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自己免疫疾患

第5回 活性化されたT細胞の機能的亜群とその運命

順天堂大学 アトピー疾患研究センター長
順天堂大学 医学部・大学院医学研究科 特任教授、名誉教授
奥村  康 先生

東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野  裕康 先生

2012年3月掲載(審J2005081)

1.はじめに

はじめに これまでの連載で述べてきたように、胸腺で分化成熟し抗原と一度も遭遇したことのない未熟なT細胞(ナイーブT細胞)は、リンパ節内で抗原を提示した樹状細胞と遭遇することにより活性化される。T細胞は活性化される細胞外環境(どのようなサイトカインが存在するかなど)により様々な機能を持ったT細胞の亜群へと分化していくことになる。また一度活性化されたT細胞(エフェクターT細胞)は、病巣局所において亜群特有の機能を発揮する。一方で、病原体などの抗原が排除された後には、セントラルメモリーT細胞(TCM)やエフェクターメモリーT細胞(TEM)となり、リンパ節や非リンパ組織に存在し、再度同一の病原体の攻撃に備えて存在している。本解説では、まずナイーブT細胞が抗原と遭遇して活性化された結果生じるエフェクターT細胞の機能的な亜群(Th1、Th2、TFH、Th17、Treg細胞など)について概説し、その後にそれらの一部の細胞から生じるメモリーT細胞について、CD4陽性細胞に焦点を絞り説明したい。

2.様々な機能を持ったエフェクターT細胞への分化

抗原刺激にともない活性化されたナイーブT細胞は、活性化された時に存在するサイトカインなどの細胞外環境によりTh1、Th2、TFH、Th17、Treg細胞などの特異的な機能を持ったT細胞へと分化していくことになる(図1)。しかしこれら分化したT細胞の有する特異的な機能は完全に固定化しているわけではなく、ある程度の可塑性がある(つまりTh1細胞がTh2細胞へと変化など)と考えられている。以下それぞれのエフェクターT細胞の分化や機能について概説したい。

図1 ナイーブT細胞から様々な系列へのエフェクターT細胞への分化 図1.ナイーブT細胞から様々な系列へのエフェクターT細胞への分化
ナイーブT細胞は、樹状細胞により活性化されるが、活性化される細胞外環境によりそれぞれ特有の機能を有するエフェクターT細胞へと分化していく。詳細は本文参照。
(1)Th1細胞

抗原を貪食し活性化された樹状細胞がインターロイキン(IL)-12と呼ばれるサイトカインを産生した場合にはT細胞はTh1細胞へと分化成熟していく。Th1細胞はインターフェロン(IFN)-γを産生し、主な機能としてはマクロファージなどの活性化を誘導し、細胞内病原細菌排除(例えば結核菌やリステリア菌など)、抗ウイルス応答や抗腫瘍応答などに関与する。Th1細胞への分化誘導にはT-betと呼ばれる転写因子が重要であり、Th1応答の亢進は臓器特異的な自己免疫疾患(例えばI型糖尿病や甲状腺炎など)などで認められる。

(2)Th2細胞

一方で、IL-4と呼ばれるサイトカイン存在化でT細胞が活性化されるとIL-4、IL-5、IL-13などのサイトカインを産生するTh2細胞へと分化していく。Th2細胞の機能としては、B細胞に働きIgG1やIgEなどの抗体産生を促進するとともに、原虫や寄生虫の排除を促進し防御的に働く。またこの反応が過剰になった場合には気管支喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギーの発症に関与することが知られている。Th2細胞の分化に中心的な役割を果たす転写因子はGATA-3である。 一昔前の免疫学の常識では、以上のような説明で十分であった。しかし、現在ではTh2細胞の分化のメカニズムは予想以上に複雑であることが明らかとなってきている。まず、Th2細胞分化に重要と考えられているIL-4を樹状細胞は産生しないことから、IL-4を産生する好塩基球が抗原提示細胞として機能している可能性が報告された。また、in vivoにおいてIL-4は必ずしもTh2細胞の分化に必須ないことも報告された。さらにその他の最新の研究成果も総合し、Th2細胞への分化誘導には好塩基球の産生するIL-4や上皮細胞が産生するTSLP、IL-25、 IL-33、また最近同定されたナチュラルヘルパー細胞が産生するIL-5、IL-13などのサイトカインが関与すると考えられるようになってきており、予想以上に複雑に制御されていることが明らかにされつつある。

(3)TFH細胞

これまでIL-4などのサイトカインを産生するTh2細胞がB細胞による抗体産生やクラススイッチには重要であると考えられてきた。一般的にB細胞の産生する抗体のクラススイッチには同一抗原を認識するエフェクターCD4陽性T細胞とB細胞との協調作用が必要であるが、この反応の場は二次リンパ組織内に存在する胚中心で行われると考えられている。最近になりIL-21やIL-6依存性に誘導され、かつCXCR5というケモカインレセプターを発現し、胚中心に局在する特殊なT細胞(濾胞性T細胞:TFH細胞と命名された)が、B細胞のクラススイッチやその後の抗体産生には重要な役割を果たしていることが明らかとなった。このような事実から、液性免疫の中心的な役割を果たしているのはTh2細胞ではなく、TFH細胞であるという新たなコンセプトが生まれつつある。TFH細胞はIL-4やIFN-γなどを産生し、それぞれIgG1やIgG2aなどの免疫グロブリンへのクラススイッチを誘導する。TFH細胞の分化にはBcl6と呼ばれる転写因子が関与する。

(4)Th17細胞

またIL-6とTGF-βの両者のサイトカインの存在下では、IL-17を産生するTh17細胞と呼ばれる細胞集団が誘導されることが明らかにされた。Th17細胞は腸管などに多く存在しており、外界から侵入してくる細菌や真菌に対する免疫応答に重要な役割を果たしている。Th1細胞が主に細胞内病原性細菌に対して防御的に働くのに対して、Th17細胞は細胞外で増殖する細菌に対して機能を発揮する。Th17細胞の分化にはRORγtと呼ばれる転写因子が必要であり、IL-17、IL-17F、IL-22などのサイトカインを産生し、好中球の活性化や、上皮細胞に作用し抗菌ペプチドなどの産生を誘導する。また、これまでTh1細胞やIFN-γが病態の主な原因であると考えられてきた実験的自己免疫性脳脊髄炎モデル(多発性硬化症類似モデル)やコラーゲン誘導関節炎モデル(関節リウマチモデル)などの病態の増悪に関与しているのは、Th17細胞であることが最近明らかにされた。

(5)制御性T細胞(Treg細胞)

これまで述べてきた細胞集団は外来抗原に対して積極的に反応し、炎症を惹起する細胞集団であったのに対し、過剰な免疫応答をブロックする集団も生体内には存在する。その代表的な細胞集団が制御性T細胞(Treg細胞)である。Treg細胞は大きく分けて胸腺内で自然に生じてくるnatural Treg(nTreg)細胞と、末梢組織においてサイトカインなどの刺激により生じるinduced Treg(iTreg)細胞の二種類に区別される。iTreg細胞はTGF-β、レチノイン酸、IL-2などのサイトカイン存在化で誘導され、Foxp3と呼ばれる転写因子がその分化誘導には必須である。Treg細胞は通常のT細胞と供培養することで、T細胞のサイトカイン産生や増殖を抑制し、免疫抑制機能を発揮するが、そのメカニズムはTGF-βやIL-10などの抑制性のサイトカインの産生や細胞表面にCTLA-4などの抑制性分子を発現するためと考えられている。Treg細胞の分化誘導に必須の転写因子であるFoxp3の機能欠損変異により重篤な全身性の自己免疫疾患が生後早期より発症することが明らかにされている。ヒトのIPEX(immune dysregulation、polyendocrinopathy、enteropathy、X-linked)症候群はこの変異によって生じることが報告されている。このことはTreg細胞の免疫抑制機能が生体の恒常性維持に必須であることを示している。

3.メモリーT細胞

同じ抗原の曝露が持続しない限り、エフェクターT細胞は1~2週間後には90%の細胞が死滅する。一部の残存したT細胞はその後大きく分けて二つの細胞集団へと分化していく。一つはセントラルメモリーT細胞(TCM細胞)であり、もう一つはエフェクターメモリーT細胞(TEM細胞)である(図2)。

図2 エフェクター細胞からメモリー細胞への分化 図2.エフェクター細胞からメモリー細胞への分化
活性化されたT細胞の90%は死滅し、残り10%の細胞がエフェクターメモリーT細胞とセントラルメモリーT細胞へと分化し、長期間生体内に存在することで、免疫学的記憶が維持される。

TCM細胞は細胞表面マーカー的にはナイーブT細胞に近く、ケモカインレセプターの一つであるCCR7や接着因子の一つであるCD62Lを発現しており、主に二次リンパ組織のT細胞領域に存在している。再度同一の抗原に暴露された場合にはIL-2を産生して速やかに増殖し、一部はTEM細胞へと分化していく。一方で、TEM細胞はCCR7やCD62Lなどの接着因子の発現が低下し、二次リンパ組織ではなく、主に炎症の局所(例えば、肺、肝臓や腸管など)に存在しており、同一抗原刺激によりIL-4、IFN-γ、IL-5などのサイトカインを大量に産生する。このような二種類のメモリーT細胞が長期間にわたり生存することで、同一の病原体が再度侵入してきた場合に速やかな免疫応答を発動することが可能となる。最近の研究では、最初に抗原と出会った時に生成されたメモリーT細胞がずっと生存するだけでなく、同じ抗原に再度遭遇した場合には、その都度新たにメモリーT細胞のプールが形成されることが明らかにされた。

4.まとめ

以上述べてきたように様々なサイトカインによりその後のT細胞の担う運命が決定され、さらに分化したT細胞はそれぞれ特有のサイトカインを産生し、様々な生体応答を担っている。しかし、一度ある系列の細胞へと分化したT細胞の運命は必ずしも固定化されているわけではなく、分化した後の細胞の存在する環境により、再度異なる系列へと移行していくことも明らかにされている。特定の系列に分化した細胞の機能亢進が、特定の疾患の病態の増悪(例えばTh2細胞によるアレルギーの増悪など)に関与していることを考えると、これらの運命決定機構を制御することで、新たな治療法の開発につながる可能性があり、今後のこの分野の研究に大きな期待が持たれる。

次回は抗体産生を担うB細胞について説明する予定である。

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