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自己免疫疾患

第4回 MHC(major histocompatibility complex)分子とは

順天堂大学 アトピー疾患研究センター長
順天堂大学 医学部・大学院医学研究科 特任教授、名誉教授
奥村  康 先生

東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野  裕康 先生

2012年1月掲載(審J2005080)

1.はじめに

はじめに MHC分子を説明するにあたり、おそらく大部分の人は、MHCクラスI分子とクラスII分子の構造の違いやペプチド収容溝に結合するペプチドの性質などを最初に説明されると、アレルギー反応を起こしてしまい、それ以上文章を読み進める気を失ってしまう可能性が高い。そこで、本稿ではナイーブT細胞(未だ抗原に遭遇したことのないT細胞)とエフェクターT細胞(一度抗原に遭遇して活性化されたT細胞)とに大別し、それぞれのT細胞がどのような抗原提示細胞との相互作用を介して、活性化されるのかあるいはエフェクター機能を発揮するのかについて最初に説明し、その後でMHC分子の詳しい構造について説明したい。

2.ナイーブT細胞の活性化

MHC分子による抗原提示を理解するためには、ナイーブT細胞が樹状細胞などの抗原提示細胞により活性化される場合と、一度活性化されたエフェクターT細胞が抗原を提示している細胞に遭遇し、エフェクター機能を発揮する場合に分けて考えると非常にわかりやすい。大原則となるのが、ナイーブT細胞の活性化には補助シグナル分子からの信号が必要であり、ナイーブT細胞を効率よく活性化できるのは、補助シグナル分子を高発現している成熟した樹状細胞であるということである。まず局所で病原体を取り込んだ樹状細胞は病原体由来の菌体成分や核酸などにより活性化され、ナイーブT細胞を活性化するために必要なCD80やCD86などの補助シグナル分子の発現が上昇する。それとあいまって樹状細胞はリンパ管を通り所属リンパ節へと移行していき、その病原体を認識できるT細胞受容体を持ったT細胞に抗原を提示する。樹状細胞による抗原の提示のされ方は、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞とでは異なり、さらにCD4陽性T細胞の場合には活性化時に存在するサイトカインの種類によりその後の運命が決定される。

MHCクラスII分子依存性の抗原提示は、樹状細胞が外来性抗原(例えば細菌や寄生虫、毒素など)を取り込むところから始まる。エンドサイトーシスにより小胞(エンドソーム)内に取り込まれた抗原は、小胞の成熟に伴いプロテアーゼによりペプチド断片に分解され、MHCクラスII分子に結合した抗原ペプチドとして細胞表面に発現する。ナイーブCD4陽性T細胞は、MHCクラスII分子上に提示された抗原を認識するが、同時に樹状細胞がインターロイキン(IL)-12というサイトカインを産生する状況下では、インターフェロン(IFN)γなどを主に産生するTh1(Tヘルパー1)細胞へと分化していく(図1)。一方で、この時にIL-12ではなく、IL-4の存在下で活性化されると(このIL-4産生に関与する細胞は依然として議論のあるところだが、好塩基球や一部の樹状細胞などが考えられている)Th2(Tヘルパー2)細胞へ分化し、またTGFβやIL-6存在下ではIL-17を産生するTh17(Tヘルパー17)細胞へと分化していく(詳細は次回連載を参照)。その後同じ抗原を提示しているB細胞やマクロファージなどと遭遇した場合には、それぞれ特異的な機能を発揮する。

図1.ナイーブCD4陽性およびCD8陽性T細胞の活性化 図1.ナイーブCD4陽性およびCD8陽性T細胞の活性化
ナイーブCD4陽性およびCD8陽性T細胞の活性化は樹状細胞上のMHC分子上に発現した抗原を認識し、活性化する。ナイーブT細胞の活性化にはT細胞受容体からの信号以外に、補助シグナル分子を介した信号が必要であり、樹状細胞には補助シグナルを導入することのできる代表的な分子であるCD80やCD86分子が高発現している。一般に内在性抗原はクラスI分子に、外来性抗原はクラスII分子により抗原提示されるが、一部の樹状細胞(CD8α分子を発現)は、外来抗原を取り込みクラスI分子上に抗原を提示し、CD8陽性T細胞を活性化する(クロスプレゼンテーション)。CD4陽性T細胞の場合には、活性化時に存在するサイトカインの環境によりTh1、Th2、Th17細胞などへと分化していく。樹状細胞によるナイーブT細胞の活性化は、病巣局所ではなく所属リンパ節で行われる。

一方でナイーブCD8陽性T細胞への抗原提示は、樹状細胞上に発現するMHCクラスI分子を介して行われる。一般的にクラスI分子に提示される抗原は、細胞質内で産生されたタンパク質であり、それらが細胞内のタンパク質分解のマシナリーであるプロテアソームで分解され、その一部が抗原提示されることになる。たとえば、樹状細胞にウイルスが感染した場合を考えてみればわかりやすい。細胞質内で活発に産生されたウイルス粒子の一部が、MHCクラスI分子とともに細胞表面に発現し、ナイーブCD8陽性T細胞を活性化することになる(図1)。一方で、樹状細胞の一部(CD8α分子を発現する樹状細胞)は、ある種の外来性抗原(例えば腫瘍細胞やウイルス感染細胞など)を取り込み、それらをクラスI分子上に提示することができる。このメカニズムの詳細は不明だが、この抗原提示の仕方はクロスプレゼンテーションと呼ばれており、樹状細胞に感染しないウイルスや補助シグナル分子を発現していない腫瘍細胞などに対する抗原特異的なCD8陽性キラーT細胞を誘導する上で非常に重要である。

3.抗原を発現している細胞に遭遇したエフェクターT細胞の役割

樹状細胞により既に活性化されたT細胞はエフェクターT細胞と呼ばれ、ナイーブT細胞と比較すると、抗原と遭遇した場合に、補助シグナル分子の存在を必要とせずに活性化するという特徴がある。また、ある特定のウイルスに対して既に活性化されたCD8陽性T細胞は、細胞内における細胞傷害分子であるパーフォリンなどの発現が上昇している。エフェクターCD8陽性T細胞がウイルス粒子の一部をMHCクラスI上に発現している細胞(例えば、肝炎ウイルスに感染した肝細胞やヘルペスウイルスに感染した上皮細胞など)に遭遇すると活性化され、それらの細胞に細胞死を誘導し、結果としてウイルス感染細胞は排除される(図2)。

図2.エフェクターCD4陽性およびCD8陽性T細胞の活性化 図2.エフェクターCD4陽性およびCD8陽性T細胞の活性化
樹状細胞により既に活性化されたCD4陽性およびCD8陽性T細胞(エフェクター細胞)は、抗原を提示している細胞と遭遇することで、様々な機能を発揮する。

一方で、CD4陽性T細胞は、Th1あるいはTh2細胞へと分化した細胞により発揮する機能が大きく異なる。Th2細胞は、同じ抗原を取り込んだB細胞と遭遇(この遭遇はリンパ節や脾臓の胚中心でおこる)すると活性化され、IL-4などのサイトカインを産生する。T細胞上に発現するCD40リガンド分子とB細胞表面上に存在するCD40分子の相互作用およびTh2細胞から分泌されるサイトカインにより、B細胞の産生する免疫グロブリンはIgM型からIgGやIgA、IgE型へと変化が誘導される(クラススイッチ)(図2)。さらにB細胞は記憶B細胞や形質細胞へと分化していく(詳細はB細胞の連載稿を参照)。一方、Th1型細胞は、マクロファージ上のMHCクラスII分子上に提示されたバクテリア由来の外来抗原を認識し、活性化され、IFNγなどのサイトカインを産生しマクロファージの殺菌能などを亢進させる(図2)。

4.MHC分子による抗原提示のメカニズム

前述したようにMHC分子(別名ヒトではHLA)には、クラス1分子(ヒトの場合はHLA-A、-B、-C)とクラスII分子(ヒトの場合にはHLA--DP、-DQ、-DR)がある(図3)。MHC分子は非常に多型性(それぞれが数種類から数百種類)に富んでおり、両親から対立遺伝子の片方を受け継ぎ、それぞれの対立遺伝子は優勢であることから、ヒトではクラスI分子は6種類、クラスII分子は8種類が細胞表面に発現しており、兄弟間でも完全にMHCが一致するのは4分の1である。この様にMHC分子に多型性が存在することは(つまり兄弟間でも4分の1の確率でしか完全に一致しないという事)、移植時に見られる拒絶反応の大きな原因の一つとなっている。

図3.ヒトおよびマウスのMHC遺伝子座の多型性 図3.ヒトおよびマウスのMHC遺伝子座の多型性
数字はこれまでに報告されているヒトのそれぞれの遺伝子座の多型の数を示す。ヒトの場合は両親から対立遺伝子の片方ずつを受け継ぐことから、クラスI分子は6種類、クラスII分子は8種類細胞表面に存在している。

MHCクラスI分子はほとんどすべての細胞に発現している。一般的に細胞質内に存在する抗原は、細胞質内のタンパク質分解機構であるプロテアソームにより分解される。細胞内で分解生成されたペプチドの一部は、小胞体膜上に存在するTAP1/TAP2(抗原処理関連トランスポーター)というアミノ酸トランスポーターを介して小胞体内腔へと輸送され、小胞体内に存在するMHCクラスI分子(α鎖とβ2ミクログロブリンの二量体)のペプチド収容溝に結合し構造が安定化し、細胞表面に発現する(図4A)。MHCクラスI分子に結合するアミノ酸断片の長さには特徴があり、その長さは8~10残基であり、両端のアミノ酸はMHCクラスI分子の両端に固定されている。

図4.MHCクラスI分子およびクラスII分子による抗原提示のメカニズム 図4.MHCクラスI分子およびクラスII分子による抗原提示のメカニズム
A)細胞内で産生された自己タンパク質の一部(折りたたみ不良タンパク質など)やウイルス由来のタンパク質などは、プロテアソームでペプチド断片に分解される。分解されたペプチド断片がTAP1/TAP2というチャンネルを通過し、小胞体内へと移行し、そこに存在するMHCクラスI分子のペプチド収容溝に結合し、細胞表面へと発現する。B)MHCクラスII分子に提示される抗原は、外来から取り込まれたタンパク質や細菌由来のタンパク質であり、細胞内の小胞(エンドソーム)内に取り込まれ、成熟しライソソームと融合し、その過程で取り込まれたタンパク質はライソソーム内のプロテアーゼによりペプチド断片に分解される。さらにこの小胞はMHCクラスII分子を含む小胞と融合し、ペプチド断片がペプチド収容溝に結合し、細胞表面へと発現する。インバリアント鎖(Ii鎖)は、ペプチド断片が結合する前に、小胞体内に存在するタンパク質が、MHCクラスII分子に結合するのを防いでいる。

一方でMHCクラスII分子は樹状細胞、B細胞、マクロファージなどのいわゆる抗原提示細胞に発現し、α鎖とβ鎖のヘテロ二量体から構成され、MHCクラスI分子と同様にペプチド収容溝に抗原ペプチドが結合し安定化し、細胞表面に発現する(図3)。MHCクラスII分子依存性に発現される抗原はエンドサイトーシスにより取り込まれ、エンドソームからライソゾームへと移行し、そこに存在する酸性プロテアーゼにより分解される。一方で、MHCクラスII分子は小胞体に存在し、小胞体内に存在する他のタンパク質との結合をブロックするために、インバリアント鎖(Ii)と複合体を形成して存在している。両者の存在している小胞が融合した結果Ii鎖が分解され、ペプチド断片がペプチド収容溝に結合した後に細胞表面に発現する(図4B)。MHCクラスII分子上に提示される抗原ペプチドの長さはクラスIとは異なり長さ一定ではなく、少なくとも13個以上の長さのアミノ酸断片である。

5.MHC分子に多型性の存在する意義と疾患

それでは何故MHC分子には多型性が存在する必要あるのであろうか?それにはまず、MHC分子とMHC分子のペプチド収容溝に結合できるペプチドとの関係を知る必要がある。すなわち、ある特定のMHC分子に結合することのできるペプチドと特定のMHC分子との対応は1対1ではないものの、一定の傾向がある。例えば、ある特定のMHCクラスI分子(マウスのH2-Kb)に結合できるペプチドの2番目のアミノ酸はIあるいはL、5番目のアミノ酸はFあるいはY、8番目のアミノ酸はLあるいはIというように結合するペプチドにはある特定のアミノ酸配列が存在する(Iはイソロイシン、Lはロイシン、Fはフェニルアラニン、Yはチロシン)。すなわち、ある特定のMHC分子は、ある特定の性質を持ったペプチド断片としか結合することができない。この事は、人類のすべてが同じMHC分子しか保有していないと仮定するならば、その特定のMHC分子に結合できないタンパク質で構成されたウイルスが、突然変異などにより出現した場合に、そのウイルスに対する獲得免疫応答を発動できない可能性が出てくる。こう考えると種の保存という観点から、進化の過程でMHC分子に多様性を持たせてきたということは極めて合目的なことと考えられる。

一方で、ある特定の疾患が特定のMHC(HLA型)と相関していることが示されている。例えば、強直性脊椎炎ではHLA-B27、多発性硬化症ではHLA-DR2、関節リウマチではHLA-DR4などのHLAのハプロタイプを有しているヒトの罹患率が高いことが報告されている。この理由としては、ある特定のMHC分子の遺伝子型が自己抗原ペプチドを自己反応性T細胞へと効率よく提示できずに、十分に自己応答性のT細胞の排除が起こらなかった結果である可能性を示唆している。

6.終わりに

次回は今回も話が出てきたTh1細胞やTh2細胞などのT細胞の亜群について概説する予定である。

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