第6回 B細胞
順天堂大学 アトピー疾患研究センター長
順天堂大学 医学部・大学院医学研究科 特任教授、名誉教授
奥村 康 先生
東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野 裕康 先生
2012年10月掲載(審J2005082)
順天堂大学 アトピー疾患研究センター長
順天堂大学 医学部・大学院医学研究科 特任教授、名誉教授
奥村 康 先生
東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野 裕康 先生
2012年10月掲載(審J2005082)
T細胞が中心的な役割を果たす細胞性免疫に対して、B細胞は抗体を産生し液性免疫に中心的な役割を果たす。またB細胞はT細胞に抗原を提示する細胞としても知られている。しかしながら、同じ抗原提示細胞とは言ってもナイーブT細胞を活性化することのできる樹状細胞とは異なり、B細胞は一度樹状細胞により活性化されエフェクターCD4陽性T細胞(Th2細胞や濾胞性ヘルパーT細胞(TFH細胞))に分化したT細胞へと抗原を提示し、T-B相互作用の結果活性化され抗体を産生する。本稿ではB細胞の分化やどのようなメカニズムにより膨大な数の抗体遺伝子を産生するようになったか、またクラススイッチのメカニズム、さらにはナイーブB細胞の活性化後の運命について概説する。詳細は巻末にあげた参考図書を参照されたい。
B細胞は細胞表面にB細胞受容体(まだ抗原に遭遇した事のないB細胞の表面にはIgMの膜型の免疫グロブリン)を発現し、それらの免疫グロブリンを介して抗原を取り込むことができる(図1)。B細胞上に発現するその他の重要な分子としては後述するクラススイッチに必須の分子であるCD40分子、およびCD4陽性T細胞へと抗原を提示するためのMHCクラスII分子などを発現している。
B細胞が活性化され抗体を産生するためには、B細胞が膜型の免疫グロブリンを介して抗原を取り込むだけでは不十分であり、同一抗原を認識し既に活性化されたエフェクターCD4陽性T細胞との協調作用が多くの抗原の場合には必要である(T細胞依存性抗原)。一方で、グラム陰性桿菌の菌体成分であるリポポリサッカライドや肺炎球菌の多糖類などの多価抗原は、T細胞非依存性抗原と呼ばれ、T細胞の補助を借りずにB細胞単独で抗体産生をすることが可能である。
B細胞の分化の場は骨髄であり、胸腺で分化成熟するT細胞とは異なる分化をたどるが、本来は共通の幹細胞がそれぞれ骨髄や胸腺の微小環境により、異なった細胞系列へと分化成熟していくと考えられている。B細胞の分化のステップは非常に詳細に解析・分類されているが、かなり専門的になることから本稿では省略したい。自己に反応するT細胞が胸腺で負の選択というステップにより排除されるのと同様に、骨髄内のB細胞も同じように自己に反応するB細胞は排除される。まず骨髄内に存在する多価抗原の場合には、それに反応するB細胞に強いシグナルが誘導され、アポトーシスの結果死滅する。また、可溶性抗原の場合には、アナジーが誘導される。さらに自己応答性のB細胞が仮にこれらのステップを何らかの理由でくぐり抜けて成熟したとしても、自己応答性B細胞の認識する抗原に反応するT細胞が厳密に除去されていれば(胸腺における負の選択)、自己応答性B細胞は抗体を産生することはできない。
外界から侵入してくる病原体が無数に存在するにもかかわらず、我々の体はそれらの病原体全てに対して抗体を産生することができる。それでは、どのようなメカニズムで未だ一度も出会ったことのない病原体に対しても抗体を産生することができるのであろうか?この問題は長らく免疫学者の間での大きな謎であった。1976年に利根川進博士らにより、形質細胞(つまり抗体産生細胞)では、その他の細胞では見られない免疫グロブリン遺伝子の遺伝子再編成が生じていることが報告された(1)。これにより免疫グロブリン遺伝子の多様性(つまり抗体の多様性)は、生まれた時に既に決定されているのではなく、B細胞の分化の過程で起こる遺伝子再編成によっていることが証明された。その後1988年から1990年にかけ遺伝子再編成に関与する2つの遺伝子がDavid Baltimore博士のラボの二人の医学部学生により同定され、Recombination activation gene(RAG)1、2と命名された(2)。この2つの遺伝子は種の系統樹的には硬骨魚類以降に突然出現する事、イントロンを持たない事、さらに極めて近接した染色体上に存在していること(約18kbしか離れていない!)、自身がトランスポゼースの活性を有していることから、進化の過程で我々の細胞の中に入り込んだトランスポゾン由来の遺伝子ではないかと考えられている。
免疫グロブリン遺伝子の遺伝子再編成は、両方の染色体上にある重鎖および軽鎖がまったくランダムに開始されるわけではなく、一定の法則に則って進行し、同一のB細胞では一種類の免疫グロブリンしか産生されないように厳密にコントロールされている(対立遺伝子排除)。まず重鎖のD断片とJ断片の遺伝子再編成が両方の染色体で生じる(図2)。次に、片側の染色体でV断片とDJ断片の間での遺伝子再編成が生じ、その再編成によりタンパクをコードするような重鎖遺伝子が産生され、細胞表面に発現した場合(IgM重鎖単独ではなく、サロゲート軽鎖とともに)には、もう一方の染色体における重鎖の遺伝子再編成は抑制される(対立遺伝子排除)。重鎖の遺伝子再編成がうまく起こった細胞では、次に軽鎖(カッパー鎖あるいはラムダ鎖)のV断片とJ断片の遺伝子再編成が生じ、それがうまくいったもの(つまりタンパク質をコードするような再編成を生じたもの)が、完全な免疫グロブリン分子として細胞表面に発現する(細胞表面IgM陽性細胞)。
免疫グロブリン(抗体)は図3のように2本の軽鎖(light chain)(カッパー鎖あるいはラムダ鎖のいずれか)と、2本の重鎖(heavy chain)の4種類のタンパク質がS-S結合によりヘテロ4量体を形成している。パパインと呼ばれる酵素で消化すると、この複合体は抗原認識に関与するFabフラグメントとそれには関与しないFcフラグメントに分割される。また、抗体の重鎖は定常領域をコードする遺伝子の種類によりIgM、IgG(IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4)、IgE、IgA(IgA1、IgA2)などに分類される。一方で軽鎖は同一のB細胞ではカッパー鎖あるいはラムダ鎖の両者が使用されるわけではなく、どちらかの鎖が使用されている。またその頻度は完全にランダムというわけではなく、動物種により異なり、マウスやヒトの場合にはカッパー鎖の頻度が高い。抗体の構造からわかるように、T細胞受容体がMHC分子上に提示された1個の抗原を認識するのと異なり、抗体は理論的には同時に2つの抗原を認識することができる。
抗体の機能としては1)細菌や毒素などと結合することで、細菌や毒素の細胞への結合や侵入の阻害、2)細菌に結合することでマクロファージなどの食細胞に貪食させやすくする機能(オプソニン化)、3)細菌などに結合した抗体が補体経路を活性化させることによる溶菌作用などがある。
クラススイッチとは、抗体の抗原特異性を保ったまま免疫グロブリン遺伝子の定常領域をIgM型からIgG、IgE、IgAなどの免疫グロブリンの定常領域に変化させる現象のことである(図4)。B細胞にクラススイッチが誘導されるためには、同じ抗原を認識するTFH細胞上に発現するCD40リガンドとB細胞上に発現するCD40分子の相互作用、およびTFH細胞から分泌されるインターロイキン-4などのサイトカインが必要である。クラススイッチという現象は良く知られていたが、それを担う酵素については不明であった。2000年に京都大学の本庶佑博士らのグループはその遺伝子としてactivation-induced cystidine deaminase(AID)と呼ばれる遺伝子を同定し、この遺伝子のコードする酵素AIDを欠損したマウスや酵素活性の欠失した遺伝子変異を有するヒトではIgMからIgGなどへのクラススイッチが障害され、重篤な免疫不全となることを証明した(3)。さらに興味深い点は、AIDと呼ばれる遺伝子はクラススイッチだけではなく、B細胞が胚中心で活発に増殖する過程で生じる免疫グロブリン遺伝子の可変領域の体細胞突然変異にも関与していることが明らかとなった。体細胞突然変異という現象は、遺伝子再編成の結果産生された免疫グロブリンの抗原に対する親和性を、可変領域に選択的に突然変異を誘導し抗原に対してより親和性の高い免疫グロブリン産生B細胞を選択しようとする現象である。その結果抗原に対してより高親和性を有する抗体を我々の体の中では産生することができるようになった。
それでは何故、クラススイッチという現象が必要なのであろうか?免疫グロブリン遺伝子がクラススイッチをする最大の理由は、定常領域にはそれぞれ特有の機能を有しているからである。例えば、1)IgMの定常領域は強い補体活性化能を持ち、2)IgG1は胎盤通過能を有し、3)IgEはアレルギーに関与する肥満細胞上の高親和性IgE受容体に結合し肥満細胞を活性化することができ、4)粘膜面に分泌されるIgAは二量体を形成し(血清中のIgAは二量体を形成しない)、J鎖という小さなペプチドが結合する事で、J鎖に特異的なレセプターを介して、腸管上皮細胞や気道上皮細胞内を輸送され消化管や気道の内腔へと分泌される(トランスサイトーシス)という特徴を有している。
二次リンパ組織のT細胞領域において樹状細胞により活性化されたCD4陽性T細胞(TFH細胞)の一部はケモカイン受容体の一つであるCXCR5を発現し、胚中心へと移行していく。一方、T/B境界領域でTFH細胞(プレGC TFH細胞)が同一の抗原を取り込んだB細胞と遭遇するとT-B細胞間の相互作用の結果、一部のB細胞はクラススイッチが誘導され短寿命の形質細胞へと分化する。短寿命形質細胞の産生する免疫グロブリンは体細胞突然変異を経ていないことから、親和性は低いが、初期の感染防御には重要な役割を果たす。抗原を取り込んだその他のB細胞は胚中心へと移行し、活発に増殖し免疫グロブリン遺伝子の体細胞突然変異が誘導され、胚中心内に存在する濾胞性樹状細胞(FDC)と呼ばれる特殊な樹状細胞との相互作用の結果、抗原に対して高い親和性を持ったB細胞が選択される。またgerminal center(GC)内へと移行してきたTFH細胞(GC TFH細胞)と相互作用することで、クラススイッチも誘導される。それぞれのTFH細胞の産生するサイトカインによりIgMからスイッチする免疫グロブリンは異なり、IL-4の場合にはIgG1やIgEが、IFN-γの場合にはIgG2aが、TGF-βの場合にはIgAなどへのクラススイッチが起こる。その後これらのB細胞は、記憶B細胞や長寿命形質細胞となり胚中心を離れ、長寿命形質細胞はCXCR4と呼ばれるケモカイン受容体を発現し骨髄へと移行し長期間にわたり存在する。一度罹患した細菌などの迅速な排除には、長期間にわたり存在する記憶B細胞から速やかに分化してきた形質細胞や長寿命形質細胞の産生する高親和性抗体が中心的な役割を果たしていると考えられている。
またSLEやその他の自己免疫疾患の原因としてTFH細胞の過剰な増殖や、長寿命形質細胞の産生する自己抗体などが関与している可能性が最近の研究により指摘されている。
免疫グロブリン遺伝子とT細胞受容体遺伝子は非常に類似しており、どちらも遺伝子再編成の結果、膨大な数の異なる抗体やT細胞受容体を産生することに成功した。しかし、この遺伝子再編成の過程で当然自己に対する抗体が産生される危険性をはらんでおり、systemic lupus erythematosus(SLE)などの自己免疫疾患では自己抗体産生が認められる。国内では未承認だが、海外ではB細胞上に発現するCD20と呼ばれる細胞表面分子に対する抗体を用いてB細胞を除去する治療法が、一部のリンホーマや関節リウマチの治療に使用されるようになってきた(4)。しかしながら、抗CD20抗体に対する治療に抵抗性を示すケースが存在し、高親和性抗体を産生し、かつ長期間にわたり骨髄中に存在する長寿命形質細胞はCD20分子を発現していないことから、長寿命形質細胞に特異的に発現する分子を標的とした抗体療法の開発が待たれる。
次回はマクロファージについて概説する予定である。
参考図書:免疫生物学、笹月健彦 監約、南江堂
参考文献
1. | N. Hozumi, S. Tonegawa, Evidence for somatic rearrangement of immunoglobulin genes coding for variable and constant regions. Proc Natl Acad Sci U S A 73, 3628-3632 (1976). |
2. | M. A. Oettinger, D. G. Schatz, C. Gorka, D. Baltimore, RAG-1 and RAG-2, adjacent genes that synergistically activate V(D)J recombination. Science 248, 1517-1523 (1990). |
3. | M. Muramatsu, K. Kinoshita, S. Fagarasan, S. Yamada, Y. Shinkai, T. Honjo, Class switch recombination and hypermutation require activation-induced cytidine deaminase (AID), a potential RNA editing enzyme. Cell 102, 553-563 (2000). |
4. | S. Lee, M. Ballow, Monoclonal antibodies and fusion proteins and their complications: targeting B cells in autoimmune diseases. J Allergy Clin Immunol 125, 814-820 (2010). |
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