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自己免疫疾患

第9回 アレルギー

順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 特任教授
アトピー疾患研究センターセンター長
奥村  康 先生

東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野  裕康 先生

2015年4月掲載(審J2005085)

1.はじめに

はじめに アレルギーとは免疫反応が特定の抗原に対して過剰に起こる反応の総称であり、それを誘導する抗原をアレルゲンと呼ぶ。アレルギー反応はIgEの関係するⅠ型アレルギーから、感作されたT細胞の関与するⅣ型アレルギーまで知られている。T helper 2(TH2)型反応は組織修復や寄生虫の排除には非常に重要な反応であるが、その反応が過剰になった場合には喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などを引き起こす。TH2反応に関与する細胞としては自然免疫系の細胞としてマスト細胞、好塩基球、好酸球、最近特に注目されている自然リンパ球(後述)(1)などがあり、獲得免疫系の細胞としてはTH2細胞とIgE抗体を産生するB細胞がある(図1)。またサイトカインとしてはインターロイキン(IL)-4、IL-5、IL-13などのサイトカイン、およびそれらの産生を誘導すると考えられているthymic stromal lymphopoietin(TSLP)、IL-25、IL-33などがある(2)。本総説ではTH2型反応誘導のメカニズムとその反応が過剰になった場合のアレルギー反応について概説したい(2)

図1 Th0細胞(ナイーブT細胞)からの様々なエフェクターT細胞への分化。 図1 TH0細胞(ナイーブT細胞)からの様々なエフェクターT細胞への分化。
抗原提示細胞によりナイーブT細胞が活性化される状況において存在するサイトカインの違いにより様々な機能を持ったエフェクターT細胞へと分化する。長らくTH2細胞への分化にはIL-4が必須と考えられてきたが、そのパラダイムはシフトしつつある。さらに抗体産生にはTH2細胞が関与すると考えられてきたが、TH2細胞ではなく、CXCR5というケモカイン受容体を発現し、胚中心に存在するTFH細胞こそが抗体産生に重要だということが明らかにされた。

2.アレルゲンへの感作(プライミング相)

アレルギー反応は1)最初に遭遇したアレルゲンへの曝露時に生じる反応(感作あるいはプライミング相)と、2)感作を受けた後で獲得免疫系が誘導された後に、同じ抗原に曝露された時の反応(エフェクター相)に区別することができる(図2(2)。寄生虫、ダニ、花粉などのアレルゲンは、消化管、皮膚、気道などから侵入する。その結果外界とのバリアーとなっている上皮細胞に傷害が誘導され、上皮細胞からIL-25、IL-33やTSLPなどのTH2反応を促進するサイトカイン産生が誘導される。ダニ由来のプロテアーゼやパパインなどの抗原は強力にTH2反応を誘導するが、そのメカニズムの一つが上皮細胞を傷害し、上記のサイトカインの産生の結果であると捉えると非常にわかりやすい。次に放出されたこれらのサイトカインに応答して、粘膜下や上皮下に多く存在するマスト細胞や自然リンパ球が活性化され、IL-5、IL-13などのTH2サイトカインを産生する。その後寄生虫などから分泌された可溶性抗原やダニや花粉由来の抗原を局所に存在する抗原提示細胞が取りこみ、所属リンパ節に移行し、ナイーブT細胞をTH2細胞や濾胞ヘルパーT(TFH)細胞(図1)へと分化させる。分化したTFH細胞は胚中心に存在する抗原特異的B細胞と相互作用し、IL-4を産生し、IgG1やIgE抗体産生細胞(B細胞や形質細胞)を誘導し感作が成立する。

図2 Th2反応に関与する様々な細胞やサイトカイン。 図2 TH2反応に関与する様々な細胞やサイトカイン。
体外からアレルゲンの侵入により上皮細胞からTSLP、IL-25、IL-33などのTH2型反応を誘導するサイトカインが放出される。それらのサイトカインに応答してマスト細胞、好塩基球、自然リンパ球などから大量のIL-4、IL-5、IL-13などのTH2型サイトカインが放出される。侵入してきた抗原を取り込んだ樹状細胞、好塩基球、自然リンパ球は、所属リンパ節に移行し、ナイーブT細胞を活性化し、TH2細胞を誘導する。一方でTFH細胞へと分化したT細胞は、胚中心へと移動しB細胞と相互作用してB細胞にクラススイッチを誘導し、IgG1やIgEを産生する形質細胞や記憶B細胞を誘導する。

3.TH2細胞誘導のメカニズム

抗原を取り込み所属リンパ節へと移行した抗原提示細胞は、そこに存在する抗原特異的なT細胞受容体(TCR)を発現するナイーブT細胞をTH2細胞へと分化を誘導する(図2(2)。現在この活性化に関与する中心的な細胞は樹状細胞であると考えられているが、抗原の種類(可溶性抗原か、あるいは粒状抗原か)や抗原の侵入してくる部位(気道、消化管、表皮など)によっても中心的に働く抗原提示細胞が異なる可能性が指摘されている(3)。以下に1)樹状細胞の場合、2)好塩基球の場合、3)自然リンパ球の場合について概説したい。

1)樹状細胞の場合

樹状細胞がIL-4を産生しないとするならば、どのようにして樹状細胞に提示された抗原によりTH2細胞が誘導されるのであろうか?それについては現在二つのモデルが考えられている。一つは、樹状細胞が抗原提示をする時の微小環境において、IL-4が別の細胞(例えば好塩基球など)から提供されるというモデルである。もう一つはTH2型サイトカインの存在する状況では、樹状細胞がTH2型サイトカインの刺激によりTH2細胞をより選択的に誘導するように教育されているというモデルである。例えば樹状細胞が活性化される状況で上皮細胞から産生されたTSLPが存在すると、本来樹状細胞から産生されるはずのIL-12の産生が誘導されなくなり、TH1細胞が誘導されなくなることが報告されている。さらに上皮細胞から放出されたIL-25、IL-33、TSLPなどのサイトカインに応答してマスト細胞、好塩基球、自然リンパ球からIL-4、IL-5、IL-13などが産生され、このような微小環境で成熟した樹状細胞は所属リンパ節に移行し、TH2細胞を選択的に誘導するのではないかと推測されている。

2)好塩基球の場合

好塩基球は比較的寿命の短い細胞であり骨髄で分化成熟し、血中に少数ながら存在する。当初IL-3が分化に必須であると考えられていたが、その後の研究からTSLPも好塩基球の分化成熟を誘導できることが示された。IL-4産生能力のある好塩基球はMHCクラスⅡ分子や補助シグナル分子を発現し、かつ所属リンパ節に移動していくことから、TH2細胞を誘導する抗原提示細胞として機能することが示された(4)。しかし、好塩基球は取り込んだ抗原をペプチド断片にする能力が低いために、提示できる抗原は、ハプテンや断片化された抗原ペプチドなどであり、特定の抗原に対しては抗原提示細胞として働く可能性がある(5)

3)2型自然リンパ球(ILC2)の場合

自然リンパ球は自然ヘルパー細胞とも呼ばれTH細胞(図1)と同様のサイトカインを大量に産生する(1)。産生するサイトカインのパターンにより1型から3型に大別される。1型ILC(ILC1)はIFN-γを産生し、2型ILC(ILC2)はIL-5やIL-13を産生し、3型ILC(ILC3)はIL-17AやIL-22を産生する。特徴としてはT細胞やB細胞などと異なりCD3、CD4、CD8、TCR、B220などの系列マーカーを発現しておらず、ILC2の場合には好塩基球やマスト細胞と同様にIL-25やIL-33の受容体を発現している。体内の局在も通常のT細胞やB細胞と異なり、腹腔の脂肪組織や気道上皮下などに多く存在している。上皮細胞から放出されたIL-25やIL-33に応答してILC2は大量のIL-5、IL-13を産生することから、TH2反応に中心的な役割を果たすと考えられるようになった。さらにMHCクラスⅡ分子を発現していることから、抗原提示細胞として働き、TH2細胞の分化を誘導できることも報告されている。

4.抗原特異的なIgE産生

一方で、樹状細胞により活性化されたナイーブCD4陽性T細胞は転写因子Bcl6を発現し、細胞表面にケモカイン受容体の一つであるCXCR5を発現する濾胞ヘルパーT細胞(TFH)(図1)となり胚中心へと移動する(3, 6)。そこに存在する抗原特異的なB細胞受容体を持ったB細胞と相互作用し、さらにIL-4などのサイトカインを産生しB細胞のIgMからIgG1やIgEへのクラススイッチを誘導し、形質細胞や記憶B細胞への分化を誘導する。形質細胞の分泌したIgEはマスト細胞や好塩基球に発現している高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合し、次に同一の抗原が生体に侵入してきた場合には抗原により強力に受容体が架橋され、ヒスタミンやセロトニンなどの脱顆粒と、サイトカイン産生が誘導される。しかしTFH細胞も単一の細胞集団ではなく、IL-4以外にもIL-21、IFN-γ、IL-17などのサイトカインを産生する集団も知られており、TH1、TH2、TH17細胞等との相互変換の可能性など不明な点も多い(図1(6)。抗体産生にはTH2細胞が関与すると以前は考えられてきたが、最新の研究からTH2細胞ではなく、CXCR5というケモカイン受容体を発現し、胚中心に存在するTFH細胞こそが抗体産生に重要だということが明らかにされた。

5.感作後に再度同じアレルゲンに遭遇した場合の応答(エフェクター相)

感作後に再度同じアレルゲンが体内に侵入してきた場合の応答は、1)初期反応、2)後期反応、3)慢性期反応に大別することができる(7)

1)初期反応

初期反応は、数分以内に生じる急性期の反応であり、感作時と同様に局所に存在するマスト細胞、自然リンパ球などが中心的な役割を果たす。さらに感作時とは異なり、マスト細胞や好塩基球の細胞表面にはFcεRIを介して抗原特異的なIgEが結合していることから、アレルゲンによりIgE-FcεRIが架橋され、脱顆粒が誘導される。その結果TNFαなどのサイトカイン、プロスタグランジンやロイコトリエンなどのケミカルメデイエーターやヒスタミンなどが放出され、血管透過性の亢進や、気道攣縮などが誘導される。重篤な病態ではショックが引き起こされる(アナフィラキシーショック)。

2)後期反応

後期反応は感作後2~6時間後に起こり、6~9時間後にピークとなり、1~2日で収束する。皮膚においては発赤、腫脹、疼痛が出現し、肺では気道狭窄や粘液産生が誘導される。活性化したマスト細胞や自然リンパ球が放出したケモカインなどに応答して、TH2細胞や好塩基球、好中球、好酸球が局所に浸潤してくる。マスト細胞、自然リンパ球、TH2細胞から分泌されたIL-13は気道上皮での杯細胞の過形成を誘導し、IL-5は好酸球浸潤を誘導する。一方で浸潤した好酸球や好中球は上皮傷害を誘導するエラスターゼや塩基性タンパク質などを分泌する。後期反応に中心的な役割を果たす細胞はマスト細胞と長らく考えられていたが、烏山らの研究により好塩基球が重要な役割を果たす事が明らかにされた(8)

3)慢性期反応

慢性期反応は、長期間に繰り返されるアレルゲンの曝露により引き起こされる。自然免疫系細胞と獲得免疫系細胞の両者の活性化、および産生されたサイトカインなどにより炎症が増悪し、さらなる上皮傷害や細胞外マトリックスの大きな変化が誘導される。上皮バリアーが破綻した結果ウイルスや細菌などの局所への侵入も引き起こされる。その結果TH2型反応以外にTH1型反応も誘導され、最終的に線維化などが引き起こされ組織のリモデリングが誘導される。

6.TH2型反応を促進するサイトカイン

最後にTH2型反応を促進するサイトカインであるIL-4、TSLP、IL-25、IL-33について概説したい(図2)。

1)IL-4

IL-4は転写因子STAT6の活性化を介して転写因子であるGATA3の発現を誘導し、TH2細胞分化を誘導する。IL-4はin vitroの実験から長い間TH2細胞への分化に必須のサイトカインであると考えられてきた。しかしアレルゲンの種類によってはIL-4非依存的にTH2細胞が誘導されることや、樹状細胞はIL-4を産生しないことから、in vivoにおけるTH2反応へのIL-4の重要性については疑問が持たれている。抗原の種類によっては好塩基球がIL-4依存性にTH2細胞を誘導している可能性も指摘されている。

2)TSLP

TSLPは上皮細胞やマスト細胞、好塩基球から分泌されるサイトカインである。上皮傷害やdsRNAやペプチドグリカンなどの菌体成分、TNFαやIL-1βなどの炎症性サイトカインにより産生が誘導され、気道炎症においてTH2型反応を誘導する。TSLP刺激により樹状細胞には、TH2細胞をリクルートするようなケモカインの産生が誘導され、補助シグナル分子であるOX40リガンド(OX40L)などの発現も誘導される。一般的に細菌などを貪食した樹状細胞はTH1型反応を強力に誘導するIL-12やIFN-γなどを産生するが、TSLPにより刺激された樹状細胞はこれらのサイトカインを産生することができず、主にOX40Lを介してTH2細胞を誘導すると考えられる。

3)IL-25

IL-25はIL-17ファミリーに属するサイトカインであり、上皮細胞、TH2細胞、マスト細胞などから産生される。組み換えタンパク質のIL-25をアレルゲンに感作していないマウスに投与することにより、IL-4、IL-5、IL-13などのサイトカインの産生が誘導される。興味深いことにIL-25により誘導されるIL-5やIL-13産生はT細胞やB細胞の欠損したマウスでも認められることから、IL-25に応答してこれらのサイトカインを産生している主な細胞は自然リンパ球であると考えられている。またある種の寄生虫の排除にはIL-25が必須であることが示されている。

4)IL-33

IL-33はIL-1ファミリーに属するサイトカインであり、線維芽細胞や内皮細胞、上皮細胞の核内に存在するタンパク質であるが、細胞が傷害を受け細胞膜、核膜が崩壊すると細胞外に放出される(9)。ST2と呼ばれるIL-33受容体はTH2細胞やマスト細胞、好塩基球、ILC2などに選択的に発現している。組み換えタンパク質のIL-33をアレルゲンに感作していないマウスに投与することにより、血清IgE上昇、好酸球増多、IL-5、IL-13などの産生が誘導されることが明らかにされている。

7.おわりに

近年増加しているアレルギー性鼻炎などはTH2型反応が過剰になった結果生じており、先進国における衛生状態の改善にともないウイルス感染、細菌感染や寄生虫感染の減少が原因の一つと考えられている(衛生仮説)(10)。TH2型反応のメカニズムの解明が飛躍的に進歩したにもかかわらず、皮肉なことにアレルギー疾患の根本的な治療法は未だに確立されていない。筆者もアレルギー性鼻炎に悩まされる患者の一人であり、早期に根本的な治療法が開発される事を期待したい。

参考文献

1. H. Spits et al., Nature reviews. Immunology 13, 145 (2013).
2. W. E. Paul, J. Zhu, Nature reviews. Immunology 10, 225 (2010).
3. T. Bouchery, R. Kyle, F. Ronchese, G. Le Gros, Frontiers in immunology 5, 487 (2014).
4. T. A. Wynn, Nature immunology 10, 679 (2009).
5. A. Otsuka et al., Nature communications 4, 1739 (2013).
6. S. Crotty, Immunity 41, 529 (2014).
7. S. J. Galli, M. Tsai, A. M. Piliponsky, Nature 454, 445 (2008).
8. K. Mukai et al., Immunity 23, 191 (2005).
9. G. Palmer, C. Gabay, Nat Rev Rheumatol 7, 321 (2011).
10. C. M. Finlay, K. P. Walsh, K. H. Mills, Immunological reviews 259, 206 (2014).

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