ハプロ移植により小児の再発・難治性白血病を長期生存へ
福島県立医科大学 小児腫瘍科 教授
菊田 敦 先生
(審J2006185)
福島県立医科大学 小児腫瘍科 教授
菊田 敦 先生
―造血細胞移植では感染症対策が重要ですが、ハプロ移植における感染症対策はどのように行われているのでしょうか。
菊田先生:
ハプロ移植では、異なるHLAの免疫系が再構築されるまでに時間を要するため、通常の造血細胞移植に比べ感染リスクは非常に高いと言えます。加えて、ハプロ移植の対象は再移植例や非寛解例と、免疫機能の低下した症例や初回移植時の合併症などの発現が認められる症例です。そのため、ウイルス感染の再活性化と真菌感染症は高頻度に認められ、両者の管理が特に重要となります。
ウイルス活性化の対策としては、移植後、発熱などの症状が認められた時点からウイルス量をモニタリングし、基準値以上に達した時点で予防的に治療を開始しています。真菌感染症に対しては、ボリコナゾールまたはアムホテリシンBリポソーム製剤といったアスペルギルス属その他真菌属に有効な抗真菌剤を予防的に投与し、発症した場合は抗真菌剤を併用します。
―ハプロ移植後の感染症対策におけるIVIGの意義、投与方法について教えてください。
菊田先生:
IVIGは感染症対策の基礎的治療として重要であり、IgG500mg/dL以上を維持するために定期的にγグロブリンを補充する必要があると考えます。当院では、移植後約3ヶ月間はγグロブリンを1~2週毎に投与し、その後免疫機能が回復する時期では2~4週毎に投与し、IgG500mg/dLを維持しています。
―ハプロ移植における今後の課題にはどのようなものがあるのでしょうか。
菊田先生:
これまで良好な成績が得られている反面、合併症または再発による死亡はそれぞれ4分の1に認められており、臓器障害、感染症およびGVHDなどの合併症リスクを減少させる必要があります。ハプロ移植実施例の解析から、12歳以上の年長児では合併症の発現リスクが高いことが分かり、こうした症例に対しては移植前処置を減弱することが合併症の抑制に結びつくと考え、実施しています。一般的に、前処置の減弱では殺細胞効果の低減による再発が懸念されますが、ハプロ移植における抗腫瘍効果は、HLA不一致のドナーの免疫細胞による高いGVL効果によるため、その懸念は回避できると考えています。
―小児がん患者さんの社会的支援および長期フォローアップの取り組みについてお聞かせください。
菊田先生:
治癒後の最終目標は社会的自立であり、そのためには教育の継続が重要と考えられます。院内には須賀川養護学校医大分校があり、小・中各3学年の教室と職員室、養護教諭17名、専属事務員1名を擁し、入院患児の学習指導を行っており、料理実習、体育の授業なども行われ、教師が医療者とは違う立場で患児を精神的に支えています。化学療法、移植などで教室に行けない患児に対しては、移植中もベッドサイドで授業が行われます。
また、県内の遠方や、最近では県外からもハプロ移植を受けるために多くの患者さんが来院され、治療も長期に及びます。治療期間中、家族が宿泊できるための施設として「パンダハウス」が17年前に設立されました。パンダハウスでは、患児が両親や兄弟と一緒に過ごすことができます。私も設立当初からアドバイザーとして携り、ボランティアの支援を受けて運営されています。現在は利用率が100%を越え、施設の増築とさらなる充実を計画し、寄付を募っている状況です。
患児は、学校やパンダハウスなどでこうしたたくさんの楽しい時間を同年代の子どもたちや家族と共有し、そのことが治療に前向きに取り組むモチベーションの向上につながっています。
JBスクエアに会員登録いただくと、会員限定にて以下の情報をご覧になれます。