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重症筋無力症(MG)

重症筋無力症~小児から成人へ~ transition(移行期医療)の課題と展望

国際医療福祉大学三田病院 神経内科 部長 村井弘之 先生

国際医療福祉大学三田病院
副院長
脳神経内科 部長
村井弘之 先生

長野県立こども病院 院長補佐神経小児科 部長 稲葉雄二 先生

長野県立こども病院
副院長
神経小児科 部長
稲葉雄二 先生

2019年8月掲載
(審J2006204)
― はじめに、長野県立こども病院 神経小児科の概要についてお聞かせください。

稲葉先生:
当院には昨年赴任しましたが、それ以前は信州大学医学部小児科に勤務しており、現在も非常勤で診療しています。長野県ではこの2施設が小児医療の中核施設となるため、小児の重症筋無力症(Myasthenia Gravis:MG)患者さんはどちらかの施設で治療を受けています。私たちが診ている患者数は約20人ですが、県内の小児人口から換算しますとほぼ全ての患者さんが集まっているといえます。このように小児例は少なく経験が集積されにくいため、3年前に小児免疫性神経筋疾患(MG/CIDP)研究会を立ち上げ、難治例をはじめとする全国の症例について情報を共有し、治療方針などを相談できる環境を整えました。そこで得られる経験も大きいです。

― 稲葉先生のご専門、研究テーマについてお聞かせください。

稲葉先生:
小児神経・発達分野などの神経疾患全般を診療しますが、特に発達障害、てんかん、神経免疫疾患を専門としています。研究面ではMGを含む神経免疫疾患の病態解析を主なテーマの1つとしています。

― 次に、国際医療福祉大学三田病院 神経内科の概要についてお聞かせいただけますか。

村井先生:
国際医療福祉大学医学部は2017年4月に開校したばかりの新しい施設で、私は同大学三田病院に1月に赴任しました。赴任後間もないため、受け持つMG患者数は現在20~30人程度です。2016年12月まで九州大学医学部神経内科に勤務しており、当時は九州一円から患者さんが紹介されてきましたので、平均120人位のMG患者さんをフォローしていました。

― 村井先生のご専門、研究テーマについてお聞かせください。

村井先生:
頭痛、脳卒中、認知症、てんかん、パーキンソン病、神経難病など神経疾患全般を診療しますが、特に神経免疫疾患を専門としています。研究は神経免疫疾患の中でもMGとプリオン病が中心です。

小児期発症MGと成人期発症MGの違いについて

― 疫学と病態の特徴をそれぞれ解説いただけますか。
稲葉先生:
小児期発症MGは一般的に15歳以下で発症するMGです。本邦では過去のMG全国臨床疫学調査1,2)でも幼児期発症MGが多く、2006年の調査3)においても5歳未満発症MGの割合は7%で、3歳位に1つのピークがみられます(図1)。これには人種差が関係しており、日本をはじめとした東アジアから東南アジアに幼児期発症MGが多い傾向にあります。

村井先生:
2006年の調査時点では人口10万人あたりの推定MG有病率は11.8人でした。しかし、調査から既に12年が経過した現在では、特定疾患医療受給者証交付件数は2万人を超え4)、有病率もさらに増加していることが推測されます。特に発症年齢が50歳以上の後期発症例が増加し、65歳以上の高齢発症MGは1987年には7.3%でしたが、2006年には16.8%となり、確実に増加していることが明らかとなりました(図1)

稲葉先生:
小児期発症MGの基本病態は成人期発症MGと同じですが、成人例と比較すると血清中の自己抗体が陰性である(seronegative)症例が多いことが特徴といえます5-7)。自己抗体陽性例のほとんどがアセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性例で、筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性例は少ないですが、最近は小児例の報告も蓄積されつつあります。また、ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen : HLA)との関連が知られています8)
小児例でもMGFA分類が使用されますが、臨床の場では純粋眼筋型、潜在性全身型、全身型の分類がよく用いられます。5歳未満発症例の約80%3)が眼筋症状のみを呈しますが、瀬川らの報告9)では小児の眼筋型の中には四肢筋罹患を認める潜在性全身型が約半数含まれることが示されており、それらを除くと純粋眼筋型は成人の眼筋型とほぼ同比率になります。潜在性全身型の診断には反復刺激試験が必要で、病型分類に基づいた治療を行っています。

村井先生:
成人の場合はMGを早期発症MG(early-onset MG : EOMG)、後期発症MG(late-onset MG : LOMG)、胸腺腫関連MG(thymoma-associated MG : TAMG)の3つに分けるE-L-T分類10)がしばしば使われます。我が国ではMG全体の約80%がAChR抗体陽性で、約10%がMuSK抗体陽性、残りがLrp4抗体や未知の抗体と考えられます11)。TAMGではAChR抗体はほぼ100%陽性で、クリーゼや球症状など重篤な症状を呈する頻度が高いことが特徴です。TAMGは50歳をピークに減少します。また、50歳までは胸腺過形成がみられる頻度が高いですが、50歳以上ではほとんどみられません。EOMGは女性の比率が高いですが、LOMGでは性差がありません。また、LOMGでは眼筋型の比率が38%と他2群(EOMG:15%、TAMG:12%)よりも高く10)、小児期発症MGと同様の傾向がみられました。

図1 1987年と2006年の発症年齢別のMG患者数

図1 1987年と2006年の発症年齢別のMG患者数
村井弘之 : 日本臨床 73 : 472-476, 2015.
― 治療目標、治療についてはいかがですか。

稲葉先生:
小児では成人の病態と異なりTAMGは少なく、また、自然寛解例が多いことも特徴の1つです。そのため発達過程の子供に対し最小限の治療を行い、後遺症なく成人期を迎えられることが最大の治療目標になります。眼筋型は抗コリンエステラーゼ薬が第一選択で、反応不良であれば早期に副腎皮質ステロイド薬(以下、ステロイド薬)を投与します。全身型ではステロイド薬を第一選択としますが、反応不良であれば躊躇せず、次のステップとなる免疫抑制薬を投与します。免疫抑制薬はタクロリムスを併用することが多く、難治例にはシクロスポリンやアザチオプリンなどを使用することもあります。潜在性全身型の治療法は基本的には全身型と同様の考え方で行われます。

※本邦では小児MGに対しては未承認

村井先生:
成人期発症MG治療の最初の到達目標は、「経口プレドニゾロン5mg/日以下でminimal manifestation(MM:軽微症状)レベル」であり、これを早期達成するために治療戦略を考えます。胸腺腫合併MGでは胸腺摘除術は必須ですが、胸腺腫非合併MGに対する胸腺摘除術については、MGTX study12)が報告されましたが、その結果からは他の治療法と同様にオプションの1つとして考えます。
以前は漸増・漸減投与法による高用量経口ステロイド治療が普及していましたが、現在ではステロイド量は少量(通常は10mg/日以下、多くても20mg/日までの期間が3ヵ月を超えていないこと)とし、早期から免疫抑制薬を投与します。反応不良であればIVIgや血液浄化療法、ステロイド・パルス療法などを組み合わせて、強力で速効性のある治療を積極的に行い、短期間に症状を改善させる方法(早期速効性治療戦略:EFT,early fast-acting treatment)が提唱されています(図2)

図2 全身型MGの治療方針の例

図2 全身型MGの治療方針の例
村井先生ご提供

稲葉先生:
小児の場合も、従来より行われてきたステロイド薬の長期大量投与による眼科的合併症や低身長をはじめとする副作用の問題が重要視されるようになっています。「重症筋無力症診療ガイドライン2014」13)の治療指針に示されている通り、ステロイド薬はできる限り低用量とし、必要に応じて早期から免疫抑制薬などを併用する治療に変わってきています。

表1 小児期発症MGと成人期発症MGの違い

表1 小児期発症MGと成人期発症MGの違い
両先生のご対談内容から作表

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