ハプロ移植により小児の再発・難治性白血病を長期生存へ
福島県立医科大学 小児腫瘍科 教授
菊田 敦 先生
(審J2006185)
福島県立医科大学 小児腫瘍科 教授
菊田 敦 先生
―まず、科の特徴についてお聞かせください。
菊田先生:
通常、大学では小児科の中で各分野が分かれていますが、小児腫瘍科が診療科として大学の中で独立して設けられたのは全国でも当施設が初めてです。当施設では小児の入院患者の2分の1から3分の2は血液・腫瘍で、再発例や難治例も多いため患者さんそれぞれで最適な治療を行う必要があります。そのため、小児科や、複数の外科系診療科と協調しながらも独立性を保つ必要から、現在の体制が取られるようになりました。現在、難治性の白血病に対するハプロ移植と新薬開発を大きなテーマに研究を行っています。
―成人がんと小児がんの違いについて教えてください。
菊田先生:
小児がんは成人がんを含めたがん全体の1%未満、年間発症数は約2,500人と言われています。成人がんはさまざまな臓器に発生するのに対し、小児がんの多くは臓器間の組織から発生するという特徴があり、成人がんと大きな違いがあります。そのため、成人ではがんが発現した臓器により特徴的な症状が認められますが、小児がんは症状が乏しく、進行するまで発見されません。
また、成人がんは発症するまで10年から十数年かかりますが、小児がんは1年前後で発症し、進行も早く、発見された時点で7割以上は転移しています。そのため、成人がんでは早期に発見されれば腫瘍を除去することで治癒が見込めるため、治療の主体は手術となります。一方、小児がんの多くは転移を伴って発症し、進行した状態から治療が開始されるため、手術による完治例はごく一部です。しかし、化学療法が奏効するという特徴があります。従って、治療は多剤併用による強力な化学療法が主体となり、放射線と手術も必要により併用されます。
―ハプロ移植とはどのような移植法なのでしょうか。
菊田先生:
ハプロとはhaploidentical(半分一致)の略です。通常の造血細胞移植では、ドナーのHLAが完全に一致していることが原則ですが、ハプロ移植はHLAが半分一致のドナーから移植します。したがって、患児とHLAが半分一致する両親のほか、兄弟、おじ、おば、いとこなどからの移植が可能で、ドナーは必ず見つかるという利点があります。
―ハプロ移植が行われるようになった背景について教えてください。
菊田先生:
歴史的に、白血病に対する造血細胞移植では、移植後に移植片対宿主病(GVHD)が認められると移植片対白血病(GVL)効果も出現し、再発は少なくなること、およびHLA不一致のドナーから移植するとGVHDの頻度と重症度が増加することが明らかにされてきました。すなわち、HLA不一致の数が多いほどGVL効果により再発は少なくなりますが、重症GVHDの増加および合併症による早期死亡が増加するため、HLA不一致の移植は通常行われてきませんでした。ハプロ移植は、あえてHLA不一致の移植を行い、GVL効果による再発の抑制を期待しながら、GVHDをいかに抑制するかという考え方が端緒となった治療法です。
―適応はどのような症例でしょうか。
菊田先生:
HLA一致ドナーが見つからず、病状進行や合併症により時間が無い患者さん、生着不全の患者さん、再発や非寛解など通常の移植では治療効果が期待できない患者さんを対象としています。具体的には、治療中または移植後再発した非寛解例、フィラデルフィア染色体陽性やMLL遺伝子再構成陽性など特殊な染色体異常を伴う予後不良因子のある再発白血病です。また、寛解例でも、長期生存が2割に満たないような予後不良群を対象としています。
当科におけるハプロ移植は、14年前に開始されましたが、第一症例は非寛解例に対する母親からの末梢血幹細胞移植で、現在も無病生存が得られています。第二症例も同様に、骨髄のほとんどが白血病細胞に置き換えられた非寛解例で、強いGVL効果を期待して母親から移植を行い、現在も寛解状態にあります。このような初期の経験から再発・難治性の小児白血病に対するハプロ移植の有用性を確認し、その後症例を重ねながら、現在は小児白血病に対する造血細胞移植の9割、月に1例ほどのペースで実施しています。
―治療効果について教えてください。
菊田先生:
ハプロ移植では、HLAが異なることを目印として強いGVL効果が得られます。再発・難治性小児白血病に対するHLA一致造血細胞移植による長期生存率は10%程度ですが、ハプロ移植を実施すると4割~5割が長期生存し、またハプロ移植後の再発例に対して再度ハプロ移植した症例を含めると生存率は6割に上ります。
当科では、2000年から2013年までに約70例80回のハプロ移植を行いました。このうち、再発・難治性白血病における成績では、31例中29例(94%)に生着が認められ、移植時非寛解例20例中19例(95%)が寛解導入しました(表)。急性GVHDの頻度は、評価できた30例中、グレードⅡ~Ⅳは20例(67%)であり、このうちグレードⅢ~Ⅳの重症例は5例(17%)、慢性GVHDは24例中14例(58%)に認められました。1年後の無病生存(再発も合併症もなく生存)率は62%、2年では46%でしたが、移植後再発し、ハプロ移植を再度実施した症例を含めた全生存率は1年で73%、2年で63%という結果が得られています。
表:再発・難治性白血病に対するハプロ移植 福島医科大学の成績
実施期間、症例数 | 2000~2013年、31例 |
---|---|
観察期間 | 1-151ヶ月(中央値26ヶ月 |
生着 |
29/31(94%) 10-15日(中央値14日) |
寛解導入率(移植時非寛解症例) | 19/20(95%) |
急性GVHD |
Grade Ⅱ~Ⅳ 20/30(67%) Grade Ⅲ~Ⅳ 5/30(17% |
慢性GVHD(再燃、混合型GVHDを含む) | 14/24(58%) |
のぞみ、第117号、別冊、p8-12,2014.
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