第10回 自己炎症性症候群
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 特任教授
アトピー疾患研究センターセンター長
奥村 康 先生
東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野 裕康 先生
http://tohobiochemi.jp
2015年10月掲載(審J2005086)
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 特任教授
アトピー疾患研究センターセンター長
奥村 康 先生
東邦大学医学部医学科 生化学講座 教授
順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座 客員教授
中野 裕康 先生
http://tohobiochemi.jp
2015年10月掲載(審J2005086)
自己炎症性症候群(autoinflammatory syndrome)は自己免疫疾患と名前が類似しているものの、まったく異なった疾患概念であり、この疾患やその病態を知ることは非常に重要である。なぜかと言えば、自己炎症性症候群の幾つかは治療法が確立されており、この症候群を見逃すことは患者さんにとり非常な不利益をもたらすことになる。この症候群に含まれる多くの疾患は幼年時に発症することから頻回に繰り返す発熱発作などにより成長障害をもたらす可能性が大きいこと、さらにこの症候群の一部は二次的なアミロイドーシスという非常に重篤な病態に発展する可能性があることである。自己免疫疾患は自己のDNAやタンパク質に対する特異抗体が存在することから、獲得免疫系の異常と考えられるに対して、自己炎症性症候群ではそのような自己抗体は存在せず、先天的な自然免疫系の過剰応答と考えることができる。
自己炎症性症候群は単一の疾患ではなく、複数の遺伝子の変異により生じ、非感染性(感染は関係ないことが重要である)に発熱、皮膚の発赤や蕁麻疹、リンパ節腫脹、肝脾腫、腹膜炎などを生じる疾患の総称であり、発症する患者の分布地、原因となる遺伝子や症状により様々な病名で呼ばれてきた(1)。原因遺伝子は単一ではなくTumor necrosis factor receptor (TNFR)1受容体をコードする遺伝子(TNFRSF1A)やインフラマソームのセンサー遺伝子(後述)の変異など、それぞれの疾患は異なる遺伝子変異により生じることが明らかになっている。有名な疾患として家族性地中海熱(Familial Mediterranean Fever: FMF)、TNF受容体関連性発作熱(TNF receptor-associated periodic syndrome; TRAPS)や家族性寒冷自己炎症性症候群(Familial cold autoinflammatory syndrome; FCAS)などがあげられる(Table 1)。まず自己炎症性症候群の病態を理解するためには、インフラマソームと呼ばれるinterleukin (IL)-1βやIL-18産生機構のメカニズムを知ることが重要であり、まずそれについて概説したい。
Table 1. 自己炎症性症候群の名称と原因遺伝子遺伝形式 | 別名 | 原因遺伝子 | 治療法 | |
TRAPS | 常染色体優性 | 家族性ハイバーニアン熱 | TNFRSF1A | anti-TNFa抗体 |
TNFR2-Igキメラ | ||||
Anakinra | ||||
CAPS | 常染色体優性 | FCAS | NLRP3 | Anakinra |
MWS | NLRC4 | |||
NOMID (= CINCA) | ||||
FMF | 常染色体劣性 | MEFV | コルヒチン | |
(Pyrinをコード) | Anakinra | |||
Hyper IgD syndrome | 常染色体劣性 | Mevalonate Kinase | Anakinra | |
(HIDS) |
インフラマソームとは侵入してきた病原体やdanger signalを認識して形成される複合体のことであり、認識するセンサータンパク質と、センサータンパク質とカスパーゼ1前駆体との会合を仲介するアダプタータンパク質、およびカスパーゼ1前駆体から構成されている(2, 3)(図1)。インフラマソームによりカスパーゼ1が活性化され、その基質であるIL-18やIL-1βの前駆体が切断され、細胞膜も崩壊し(パイロトーシスという細胞死形態をとる)、その結果として成熟したIL-18やIL-1βが細胞外へと放出される。
多くのインフラマソームの場合にはnucleotide-binding domain and leucine-rich repeat receptor (NLR)ファミリーがセンサー分子であり、C末にロイシンリッチリピート構造、中央にNACHTドメイン、N末にCARDあるいはPyrinドメイン(PYD)を有している。上流からのシグナルにより活性化されるとNACHTドメインが多量体化し、その結果PYDを介してACSとよばれるアダプター分子のPYDとの会合が誘導される。さらにACSはCARDドメインを介してカスパーゼ1前駆体をリクルートし、カスパーゼ1を活性化する。なかでもNLRP3とよばれるセンサータンパク質を含むインフラマソームが最もよく研究されている。NLRP3はブドウ球菌やグループB群ストレプトコッカスなどのグラム陽性菌、細胞膜に穴を開けるような毒素、自己由来成分であるATP, 尿酸結晶、シリカ、アラムなどを認識し活性化される。その他にはFlagellinを認識するNLRC4インフラマソームや、DNAを認識するabsent in melanoma (AIM)2インフラマソームなどがある。現在の最大の疑問点はなぜNLRP3とよばれるセンサー分子が、構造的になんら類似性を持たない多くの分子を認識するかについてである。これについては、ミトコンドリア由来の活性酸素種やDNA、カリウムの細胞内流入などがNLRP3依存性インフラマソームの活性化に関与するなど様々なモデルが提唱されているが、結論にはいたっていない(2).
この他に非定型的インフラマソームが同定された。カスパーゼ1に類似したカスパーゼとしてカスパーゼ11が知られていたが(ヒトにはカスパーゼ11は存在せず、カスパーゼ4やカスパーゼ5がそれに対応する)、最近の研究によりNLRP3非依存性のIL-1βやIL-18の産生に関与することが明らかにされた。カスパーゼ11はNLRP3インフラマソームなどと異なりグラム陽性菌では活性化されず、グラム陰性菌により活性化される(4)。その後の研究から細胞質内に取り込まれたリポポリサッカライド(LPS)は直接カスパーゼ11, 4, 5などと会合し、カスパーゼ11を活性化することが明らかにされ、LPSによる致死的なショックにカスパーゼ11が関与していることが明らかとなったが、その詳細なメカニズムは依然として不明である。
TRAPSは別名家族性ハイバーニアン熱とも呼ばれアイルランド、スコットランド、オーストラリアや北ヨーロッパで見られる遺伝性疾患である。非感染性に発熱発作が1〜3週間持続し、関節痛、筋肉痛、皮膚の発赤、漿膜炎などの症状が出現し、自然に消退する(5)。遺伝学的には常染色体優性遺伝であることが示されていたが、その後の解析からTNFRSF1A遺伝子のTNFR1の細胞外ドメインのCDR1〜CDR3領域をコードする部位のミスセンス変異が原因であることが明らかとなった。不思議なことに膜貫通ドメインや細胞内ドメインをコードする領域には変異は存在しない(6)。当初は正常の細胞でみられるTNFα刺激に伴うTNFR1のシェデイング(細胞膜上でプロテアーゼにより切断されて、膜から遊離すること)が欠損したために、TNFαシグナルのnegative regulationがうまくいかなくなった結果、TNFαシグナルが亢進して炎症が惹起されていると考えられていた。事実TNFαの中和抗体や可溶型TNFR2の投与により症状が劇的に改善することが報告された。しかし、その後の報告からTNFα中和抗体の投与は必ずしもすべての症例で効果があるわけではないことが報告された。TNFRSF1Aの変異でこの疾患が生じていることは間違いないものの、その根底にあるメカニズムは単一ではなく、おそらく複数のメカニズムがあると考えられている(7)。
その可能性として現在有力な考えは、細胞外ドメインに存在する変異の結果TNFR1の正常なフォールデイングが障害されERに蓄積し、ERストレスを誘導している可能性が指摘されている。また、ミトコンドリアからの活性酸素産生が亢進し、その結果MAPキナーゼなどの活性化が亢進し、少量のTNFαやLPSによっても炎症性サイトカインやケモカインの産生が亢進するのではないかと考えられている(8)。
CAPSは常染色体優性の遺伝性疾患であり、インフラマソームの活性化に関与するNLRP3(別名Cryopyrin)とよばれる遺伝子のNACHTドメインの変異(機能亢進型変異)により引き起こされることが明らかにされている。この疾患の中にはfamilial cryopyrin-associated syndrome (FCAS)、Muckle-Wells syndrome (MWS)、neonatal onset multisystem inflammatory disease (NOMID) (別名でchronic infantile neurologic cutaneous and articular syndrome (CINCA))とよばれる疾患が含まれるがいずれもNLRP3の変異の結果引き起こされる。しかし、疾患の重症度は疾患名により異なり、最も重篤なNOMIDから症状の軽度なFCASまで様々であるが、IL-1受容体アンタゴニスト1 (Anakinra)が著効を呈する点では共通している。FCASの予後は良好なのに比較して、未治療群のNOMIDの予後は不良であり二次的アミロイドーシスを発症することが知られている。
最近NLRP3以外のインフラマソームの構成因子であるNLRC4もCAPSの原因遺伝子であることが報告された(9)。
PyrinをコードするMediterranean Fever (MEFV)遺伝子の劣性変異によりfamiliar Mediterranean fever(FMF)が生じる。自己炎症性症候群の中にあっては他の疾患が幼児期に発症するのに比較して遅く発症するケースもあり、発症年齢は20歳以下と言われている。Pyrinはカスパーゼ1と直接会合することでカスパーゼ1の活性化を抑制すると考えられている。そのためPyrinの機能低下によりインフラマソームの活性化が亢進し、FMFが発症すると考えられる(10)。
常染色体劣性のこの疾患も症状は上で述べてきた自己炎症性症候群と非常に類似しているものの原因遺伝子はインフラマソームに関与する遺伝子ではなく、コレステロール合成に関与するメバロン酸キナーゼである。どのようなメカニズムで症状が発症するかについての詳細は明らかとなっていないが、メバロン酸の中間代謝産物が低下した結果small GTPaseのRac1が異常に活性化し、その結果インフラマソームが活性化するのではないかと考えられている(11)。
筆者が初めて自己炎症性症候群の先駆けであるTRAPSの話を聞いたのは2000年のノルウェーでの国際TNF会議であった。その時の発表者(名前は忘れてしまったが)は原因遺伝子がTNFRSF1Aとわかった時には、クリスマスと感謝祭が同時にやってきたようなものだったと言っていたことを今でも鮮明に覚えている。その後自己炎症性症候群という概念が提唱されるようになったと考えられる。しかし現在でも自己炎症性症候群と類似した症状を呈するにもかかわらず、原因遺伝子の変異が特定されていない患者さんが多数存在している。次世代シークエンサーの普及により今後原因遺伝子の同定が飛躍的に進歩することが期待される。
参考文献
1. | J. J. Cush, Dermatol Clin 31, 471 (2013). |
2. | S. K. Vanaja, V. A. Rathinam, K. A. Fitzgerald, Trends Cell Biol 25, 308 (2015). |
3. | A. So, A. Ives, L. A. Joosten, N. Busso, Nat Rev Rheumatol 9, 391 (2013). |
4. | N. Kayagaki et al., Nature 479, 117 (2011). |
5. | L. Cantarini et al., Autoimmun Rev 12, 38 (2012) |
6. | M. F. McDermott et al., Cell 97, 133 (1999). |
7. | F. C. Kimberley, A. A. Lobito, R. M. Siegel, G. R. Screaton, Arthritis Res Ther 9, 217 (2007). |
8. | A. C. Bulua et al., J Exp Med 208, 519 (2011). |
9. | A. Kitamura, Y. Sasaki, T. Abe, H. Kano, K. Yasutomo, J Exp Med 211, 2385 (2014). |
10. | S. Papin et al., Cell Death Differ 14, 1457 (2007). |
11. | R. van der Burgh, N. M. Ter Haar, M. L. Boes, J. Frenkel, Clin Immunol 147, 197 (2013). |
JBスクエアに会員登録いただくと、会員限定にて以下の情報をご覧になれます。