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低並びに無ガンマグロブリン血症

九州大学における最新治療への取り組みと
造血細胞移植の今後の展望

九州大学・大学院・医学研究院
血液・腫瘍・心血管内科  准教授
宮本  敏浩 先生

2017年9月掲載
(審J2006184)

造血器悪性腫瘍に対する新規治療薬と造血細胞移植について

―リンパ腫についてはどのようなトピックスがありますか。

宮本先生:
近年、造血器悪性腫瘍に対して新規薬剤が次々に承認されていますが、同種移植の果たす役割は引き続き大きいと思います。
例えば、human T-lymphotropic virus type-Ⅰキャリアの約5%に発症する成人T細胞白血病リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma : ATLL)は、極めて予後不良な造血器悪性腫瘍ですが、唯一の根治療法である同種移植によって、3年生存割合30~40%が期待できます2)。モガムリズマブ(mogamulizumab : Mog)は、ATLL患者の約90%に発現するC-C chemokine receptor type 4(CCR4)に対するヒト化モノクローナル抗体でATLL治療成績の向上に寄与すると期待されています。その一方で、後方視的解析でMogの同種移植前使用はGVHDを増加させる可能性が指摘されており3),4)、今後の課題になっています。

―多発性骨髄腫についてはいかがでしょうか。

宮本先生:
プロテアソーム阻害薬のボルテゾミブ、免疫調整薬であるサリドマイド、レナリドミドなどの新規薬剤は、upfrontに自家移植が予定された多発性骨髄腫の各治療フェーズに組み入れることで高い奏効割合と長い無増悪生存期間が得られる可能性が期待されていますが、同種移植後の維持療法で免疫調整薬を使用した場合もGVHDを増強させることが知られており、注意が必要です。

―白血病についてはいかがでしょうか。

宮本先生:
成人ALLの約30%を占めるPhiladelphia染色体陽性(Ph)急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia : ALL)は極めて予後不良で、5年生存割合は15~20%でした。唯一の根治療法は同種移植ですが、病勢コントロールが難しく、同種移植可能な症例は約30%にとどまっていました。
チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)はBCR-ABLキナーゼを介する遺伝子増殖シグナルを選択的に抑制することで細胞増殖抑制効果を示す画期的な薬剤であり、第一世代TKIイマチニブと化学療法の併用で完全寛解の達成割合は約95%、3年全生存割合も約60%に向上しました5)。しかし、イマチニブ併用の化学療法のみでは再発割合が90%と報告され5)、結果的には同種移植の重要性が再認識されました。第2世代TKIダサチニブ併用の化学療法はPhALLの予後をさらに改善しうる5),6)と考えられますが、現時点では同種移植が選択されることが多いです。同種移植後に微小残存病変が陽性の場合にはTKIの維持療法が有効であるといった恩恵ももたらされています。
注目すべきは第3 世代TKIポナチニブ併用の化学療法で、これまで絶対的予後不良だったPhALLが同種移植なしでも長期寛解の可能性が報告されています7)。今後、我々は次世代シークエンサーなどを用いた網羅的な遺伝子解析を行って、PhALLの中でも移植が必要な患者さんと、移植なしでポナチニブ併用の化学療法で寛解を維持できる患者さんの層別化を行う必要があると考えています。

白血病幹細胞に関する研究

―白血病幹細胞に関するご研究についてお聞かせください。

宮本先生:
私は元々白血病の発症機構を研究していました。例えば急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia : AML)の患者はM0からM7まで8タイプに分類されますが、M3を除いて残りの7タイプは全て画一的な治療を行います。膨大な数の遺伝子変異が発現する中で、個性の異なる白血病細胞に対し画一的な治療を行っても治療成績としては中間群で5年生存割合が3~4割しかありません。白血病の発症機構は個々で異なるはずだと考えて、白血病幹細胞の研究を続けた結果、前白血病幹細胞(pre-leukemic stem cell)の存在を発見しました。すなわち白血病は単発の遺伝子異常のヒットで発症するのではなく、複数の遺伝子異常が蓄積して発症する多段階白血病機構であることを提唱しました(図2)。白血病は多様性に富んだ疾患で、様々な白血病の原因遺伝子が組み合わさって発症します。そのため、私自身はAMLに対しては画一的治療ではなく、遺伝子変異に応じた分子標的薬を選択する個別化医療の必要性を当時から痛感していました。

図2 急性骨髄性白血病の多段階白血病発症機構モデル

図2 急性骨髄性白血病の多段階白血病発症機構モデル
自己複製能を有する造血幹細胞に複数の遺伝子異常が蓄積して “pre-leukemic stem cell”へと形質転換する。これらの細胞は白血病前駆細胞群を産生しながら、終には白血病幹細胞化に必須である遺伝子異常を獲得して、白血病幹細胞に進展する。
宮本敏浩 : 日本内科学会雑誌 102:1652-1660, 2013.

専門医へのメッセージ

―血液内科や若手の先生方へメッセージをお願いします。


宮本先生:
前米国オバマ大統領の国策でもありましたが、これからは個別化医療の時代です。米国では2016年3月からAMLの患者を対象に初発時に網羅的な遺伝子解析を行い、個々の患者に対しAML発症の主原因となった遺伝子変異に対する標的薬剤を選択して投与する“Beat the AML Master Trial”試験が始まっています8)。AML患者の来院後7日間以内に遺伝子変異解析を行い、最適な分子標的治療薬を選択投与する試験です。日本では未承認の薬剤も多く、治療薬の選択肢も少ないのが現状ですが、遺伝子変異解析により予後が劇的に変わる可能性が高いため、日本でも個別化医療が早期に実現できることを望んでいます。
約40年間、進歩がみられなかったAMLの治療に対し、現在、Fms-Like Tyrosine Kinase 3(FLT3)阻害薬などの分子標的治療薬が次々と開発されてきています。今後さらに期待が持たれる分野ですので、臨床及び研究に尽力していきましょう。

1) 日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会 編: 造血細胞移植学会ガイドライン第1巻, 医薬ジャーナル社, 2014.
2) Hishizawa M et al.: Blood 116 : 1369-1376, 2010.
3) Sugio T et al.: Biol Blood Marrow Transplant 22: 1608-1614, 2016.
4) Inoue Y et al.: Bone Marrow Transplant 51: 725-727, 2016.
5) Fielding AK: Am Soc Clin Oncol Educ Book e352-359, 2015.
6) Foa R et al.: Blood 118: 6521-6528, 2011.
7) Lipton JH et al.: Lancet Oncol 17 : 612-621, 2016.
8) The Leukemia & Lymphoma Society:What is beat aml

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