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重症筋無力症(MG)

がん免疫療法関連重症筋無力症と筋炎の特徴と臨床における考え方

慶應義塾大学医学部 神経内科 鈴木 重明 先生

慶應義塾大学医学部 神経内科 准教授
鈴木 重明 先生

2021年9月掲載
(審J2109106)

※本⽂内に記載の薬剤をご使⽤の際には、製品添付⽂書をご参照ください。

― はじめに慶應義塾大学医学部神経内科についてお聞かせください。

鈴木先生:
当科では、中枢神経、末梢神経、筋肉を侵す様々な内科疾患を診療しており、神経疾患に精通した専門医が在籍しています。神経内科疾患のなかでも特に、重症筋無力症や多発性硬化症などの神経免疫疾患、パーキンソン病、脳卒中の患者さんを多く診療しています。新たな治療をできる限り早期に患者さんに届けるべく、大学病院として治験も積極的に実施しています。

がん免疫療法と免疫関連有害事象

― がん細胞の発生から腫瘍形成に至る過程についてお教えください。

鈴木先生:
がん細胞が発生し、腫瘍が形成されるまでには3つのステージがあります。まず排除相ですが、ここでは免疫監視機構がしっかり働いているので、がん細胞は認識され排除されます。次の平衡相では、免疫監視機構の働きによって、がん細胞の増殖を防いでいる状態です。3番目の逃避相は、がん細胞が免疫監視機構による認識と排除から逃れる能力を獲得し、がんが顕在化すると考えられています。

― がん免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)について教えていただけますか。

鈴木先生:
近年、さまざまながんにおいて、免疫細胞の浸潤と、がんによる免疫抑制が生じている状況が明らかになり、その状況下で予後改善効果を示すICIsが、新たな武器としてがんの臨床で使用されています1)
免疫チェックポイントは、免疫応答を調節し、正常な組織が免疫応答によって攻撃されることを防ぐ役割を担っています。programmed cell death 1(PD-1)は、細胞傷害性T細胞上に発現する免疫チェックポイント分子で、T細胞の活性化を抑制すると考えられています。がん細胞は、この免疫チェックポイントを活性化するため2)、ICIsは、免疫チェックポイントの作用を阻害することによって、免疫細胞ががん細胞を異物として攻撃することを可能にします。
現在、種々のがんに対するICIsの治験が多数進行しています。日本では6種類のICIsが承認されており、適応のがん腫も年々広がってきていますが、一方で、高額な医療費や重篤な副作用が多い3)ことが問題となっています。

がん免疫療法に伴う重症筋無力症(Myasthenia gravis:MG)

― 日常診療で経験する一般的なMG(idiopathic MG:iMG)について教えてください。

鈴木先生:
重症筋無力症(MG)は、神経筋接合部のシナプス後膜上の分子に対する臓器特異的自己免疫疾患で、筋力低下を主症状とする疾患です。アセチルコリン受容体(AChR)を標的とする自己抗体を85%、筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)を標的とする自己抗体を5-10%の割合で認めるとされています。主な症状は、眼瞼下垂、複視などの眼症状や骨格筋の筋力低下であり、易疲労性や日内変動を認めることなどが特徴です。

― 神経・筋の免疫関連有害事象(irAEs)にはどのような特徴がありますか。

鈴木先生:
ICIs投与例の3~5%に、神経・筋のirAEsが発症するのではないかと考えています。irAEsの神経・筋障害としては、重症筋無力症や筋炎を含む多彩な疾患があり、ICIs投与開始後2ヵ月以内の頻度が高いことが特徴です。複数の疾患が重複して認められる場合もあり、急速に症状が進行して重篤化する可能性があります。ICIs使用の増加に伴い、irAEsも増加しています。

― irAEsに適切に対応するためには、どのように備えればよいでしょうか。

鈴木先生:
irAEsは早期に発見し、治療することが重要です。ステロイドや免疫グロブリン製剤などによる的確な対処をするため、今後、神経内科医にコンサルトされて来るケースはますます増えると推察しています。通常、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE)のGrade 3~5が重症と判断されますが、Grade 3以上のirAEsの場合は入院が必須です。特に重篤な症例では、脳神経内科医が中心になって治療を行ったほうがいい場合がありますので、重篤なirAEsが起きた場合のコンサルテーション体制を、ICIs投与前に準備していただければと思います。

― ICIsのirAEsとして発症する重症筋無力症(irAE-MG)はどのように診断されるのですか。

鈴木先生:
irAEs-MGは、一般的なMG(idiopathic MG:iMG)の臨床症状とは明らかに異なります。
ICIsによるirAEsは、軽症なものから、運動障害、感覚障害、嚥下困難、首下がりなどの特徴的な神経所見まで、ICIs開始早期に見られます。身体所見や神経学的所見、画像検査などにより除外診断を行った上で、神経内科医による局在診断によって神経・筋のirAEsを診断します。代表的な神経・筋のirAEsは、自己免疫性脳炎、無菌性髄膜炎、脊髄炎、多発神経根炎、MG、筋炎です。

― irAEs-MGの臨床像についてお教えください。

鈴木先生:
最初のPD-1阻害薬発売開始から2年間の市販後調査の結果、当該薬剤が投与された約1万例のうち、12例にirAEs-MGが認められました。irAEs-MG 12例において、irAEs-MG発症までの期間は初回投与後平均29日、平均年齢73.5歳、喫煙4例、原疾患としてはメラノーマ5例、非小細胞性肺がん6例、大腸がん1例でした4)
12例中9例(75%)が2回目投与までにirAEs-MGを発症していますので、初回投与後、2回目までは特に注意が必要です。irAEs-MG発症後にPD-1阻害薬投与を継続していた症例が含まれていましたが、ICIsを最後の治療として使っていますので、軽症の場合はICIsを継続するのが実臨床での対応であろうと思います。

― irAEs-MGの検査所見としてどのようなものがありますか。

鈴木先生:
MGFA(米国重症筋無力症財団)重症度分類における重症(Class 4以上)がirAEs-MG群(12例)では58%であったのに対して、iMG群(105例)では10%でした。また、顔面筋まひ(42% vs 11%, p=0.02)、嚥下困難(58% vs 22%, p=0.02)、構音障害(50% vs 17%, p=0.02)呼吸困難(67% vs 11%, p<0.001)がirAEs-MG群で有意(χ2検定)に多いことが示されました。また、iMG群ではCK値上昇は認められませんでしたが、irAEs-MG群のCK平均値は4,799 IU/Lと極めて高値でした4)
MGの診断では、病原性自己抗体、アセチルコリン受容体抗体(AChR抗体)あるいはMuSK抗体の測定が基本とされており、irAEs-MGも診断基準は同じです。irAEs-MG群、iMG群ともに、AChR抗体は陽性、MuSK抗体はほぼ陰性でした(図14)。irAEs-MG症例では、AChR抗体陽性例が83%を占めていましたが、実臨床では50~60%程度だと思います。また、陽性の場合の抗体価は、irAEs-MGでは0.5~0.6といった値になることがあります。

図1 血清CKと自己抗体

図1 血清CKと自己抗体
※:χ2 検定
  *:マン・ホイットニーのU検定
(Suzuki S et al.: Neurology. 89: 1127–34, 2017.より改変)
― irAEs-MGに対して、どのような治療が行われますか。

鈴木先生:
全12例でPD-1阻害薬を中止し、免疫抑制療法が開始されました。iMG群と比較して、irAEs-MG群では免疫グロブリン投与例が多く、人工呼吸管理をしていることが特徴です4)表1)。ステロイドの効果は良好で、軽症のirAEs-MGの場合、治療開始2~3週後には症状は軽快しています。一方、重篤な症例では、治療開始後1~2ヵ月かけて筋力が緩徐に改善しますので、入院期間長は長くなります。
irAEs-MG群12例中2例でPD-1阻害薬投与再開が可能となり、MGの再燃は認められませんでした。一方、クリーゼに対して人工呼吸器を希望せず死亡した症例、および心筋炎で死亡した症例が各1例ありました。治療後のパフォーマンスステータス(PS)は、iMG群に比べirAEs-MG群で不良でした4)
このように、irAEs-MGが重篤な場合は長期の入院加療が必要になり、人工呼吸器からの離脱困難となる可能性もありますし、死亡例も報告されています。一方、irAEsが発現する症例は、がんに対するICIsの効果が期待できることも事実です。当院のデータでも、irAEsが複数起こった症例のほうが、生存率が良好であることも示されており5)、ICIsが再開できれば、長期生存に繋がる可能性があるということになります。
なお、ステロイド維持療法に関しては、投与期間などはまだ明確ではなく、今後の検討が必要です。

表1 irAEs-MGの治療

表1 irAEs-MGの治療
(Suzuki S et al.: Neurology. 89: 1127–34, 2017.より改変)

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