第7回 マクロファージ
順天堂大学 アトピー疾患研究センター長
順天堂大学 医学部・大学院医学研究科 特任教授、名誉教授
奥村 康 先生
東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野 裕康 先生
2013年6月掲載(審J2005083)
順天堂大学 アトピー疾患研究センター長
順天堂大学 医学部・大学院医学研究科 特任教授、名誉教授
奥村 康 先生
東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野 裕康 先生
2013年6月掲載(審J2005083)
我々の体は上皮(皮膚、消化管上皮、気道上皮など)に覆われており、さらに皮膚は厚い角化層、消化管や気道の上皮は消化管粘液や気道粘液などに覆われている。また上皮細胞の分泌するデフェンシンなどの抗菌ペプチドや、分泌型IgAなどが粘液中に含まれており、外界からの病原体の侵入を防御している。何らかの理由でこれらのバリアー機構に破綻が生じると、外界から病原体が侵入してくるが、その病原体の貪食に関与する細胞が、組織に存在するマクロファージや樹状細胞などである。本稿では、まず1)マクロファージの由来について最新の説を紹介し、マクロファージの機能として、2)病巣局所における細菌貪食における役割、3)細胞表面やエンドソームに存在し、病原体の構成成分や核酸を認識するToll様受容体(TLRs)、4)細胞質に存在するウイルス由来の核酸の認識に関与するRNAセンサーやDNAセンサー、5)インターロイキン(IL)-1βやIL-18などの炎症性サイトカインの放出を伴う細胞死(パイロプトーシス)、6)死細胞貪食、7)機能的な亜群としてのM1およびM2マクロファージについて概説したい。
組織に存在するマクロファージは骨髄から流入してきた単球が、各々の組織において特徴的な分化をとげたものと長い間考えられてきた。しかしながら、最近の研究から組織に存在するマクロファージは、常在している組織により3種類(卵黄嚢、胎児肝臓、骨髄)の異なる起源を持っていることが明らかとなった[1]。皮膚、脾臓、膵臓などのマクロファージや、肝臓のクッパー細胞、脳のマイクログリア(F4/80という細胞表面マーカーを高発現している)などは、卵黄嚢由来であり、一方で腎臓や肺に存在するマクロファージ(F4/80発現が低い)は卵黄嚢と骨髄由来である。さらに皮膚のランゲルハンス細胞は卵黄嚢と胎児肝由来であることが明らかとなった。上述したように大部分の組織に存在するマクロファージは卵黄嚢や胎児肝由来であり、骨髄由来の単球に容易に置換されないのに比較して、樹状細胞やF4/80の発現の低いマクロファージは、骨髄由来のマクロファージ前駆細胞(単球)に容易に置換されることが明らかとなっている。
上皮のバリアーを破壊して体内に侵入してきた細菌などは局所に存在するマクロファージや樹状細胞にまず貪食される(図1)。貪食された菌はエンドソームと呼ばれる液胞に包まれ、最終的にエンドソームはリソソームと融合することで、細菌は殺菌される。この殺菌過程で重要な役割を果たす分子が液胞膜に存在するNADPHオキシダーゼ(Nox)2と呼ばれる酵素複合体である[2]。この酵素複合体は、細胞膜に存在するgp91phoxと複数のサブユニットから構成され、刺激依存性に活性化され酸素を一電子還元してスーパーオキシドを液胞内へと産生し、産生された活性酸素種は殺菌に重要な役割を果たす(図2)。Nox2の産生する活性酸素種の重要性は、この酵素複合体を構成するサブユニットの先天的な活性低下型の変異がヒトで報告されており、いずれもカタラーゼ産生性の細菌や真菌などに対して易感染性を示すことからも示されている。
マクロファージは細菌を貪食して殺菌すると同時に、細菌やウイルス由来の構成成分や核酸などに応答して、炎症性サイトカインやケモカインを産生する(後述)。産生されたケモカインに応答して、末梢血から好中球や単球が局所に遊走し、病原体の除去を促進する(図1)。また、細菌などを取り込んだ樹状細胞はリンパ管を通り所属リンパ節へ移動し、そこに存在するナイーブT細胞を活性化し、獲得免疫系が発動されることになる。
自然免疫系は獲得免疫系と比較して、非特異的な反応と考えらてきたが、細菌の菌体成分やウイルス由来の核酸を特異的に認識する受容体がマクロファージや樹状細胞には存在しており、それらが活性化された結果、炎症性サイトカインやI型インターフェロン(IFN)などの産生が誘導される[3]。細菌などの菌体成分を直接認識する受容体としてToll様受容体(TLR)が同定され、現在までにヒトではTLR1~TLR10(マウスにはTLR11が存在し、TLR8とTLR10は存在しない)までが同定されている(図3)。特記すべき点は、T細胞受容体やB細胞受容体が遺伝子再編成により膨大な異なる受容体が生成されるのに比較して、TLRs自体をコードする遺伝子には遺伝子再編成はおこらない点である。またTLRsは細胞表面に存在するグループとエンドソームに存在するグループの大きく2群に大別できる。細胞表面に存在するそれぞれのTLRsは特異的な菌体成分の認識に関与する。例えばTLR4はグラム陰性菌由来のリポポリサッカライド(敗血症性ショックの原因因子の一つ)を、TLR2はグラム陽性菌の菌体成分であるペプチドグリカン(PGN)を、TLR2/TLR6のヘテロダイマー受容体はマイコプラズマ由来の菌体成分であるジアシルリポプロテインを認識する。これらの受容体が菌体成分を認識することにより受容体の下流に存在するシグナル伝達分子が活性化され、転写因子NF-κBが活性化され、IL-6などの炎症性サイトカインやケモカインの産生などが誘導される。
一方で、これらのTLRとは異なりエンドソームと呼ばれる細胞内の液胞の膜上にはTLR3、7、8、9などの受容体が発現しており、細胞内へと取り込まれたウイルス由来の2本鎖あるいは1本鎖RNA、DNAなどに応答して活性化され、その結果NF-κBやインターフェロンレギュラトリーファクター(IRF)sと呼ばれる転写因子群が活性化され、炎症性サイトカインやI型インターフェロン(IFN)の産生が誘導され、ウイルス感染の排除に重要な役割を果たす。
エンドソーム内に存在するTLRsは、細胞の外部に存在するウイルス由来の核酸を細胞内に取り込み、それを感知し感染防御応答を誘導する。一方で、ウイルスが細胞質内へ進入して活発に増殖するような状況の場合には、エンドソーム内のTLRsではウイルスに対してI型IFN産生を誘導することはできない。そのために次項で述べる細胞質内のウイルスセンサーが必要になってくる。
細胞質内にはウイルス由来のRNAを認識するセンサー分子の存在が明らかとなっている(図4)。それらは総称してRIG-I様受容体と呼ばれ、RIG-I、MDA5およびLGP2の3種類が存在し、水疱性口内炎ウイルス(VSV)やセンダイウイルスなどのRNAウイルス由来の2本鎖RNAや合成2本鎖RNAであるpolyI:Cなどに応答し、I型IFN産生を強力に誘導する。その後これらのアダプター分子は、ミトコンドリアの外膜上に存在するMAVS(あるいはIPS-1)と呼ばれる分子と相互作用することでシグナルの足場を形成し、IFN産生へと至るシグナル伝達経路を活性化することが明らかにされている。本来ミトコンドリアは我々の先祖の細胞に感染したバクテリア(共生微生物)と考えられるが、その細胞膜上でのシグナル伝達分子の相互作用がウイルスの排除を誘導するIFN産生に関与するということは非常に興味深い。
ウイルス由来のRNAに応答するRNAセンサーは以上述べたRIG-I様受容体であるというコンセンサスが得られているのに比較して、細胞質内に存在するDNAセンサーについては数多くのグループがセンサー分子を同定しており(DAI、DDX41、IFI16、HMGB1、RNA-dependent polymerase IIIなど)、どの分子が本当の意味でのセンサーなのかについては結論が得られない状況が続いていた。そのような中にありBarberらは小胞体膜上に存在するSTINGと呼ばれる分子が、DNAウイルス感染によるI型IFN産生に必須の分子であることを明らかにしたが、この分子が直接DNAを認識するかについては、結論は出ていなかった[4]。
一方で、バクテリアで産生されたジサイクリックGMPあるいはジサイクリックAMPをほ乳類細胞に投与することによりI型IFN産生が誘導されること、および前述したSTINGとこれらのジサイクリックヌクレオチドとの供結晶化がなされ、これらの核酸がSTINGに会合することにより、STINGの構造変化がもたらされ、活性化型の構造を取ることが明らかにされた。この研究は、ほ乳類細胞においても類似のジサイクリックヌクレオチドが存在し、I型IFN産生に関与している可能性を示している。ChenらはI型IFNの活性化を指標としたユニークなスクリーニング系を構築し、ほ乳類細胞ではサイクリックGMP-AMP(cGAMP)というジヌクレオチドがDNAウイルス感染により産生され、それらがSTINGを活性化することを初めて示した[5]。これまでにほ乳類細胞ではセカンドメッセンジャーとしてサイクリックAMPやサイクリックGMPが知られていたが、この研究はウイルス感染にともない新たなセカンドメッセンジャーとしてcGAMPが働いていることを初めて示したものである。さらにChenらはcGAMP合成酵素を同定し、cGAMP synthase(cGAS)と命名した。この酵素および酵素により産生されるcGAMPがDNAセンサーとして単独で必須の役割を果たしているのか、それともこれまでに同定された分子と相補的に働いているのかは遺伝子欠損マウスの解析を待たなければ結論はでないものの、これまでにない新たなコンセプトを提示したという点で画期的な発見であると言える。
マクロファージは細菌由来の菌体成分に応答し、細胞表面に発現しているTLRsがIL-6やTNFαなどの炎症性サイトカインを産生することは前述した。これらのサイトカインと異なりIL-1βやIL-18などのサイトカインの放出には、2つのステップが必要である。まずステップ1で、細菌由来のLPSなどによりTLR4が活性化され、その結果NF-κBが活性化されIL-1βのmRNAの上昇およびプロ体のタンパク質発現が誘導される。次にステップ2として、カスパーゼ1が活性化され、IL-1βのプロ体が切断され成熟したIL-1βが放出される。化膿連鎖球菌や大腸菌の細菌毒素、またシリカ、尿酸結晶やアスベストなどの粒子などをNLRP3と呼ばれるアダプター分子が認識し、NLRP3/ASC/caspase 1の多量体化が誘導され、最終的にカスパーゼ1の活性化が誘導される。NLRP3が細菌毒素や粒子などの一見まったく異なる構造の分子をどのようにして認識するかについては、ROSの関与が強くうたがわれ疑われているが、ROSがどのようなメカニズムによりNLRP3を含むインフラマソームを活性化するかについての結論は出ていない。その後マクロファージは炎症性サイトカインであるIL-1βの放出ととともに自身の細胞膜が破裂し、細胞死が引き起こされる。これをパイロプトーシスと呼び、アポトーシスとは形態学的にもその分子メカニズムも異なっている。インフラマソームはNLRP3を含む複合体以外に、NLRC4やAIM2などを含むインフラマソームも存在しており、AIM2インフラマソームは2本鎖DNAに応答して、IL-1βを産生することが報告されている。インフラマソームの活性化に伴うIL-1βなどの炎症性サイトカイン産生だけでなく、マクロファージにパイロプトーシスが誘導されることが、ある種の細菌の効率的な排除には非常に重要である。その一つの理由として、パイロプトーシスに伴い強力にTh1型の免疫応答が誘導されることが示されており、その結果マクロファージなどの抗殺菌作用が高まると考えられる。またNLRP3インフラマソームは痛風の原因である尿酸結晶でも活性化され、痛風発作時に使用されているコルヒチンは実はNLRP3を含むインフラマソームの活性化を抑制していることが最近明らかにされた[6]。さらにまれな疾患ではあるが自己炎症性疾患の一部は、NLRP3の機能亢進型変異で生じることが知られており、その治療としてIL-1β中和抗体が使用されている。
細胞外で増殖し、マクロファージなどの食細胞に取り込まれた菌は前述したようにまずエンドソーム/リソソーム系で殺菌されると考えられる。一方で、ある種の菌はエンドソームから細胞質へと移行することが知られており、また細胞内に寄生する細菌(例えばリステリア菌、チフス菌、レジオネラ菌など)に対して効率よく免疫応答を行うためには、このインフラマソームによるIL-1β産生は非常に有効である。さらに細菌の増殖の場を消失させるという観点からもマクロファージがパイロプトーシスで死ぬという現象は合目的な応答であると考えられる。
発生過程あるいは様々な病態の場において死細胞は生成されるが、それらは周辺に存在するマクロファージにより速やかに貪食・排除され、生体の恒常性維持が保たれている[7]。アポトーシスに陥った細胞は速やかに周囲に存在するマクロファージに貪食してもらうために、まずfind-me signalと呼ばれる信号を周囲に向けて発信する。その中でも代表的なものがATPである。このATPなどのfind-me signalに応答して、遊走してきたマクロファージが死細胞を貪食することになる。アポトーシスに陥った細胞は早期にフォスファチジルセリン(PS)と呼ばれるリン脂質を細胞表面に露出させ、それを認識してマクロファージが死細胞を貪食することになる。これまでの研究からPSを認識する受容体は複数存在し、しかもマクロファージの種類により異なる受容体を用いてPSを認識することが京都大学の長田博士らを含む多くの研究者らにより明らかにされた。例えば、炎症の起こっていない腹腔に存在する常在マクロファージはTim4という細胞表面の受容体を介して死細胞を貪食していることが明らかになっている。一方で、炎症に伴い腹腔に浸潤してきたマクロファージはMFG-E8という分子により死細胞表面のPSを認識し、MFG-E8がマクロファージ上に発現しているインテグリン分子を介して死細胞を貪食することが報告された。さらに興味深いことに、これらの受容体による死細胞貪食を阻害することにより、自己免疫疾患がマウスモデルでは誘導されることが示されており、生体の恒常性維持における死細胞の効率的な除去が必須であることが明らかにされている。
T細胞の連載でCD4陽性T細胞にはTh1細胞やTh2細胞などの機能的な亜群が存在することを解説したが、マクロファージにもそれと類似した亜群が存在することが注目されている[8]。一般的に細菌感染などにより局所に流入してくる単球-マクロファージは、TLRリガンドやIFNγなどにより活性化され、M1マクロファージとなる(classically activated macrophages,CAMs)。M1マクロファージは、TNFα、IL-6、IL-12などの炎症性サイトカインや活性酸素種、活性窒素種を産生し、Th1型の免疫応答を誘導する。さらにM1マクロファージは強い抗菌あるいは抗ウイルス活性、抗腫瘍効果を発揮する。一方で、Th2細胞や好塩基球、マスト細胞や自然リンパ球の産生したIL-4やIL-13により活性化されたマクロファージはM2マクロファージとなり寄生虫感染、組織修復、血管新生、腫瘍増殖の促進、免疫抑制機能を持つようになる(Alternatively activated macrophages,AAMs)。M2マクロファージはアルギナーゼやマンノース受容体などを強く発現している。腫瘍の進展に伴い腫瘍組織に浸潤しているマクロファージ(Tumor-associated macrophages,TAM; 腫瘍随伴マクロファージ)はM1からM2へのシフトが起こると考えられている。TAMはIL-12の発現が低く、IL-10を産生し、抗腫瘍活性が弱く、組織のリモデリングや血管新生を誘導する。これら機能的に異なるマクロファージは様々な疾患の病態形成に関与しているとしていると考えられており、M1-M2のバランスを変えることが新たな治療法となる可能性が考えられている。たとえばTh1優位の免疫応答が病態の増悪に関与する動脈硬化症などにおいては、M1からM2へとマクロファージを変化させるような治療法が、また逆にTh2優位な疾患である気管支喘息や乳がんなどでは、M2からM1へのマクロファージのシフトを誘導するような薬剤の投与も試みられている[8]。
概説してきたようにマクロファージの由来は単一の細胞集団ではなく、多彩な機能を持っている。現在がんやメタボリック症候群などの様々な病態にマクロファージが関与していることが明らかにされつつあり、今後マクロファージを標的とした新たな治療法の開発が望まれる。次回は樹状細胞について解説する予定である。
参考文献
1. | T.A. Wynn, A. Chawla, J.W. Pollard, Macrophage biology in development, homeostasis and disease, Nature 496 (2013) 445-455. |
2. | H. Sumimoto, Structure, regulation and evolution of Nox-family NADPH oxidases that produce reactive oxygen species, FEBS J 275 (2008) 3249-3277. |
3. | T. Kawai, S. Akira, Toll-like receptors and their crosstalk with other innate receptors in infection and immunity, Immunity 34 (2011) 637-650. |
4. | H. Ishikawa, Z. Ma, G.N. Barber, STING regulates intracellular DNA-mediated, type I interferon-dependent innate immunity, Nature 461 (2009) 788-792. |
5. | J. Wu, L. Sun, X. Chen, F. Du, H. Shi, C. Chen, Z.J. Chen, Cyclic GMP-AMP is an endogenous second messenger in innate immune signaling by cytosolic DNA, Science 339 (2013) 826-830. |
6. | T. Misawa, M. Takahama, T. Kozaki, H. Lee, J. Zou, T. Saitoh, S. Akira, Microtubule-driven spatial arrangement of mitochondria promotes activation of the NLRP3 inflammasome, Nat Immunol 14 (2013) 454-460. |
7. | S. Nagata, R. Hanayama, K. Kawane, Autoimmunity and the clearance of dead cells, Cell 140 (2010) 619-630. |
8. | A. Sica, A. Mantovani, Macrophage plasticity and polarization: in vivo veritas, J Clin Invest 122 (2012) 787-795. |
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