)2)。全体では80~150種類以上の疾患があるといわれている3)4)。

難病情報センター. 病気の解説(一般利用者向け) . シェーグレン症候群(指定難病53). https://www.nanbyou.or.jp/entry/111(2024年9月閲覧).
髙崎芳成 監修. 自己免疫疾患の診断基準と治療指針 第11版. 医学生物学研究所, 2023年4月.
自己免疫疾患のうち、国内で患者数が最も多いのは関節リウマチ(RA)で82万人以上5)、特定疾患(指定難病)に指定されているものでは、全身性エリテマトーデス(SLE)が6.5万人以上に上る(図2)6)。この約50年間を振り返ると、全体として増加傾向にあり、認知度が上がってきている疾患もあるが、症状の多様性から初診で診断にたどり着かないケースも多い。
そこで本パートおよび次のパートではいくつかの自己免疫疾患を取り上げ、各疾患の概要や特徴などを紹介する。まずは全身性自己免疫疾患の中から、「RA」、「SLE」、「多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)」を概観しよう。

<関節リウマチ(RA)>
RAは関節の内側を覆う滑膜に炎症が起こり、関節の痛みや腫れが生じる疾患で、進行すると関節や骨の破壊を招く7)。
国内の患者数は82.5万人と推定され、男女比は1:3.21と女性に多い(2017年度末時点)5)8)。好発年齢は40~60代で、最近では高齢で発症する人も増えている9)。
代表的な症状は朝のこわばりで、関節の腫れや痛みは左右対称、複数の部位に現れることが多い7)。手指の第一関節に症状が出るのはまれであり、その場合は変形性関節症などが疑われる。全身症状として倦怠感や微熱、食欲低下などのほか、皮膚や眼、肺などに症状がみられることもある(図3)7)。なお、血管炎をはじめとする関節外症状があり、難治性もしくは重症な病態を伴う場合は悪性関節リウマチ(MRA)に該当する。MRAはRA患者の0.6%程度であり、特定疾患(指定難病)に指定されている。
自己抗体検査では、リウマトイド因子(RF)、抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体の陽性率はいずれも70%程度である(以下、自己抗体についてはVol.3「診断の手がかりとなる自己抗体」も参照)10)。
治療では多くの有効な薬剤が使えるようになったため、できるだけ早期に診断し、“Treat to Target(T2T)”という「目標達成に向けた治療」という概念に基づいて治療を進めることが重要とされる5)。治療薬は免疫抑制剤であるメトトレキサート(MTX)を軸とし、効果不十分な場合やMTXを使用できない場合は分子標的薬が使用される。分子標的薬では、腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン(IL)-6などの炎症性サイトカインを標的とするTNF阻害薬やIL-6阻害薬、T細胞の活性化を抑えるT細胞選択的共刺激調節薬などの生物学的製剤のほか、炎症性サイトカインの細胞内でのシグナル伝達を阻害するヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬などが用いられる。

厚生労働科学研究費補助金 免疫・アレルギー疾患政策研究事業「ライフステージに応じた関節リウマチ患者支援に関する研究」研究班 編. メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド. 第1部 I. 羊土社, 2021年12月.
<全身性エリテマトーデス(SLE)>
SLEは疾患名の語源がラテン語で「オオカミ」を意味する“lupus”と英語で「紅斑」を意味する“erythematosus”であることから想像できるように、オオカミに噛まれた痕のような紅斑(紅斑性狼瘡)を特徴とする疾患である1)。
アフリカ系やアジア系の女性に多く11)、国内で指定難病として登録されているSLE患者数は約6.5万人であるが(2022年度末時点)6)、未受診者なども含めるとこの2倍程度に上ると推定されている1)。男女比は1:9と女性に多く、特に20~40代に好発する。
症状は蝶形紅斑をはじめとする皮膚・粘膜症状のほか、筋・関節、腎、神経、心血管、肺、消化器、血液、眼などさまざまな部位に現れる(図4)1)。
自己抗体検査では、抗核抗体(ANA)の中でも特に抗dsDNA抗体、抗Sm抗体がSLEに特異的であり、陽性率はそれぞれ60~80%、20~30%程度である12)。
10年生存率は90%を超えるが、非可逆的な臓器病変や長期治療に伴う合併症などQOLの低下が課題とされている13)。治療は免疫調整剤のヒドロキシクロロキン(HCQ)や副腎皮質ステロイドを中心に、シクロフォスファミドやカルシニューリン阻害薬、ミコフェノール酸モフェチル※などの免疫抑制剤、B細胞の増殖を抑えるB細胞刺激因子阻害薬や炎症性サイトカインであるI型インターフェロン(INF)のシグナル伝達を阻害するI型INF受容体拮抗薬などの生物学的製剤も使用される。
※ミコフェノール酸モフェチルはループス腎炎の適応で用いられる。

難病情報センター. 診断・治療指針(医療従事者向け). 全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49). https://www.nanbyou.or.jp/entry/215(2024年9月閲覧)
<多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)>
PM/DMは筋肉や皮膚、肺など全身に炎症が生じる疾患であり、典型的な皮疹を伴うものはDM、皮膚症状を伴わないものはPMと呼ばれる1)。
国内で指定難病として登録されている患者数は、PM、DM合わせて約2.6万人である(2022年度末時点)6)。男女比は1:3と女性に多く、50代に好発するが、小児でもみられることがある。
筋症状は大部分の患者に現れ、主に体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下を来すが、DMでは皮膚症状のみの無筋症性DM(ADM)の場合もある(表)1)14)。皮膚症状では、三大徴候としてヘリオトロープ疹、ゴットロン丘疹、ゴットロン徴候がみられる。PM、DMともに間質性肺炎や悪性腫瘍を合併することがあり、注意が必要である。
自己抗体検査では、抗Jo-1抗体に代表される抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体が検出されることがある。抗ARS抗体陽性例では筋炎に加えて間質性肺炎を合併しやすく、関節炎やレイノー現象、発熱、機械工の手と呼ばれる皮疹などを伴うものは抗ARS抗体症候群[(抗合成酵素抗体症候群(ASS)]と呼ばれる14)。このほか、DMではmelanoma differentiation-associated gene 5(MDA5)抗体陽性例で急速進行性間質性肺炎を発症しやすいなど、特定の臨床症状と相関する自己抗体が検出されることがあり、自己抗体検査が重要である。
治療では主に副腎皮質ステロイドが用いられ、治療抵抗性の場合は免疫抑制剤が併用される1)。治療成績は向上しているが、急速進行性間質性肺炎や悪性腫瘍の合併例では予後不良である1)。

難病情報センター. 病気の解説(一般利用者向け). 皮膚筋炎/多発性筋炎(指定難病50). https://www.nanbyou.or.jp/entry/4079(2024年9月閲覧)
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班 編. 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版).
- 難病情報センター. 指定難病一覧. https://www.nanbyou.or.jp/entry/5461(2024年9月閲覧).
- 髙崎芳成 監修. 自己免疫疾患の診断基準と治療指針 第11版. 医学生物学研究所, 2023年4月.
- Hayter SM & Cook MC. Autoimmun Rev. 2012; 11: 754-765.
- Committee for the Assessment of NIH Research on Autoimmune Diseases/Board on Population Health and Public Health Practice/ Health and Medicine Division/National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. Enhancing NIH Research on Autoimmune Disease. PART I. National Academies Press, Washington DC, US, 2022.
- 日本リウマチ学会 編. 関節リウマチ診療ガイドライン2024改訂 ―若年性特発性関節炎 少関節炎型・多関節炎型診療ガイドラインを含む. 診断と治療社, 2024年5月.
- 難病情報センター. 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数. https://www.nanbyou.or.jp/entry/5354(2024年9月閲覧).
- 厚生労働科学研究費補助金 免疫・アレルギー疾患政策研究事業「ライフステージに応じた関節リウマチ患者支援に関する研究」研究班 編. メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド. 羊土社, 2021年12月.
- Nakajima A, et al. Int J Rheum Dis. 2020; 23: 1676-1684.
- 日本リウマチ学会. 患者・一般のみなさま, リウマチ性疾患と検査、薬剤について, 関節リウマチ(RA). https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/kansetsu-riumachi/(2024年9月閲覧).
- Nishimura K, et al. Ann Intern Med. 2007; 146: 797-808.
- Peter Parham. 平野俊夫, 村上正晃 監訳. エッセンシャル免疫学 第4版. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2023年8月.
- 医療情報科学研究所 編. 病気がみえる vol.6 免疫・謬原病・感染症 第2版. メディックメディア, 2018年9月.
- 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班)/日本リウマチ学会 編. 全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019. 南山堂, 2019年11月.
- 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班 編. 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版).