TOP 製剤情報一覧 疾患から探す 自己免疫疾患 自己免疫疾患をより良く理解するための免疫学 第8回 樹状細胞

自己免疫疾患

第8回 樹状細胞

順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 特任教授
アトピー疾患研究センターセンター長
奥村  康 先生

東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野  裕康 先生

2014年6月掲載(審J2005084)

1.はじめに

はじめに 樹状細胞は1973年に米国のRalf Steinmanらにより発見され(1)、Steinmanはその業績で2011年ノーベル医学生理学賞を受賞した。外来から侵入してきた細菌やウイルスなどを取り込んだ樹状細胞がリンパ管を通り、所属リンパ節へと移動していく。この過程で樹状細胞は活性化され、補助シグナル分子の発現等が上昇し、まだ一度も抗原に出会ったことのないナイーブT細胞へと抗原を提示し、ナイーブT細胞を活性化する。このイベントが獲得免疫の発動にあたっての最初のイベントである。本解説では、樹状細胞の起原とその機能的な亜群について概説したい。

2.起原について

各組織に存在するマクロファージが胎生期の卵黄嚢や肝臓から由来し、定常状態ではそれぞれの組織で複製・維持されているのに対して、樹状細胞は骨髄由来の短寿命(3~5日)の細胞で、随時血中のプールから局所に供給されていると考えられる。Myeloid precursor (MP)からmacrophage-DC progenitor (MDP)へ、次にFlt3Lにより樹状細胞へ分化するcommon dendritic progenitor (CDP)となり、さらにPre DCは骨髄から血中へと移行し、二次リンパ組織やそれぞれの組織においてclassical DC (cDC)へと分化する(図1)。一方で骨髄でCDPからplasmacytoid DC (pDC)へと分化した細胞は、血中に入り組織へと移行する。またMDPは骨髄でM-CSFの存在下で単球系細胞(Mono)へと分化する。炎症などが誘導される状況においては、末梢血中に存在する単球がGM-CSF依存性にmonocyte-derived DC (moDC)へと分化する(2)。

図1 樹状細胞の分化。Myeloid precursor (MP)からmacrophage-DC progenitor (MDP)へ、さらにFlt3LやM-CSFなどのサイトカインによりそれぞれDC系列と単球系列(Mono)の二つの異なる細胞系列へと分化する。 図1 樹状細胞の分化。Myeloid precursor (MP)からmacrophage-DC progenitor (MDP)へ、さらにFlt3LやM-CSFなどのサイトカインによりそれぞれDC系列と単球系列(Mono)の二つの異なる細胞系列へと分化する。

3.抗原提示細胞としての樹状細胞の成熟と運命

樹状細胞は外界と隣接している皮下組織や消化管や気道などの粘膜下組織やリンパ組織だけでなく、我々の体のあらゆるところに存在し、外来から侵入してくる異物(細菌や真菌、ウイルスなど)に対して速やかに反応できるようになっている(3)。外来異物と遭遇したことのない樹状細胞は未熟樹状細胞と呼ばれ、活性化された樹状細胞とは細胞表面分子の発現なども含めて大きく異なっている。すなわち未熟樹状細胞は貪食能は高いが、MHCクラスII分子やCD80, CD86, CD40などの補助シグナル分子の発現レベルは低い。樹状細胞は感染などが生じていない状況でも抗原を取り込んでいるが、MHCクラスIIや補助シグナル分子の発現が低いことから、ナイーブT細胞を活性化することはできない。

しかしながら、ひとたび細菌やウイルス等の感染が生じると、樹状細胞に劇的な変化が誘導される。感染に伴う様々な刺激により活性化され成熟した樹状細胞は、細菌やウイルス由来の抗原ペプチドを提示したMHCクラスIIを大量に発現するようになり、また補助シグナル分子の発現が上昇し、ケモカイン受容体であるCCR7依存性にリンパ管を通り所属リンパ節のT細胞領域へと移動する(図2)。リンパ節のT細胞領域でナイーブT細胞に抗原を提示し、同時に様々なサイトカインを放出することで、ナイーブT細胞からエフェクターT細胞への分化を誘導する。感染にともなう樹状細胞の活性化には以下の3種類のシグナルが関与していると考えられる。一番目は感染局所に浸潤してきた好中球やマクロファージなどの放出するTNFαなどのサイトカイン、2番目は感染に伴い死んだ好中球やマクロファージ等由来の死細胞由来成分、3番目が細菌やウイルス由来の成分(例えばグラム陰性菌由来のリポポリサッカライドなど)を認識するToll様受容体(TLR)(詳細は第7回のマクロファージの項参照)からの活性化シグナルである。樹状細胞は感染が起こった局所に数時間とどまり十分に抗原を取り込み活性化され、その後にリンパ管を伝わって所属リンパ節に移行し、そこでナイーブT細胞を活性化し、約1週間で寿命を終える(図2)。樹状細胞が移動していなくなった感染局所には骨髄から新たな樹状細胞が供給され、感染が継続する限り、感染巣における樹状細胞の活性化→所属リンパ節への移行というステップを繰り返す。

それでは抗原提示細胞としてのマクロファージと樹状細胞はどこが違うのであろうか?もちろん一般的にはマクロファージはナイーブT細胞を活性化することはできない。さらに前述したように樹状細胞は抗原を取り込んでから、所属リンパ節へと移行していくが、マクロファージは感染局所で活性化され感染巣に留まっている。感染に伴う生体応答を細菌と我々の免疫系との戦いに例えるとすると以下のようになる。樹状細胞は感染が起こっているという情報を獲得免疫系の司令部(ナイーブT細胞のいる所属リンパ節)に伝える斥候(せっこう:パトロール隊)である。一方でマクロファージは感染巣に留まり細菌やウイルスと戦う第一線の兵士(やや装備の面では劣る)であり、しばらくするとリンパ節で活性化されたエフェクターT細胞(抗原特異的T細胞受容体という最新鋭の武器を持った兵士)が援軍としてやってくる。局所にとどまっているマクロファージは援軍に戦いの起こっている場所(細菌やウイルスが増殖いている場所)を伝える役目を果たしていると考えられる。さらにマクロファージは到着したエフェクターT細胞に抗原を提示し活性化し、インターフェロンγなどを産生させ、マクロファージの殺菌活性を増強させる。

一方で、感染などが生じていない定常状態でも一部の樹状細胞は成熟(恒常的成熟Homeostatic maturation)し、CCR7依存性に二次リンパ組織へと移動していく。しかしながらこれらの樹状細胞はナイーブT細胞を活性化する能力は無く、中枢性寛容をまぬがれた自己反応性のT細胞の除去に関与していると考えられる。また誘導性制御性T細胞(iTreg)を誘導することで無害な外来抗原に対するT細胞の寛容の維持に働いていると考えられる。

図2 活性化された樹状細胞とマクロファージの運命。樹状細胞は抗原を取り込み活性化されるとリンパ管を通り、所属リンパ節に移行するが、マクロファージは局所に留まる。所属リンパ節で活性化されたナイーブCD4陽性T細胞はエフェクターCD4陽性T細胞となり、感染巣に移動してくる。樹状細胞が移動していなくなった感染巣には新たな樹状細胞が骨髄から供給される。 図2 活性化された樹状細胞とマクロファージの運命。樹状細胞は抗原を取り込み活性化されるとリンパ管を通り、所属リンパ節に移行するが、マクロファージは局所に留まる。所属リンパ節で活性化されたナイーブCD4陽性T細胞はエフェクターCD4陽性T細胞となり、感染巣に移動してくる。樹状細胞が移動していなくなった感染巣には新たな樹状細胞が骨髄から供給される。

4.樹状細胞の機能的な亜群

樹状細胞は存在する組織や様々な表面マーカーなどにより多数の分類がなされており、免疫学を専門に研究している人間でも、樹状細胞の研究者以外にとってすべてを理解するのは非常に困難である(図3)。そこで、本解説ではclassical DC(cDC)を抗原提示の仕方の違いにより通常のMHCクラスII依存性に抗原提示をする樹状細胞(CD11b+ cDC)と外来抗原をMHCクラスI依存性に抗原提示を行う(クロスプレゼンテーション)樹状細胞(XCR1+ cDC)の2種類に、さらにウイルス感染時に大量のI型IFN産生を行う樹状細胞(plasmacytoid DC; pDC)、および炎症時に末梢血液中の単球から分化する樹状細胞(moDC)の4種類に分類して説明していきたい(2,4)。現在でもCD8α陽性のcDCがクロスプレゼンテーションを担う細胞であるという記載も多いが、最近の研究からCD8αの発現よりも、ケモカイン受容体の一つであるXCR1の発現との相関が深いという報告があり、本稿ではその分類に従うことにする。

1) CD11b+ cDC (以前はCD8α- cDC)

樹状細胞はナイーブT細胞へと抗原を提示し、活性化することのできる唯一の細胞(例外はあり)と考えられている。以前にこのレクチャーシリーズで説明したように外来から取り込んだ抗原は細胞内のエンドソームからライソソームへと運ばれ、ライソソームに存在するプロテアーゼにより分解され、MHCクラスII分子により細胞表面へと提示される。ナイーブCD4陽性T細胞は樹状細胞により提示された抗原を認識し活性化される。この典型的な抗原提示に関与するDCのサブセットがCD11b+ cDC (以前はCD8α陰性cDC)と考えられる。

2) XCR1+ cDC (以前に言われていたCD8α+ cDC)

一見すると上述した抗原提示のされ方だけで我々の体は外来から侵入してきた異物に対して十分な免疫応答を発揮できると考えられるが、よく考えてみるとこれだけでは不十分な事がわかる。例えば肝炎ウイルスが感染した肝細胞を考えてみよう。まずウイルスに感染した肝細胞がまだ抗原に出会った事のないナーブCD8陽性T細胞を活性化するためには、細胞表面に補助シグナル分子が発現していることが必要である(ここで注意してほしいのは、一度活性化されてエフェクターとなったCD8陽性T細胞はウイルスに感染した肝細胞を攻撃することができる)。しかしながらウイルスに感染した肝細胞が補助シグナル分子を高発現しているわけではない。そこで、樹状細胞にウイルスが感染してくれれば、その問題は解決すると考えられるが、物事はそう単純ではなく、ある種のウイルスは樹状細胞に感染することができない。またがん化した細胞では多くの場合補助シグナル分子が発現していないので、これらの細胞表面に存在するがん特異的な抗原に対してナイーブCD8陽性T細胞を活性化できない。これらの不利な点を解消するために、我々の体は非常に巧妙なシステムを準備している。それがXCR1+ cDCが行うクロスプレゼンテーションという抗原提示の仕方である(5)。すなわちウイルス感染細胞やがん細胞をXCR1+ cDC細胞が貪食し、リソソームで分解し、通常ではMHCクラスII分子に抗原を提示するところを、MHCクラスI分子に抗原を提示し、ナイーブCD8陽性T細胞を活性化できるのである。この抗原提示ができることにより、樹状細胞は、樹状細胞に感染できないウイルスに感染した細胞やがん化した細胞を攻撃するCD8陽性T細胞を活性化することができる。

3) Plasmacytoid DC (pDC)

pDCはCDPから分かれ独自の分化をたどった樹状細胞である。その特徴はエンドソームにウイルス由来の核酸やRNAを認識するセンサーであるTLR7やTLR9を高発現しており、ウイルス感染時に他の細胞に比較して大量のI型IFNを産生できることである。TLR7は一本鎖RNA (ssRNA)を、TLR9は非メチル化CpG DNAをそれぞれ認識する。

4) Monocyte-derived DC (moDC)

炎症が誘導された組織では血中から炎症局所へと侵入してきたLy6C+単球が単球由来の炎症性DC(moDC)へと分化する。さらに真菌やウイルスなどの感染時にはmoDCはTNFα- and inducible NO synthase-producing DC (Tip-DC)へと分化する。TLRファミリーの発現パターンはCD11b+ DCや単球と似ており、TLR1, 2, 4, 5, 6, 13などの発現が高く、細菌の細胞壁や鞭毛などに良く反応できる。

図3 ヒトおよびマウスの樹状細胞のおおまかな分類とそれぞれの樹状細胞表面に発現するマーカー。文献2と6から改変して引用。 図3 ヒトおよびマウスの樹状細胞のおおまかな分類とそれぞれの樹状細胞表面に発現するマーカー。文献2と6から改変して引用。

5.ヒトにおけるDC欠損症の表現型

転写因子GATA2の常染色体優勢変異やデノボの変異によりDC, monocytes, B and NK lymphoid (DCML)症候群とよばれる病態が引き起こされることが報告されている(6)。この症候群の特徴としては、T細胞数は正常だが、すべてのDCサブセットが欠損し、単球が著減、B細胞とNK細胞が減少した結果、結核菌、真菌、ウイルスなどに対して易感染性となる。一方でIRF8と呼ばれる転写因子の突然変異によっても全てのDCサブセットが欠損し、単球が減少し、やはり結核菌、真菌、ウイルスなどに対して易感染性となる。

6.終わりに

免疫学の講義で最初に耳にするのが、T細胞と抗原提示細胞という言葉かもしれない。しかしながら抗原提示細胞の機能は単一なものではなく、マクロファージ、樹状細胞、B細胞などはそれぞれ特有の機能を有しており、T細胞への抗原をする状況は異なっている。この基本的な原理を理解することは、臨床医にとっても病気を理解する上で非常に重要であると考えられる。また、1973年にSteinmanの発表した樹状細胞の論文から既に40年が過ぎようとしているが、現在免疫学の分野ばかりでなく、がんの免疫療法という観点からも樹状細胞は最も注目されている細胞の一つになっており、Steinmanのノーベル賞受賞は当然の事と思われる。

次回はアレルギーについて概説したい。

参考文献

1. Steinman, R. M., and Cohn, Z. A. (1973) Identification of a novel cell type in peripheral lymphoid organs of mice. I. Morphology, quantitation, tissue distribution. J Exp Med 137, 1142-1162.
2. Haniffa, M., Collin, M., and Ginhoux, F. (2013) Ontogeny and functional specialization of dendritic cells in human and mouse. Adv Immunol 120, 1-49. 10.1016/B978-0-12-417028-5.00001-6
3. Sompayrac, L. (2012) How the Immune System Works, WILEY-BLACKWELL
4. Dalod, M., Chelbi, R., Malissen, B., and Lawrence, T. (2014) Dendritic cell maturation: functional specialization through signaling specificity and transcriptional programming. EMBO J 10.1002/embj.201488027
5. Kroczek, R. A., and Henn, V. (2012) The Role of XCR1 and its Ligand XCL1 in Antigen Cross-Presentation by Murine and Human Dendritic Cells. Front Immunol 3, 14. 10.3389/fimmu.2012.00014
6. Collin, M., Bigley, V., Haniffa, M., and Hambleton, S. (2011) Human dendritic cell deficiency: the missing ID? Nat Rev Immunol 11, 575-583. 10.1038/nri3046

JBスクエア会員

JBスクエアに会員登録いただくと、会員限定にて以下の情報をご覧になれます。

  • 最新情報をお届けするメールマガジン
    (Web講演会、疾患や製剤コンテンツ等)
  • Web講演会(視聴登録が必要)
  • 疾患や製剤関連の会員限定コンテンツ
  • 海外文献
  • 薬剤師向けの情報
JBスクエア会員の登録はこちら
領域別情報 製剤情報 関連疾患情報
お役立ち情報・患者指導箋など JBファーマシストプラザ 海外文献情報 講演会・学会共催セミナー
エキスパートシリーズ 情報誌など お役立ち素材 その他コンテンツ 新着情報