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重症筋無力症(MG)

がん免疫療法関連重症筋無力症と筋炎の特徴と臨床における考え方

慶應義塾大学医学部 神経内科 鈴木 重明 先生

慶應義塾大学医学部 神経内科 准教授
鈴木 重明 先生

2021年9月掲載
(審J2109106)

がん免疫療法による筋炎

― 日常診療で経験する筋炎について教えてください。

鈴木先生:
筋炎は、筋組織の自己免疫学的機序による炎症性疾患であり、複数の病態が混在する疾患です。筋炎は様々な病態機序を背景にもつ疾患のあつまりであり、筋炎の病型は臨床症状、筋病理、自己抗体の3つの側面から分類されています。臨床症状としては、主に体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下を来し、典型的な皮疹を伴うものが皮膚筋炎とされています。全ての筋・皮膚組織が冒されるわけではなく、特に皮膚症状においては病型により特徴的な臨床症状を認めます。検査所見上は、筋組織崩壊を反映して、筋原性酵素高値を認めるほか、他の膠原病と同様に高γグロプリン血症や自己抗体を認める場合があります。

― ICIsによる筋炎の臨床像について教えてください。

鈴木先生:
私たちは、MGにおける筋炎・心筋炎の合併が約0.8%であったことを2009年に報告しました6)。その後、ICIsが使用可能となり、MGと筋炎・心筋炎の合併が注目されるようになったことから、ICIs投与後に筋炎を発症した19例を対象に検討を行いました7)。平均年齢70歳、19例中10例が非小細胞肺がん、CTCAEのGrade 3以上が9例、初回投与から発症までは平均29日、初発症状は眼瞼下垂10例、四肢筋力低下3例、頸部筋力低下3例、複視、嚥下困難、呼吸困難が各1例でした。筋炎のサブタイプは、SRP陽性群、抗合成酵素症候群と比較して、ICIsによる筋炎群では、複視、眼瞼下垂、顔面筋力低下、心筋障害、呼吸器麻痺、筋痛が多いことが特徴でした。
血清CK値は発症数日前から上昇し、19例での平均値は5,247 IU/Lと高値でした7)。軽症例でもCK高値の頻度が高く、筋力低下と血清CK値に相関は認められません(図2)。したがって、ICIs投与前および治療4クール目のフォローアップまでCK値の測定をすることを、ガイドライン8)では強調しています。CK値は、SRP抗体陽性ミオパチー(IMNM)では数ヵ月経っても正常化しないこともありますが、ICIsによる筋炎では治療に伴ってCK値が下がるのが特徴です。
補助的診断として、体幹部の筋肉のMRIが有用です。筋痛や筋力低下がある部分には所見があるのではないかと思います。
RNAの免疫沈降法ではSRP抗体含めて全例陰性、ELISA法においてもHMGCR抗体、Mi-2抗体、TIF1γ抗体、MDA5抗体のいずれも陰性でしたが、titin抗体、Kv1.4抗体などの横紋筋抗体は13例(68%)で陽性でした7)。ヒト白血球抗原(HLA)については、ICIsとHLA-C*12:027)、自己免疫性脳炎とHLA-B*27:05の関連で有意であったとの報告があります9)。irAEsとHLAとの関連について特定されたものはないものの、何かしらの免疫学的素因はあるかもしれません。筋病理所見において、筋線維の壊死再生所見が強く、壊死の周りに炎症細胞浸潤が示されています。MHC class I陽性で、CD8とCD4の細胞数はほぼ同じでした7)

図2 血清CK値の推移

図2 血清CK値の推移
(Seki M et al.: J. Autoimmun. 100: 105–13, 2019.より改変)
― ICIsによる筋炎の治療について教えてください。

鈴木先生:
先述の19例全例でPD-1阻害薬を中止し、17例がステロイド治療を行い、そのうち9例はステロイドパルス療法から開始しています。軽症の2例は経過観察で改善し、重篤な5症例については、ステロイド以外にも免疫グロブリン静脈投与、血液浄化療法、人工呼吸器管理などが行われました7)表2)。ステロイド治療は有効で、軽症の10例は筋症状が消失し、1例を除いてステロイドの中止が可能でした。重症の9例に関しては、筋症状が多少残存し、1年後も平均12mg/日のステロイド経口投与を継続していました。また、心筋炎による死亡が1例ありました。がんに対するPD-1阻害薬の効果は8例で認められましたが、6例はがんにより死亡しました。軽症1例はPD-1阻害薬を再開できたことが報告されています7)

表2  irAEによる筋炎の治療

表2  irAEによる筋炎の治療
(Seki M et al.: J. Autoimmun. 100: 105–13, 2019.より作表)
― ICIsによる筋炎の病態を教えてください。

鈴木先生:
irAEs-MGでは、MGと筋炎の症状が重複している可能性があります。PD-1阻害薬は、PD-1阻害によってCD8T細胞ががん細胞を攻撃しますが、同時に自己反応性CD8T細胞が筋肉を直接攻撃します。CD4T細胞に関しては、B細胞や形質細胞を介して横紋筋抗体、AChR抗体を介して神経筋接合部や筋肉を攻撃することが、病態機序として考えられます10)
心筋炎の合併には、特に注意が必要です。PD-1阻害薬投与後にうっ血性心不全、心不全、不整脈を発症した症例において、心筋バイオプシーの結果、CD8優位であることが分かりました。これらの症状は、MGの心筋炎の症例と非常に似ています。irAEs-MGと筋炎は、同じような病態機序を背景とした連続性のある疾患と考えられます。ICIsを背景にしたT細胞の異常といった背景では、重篤な心筋炎を起こし、呼吸器まひを来す可能性がありますので、神経内科医だけではなく、循環器内科医と共に治療を行うべきであると考えます。

― 期待される筋炎のマーカーはありますか。

鈴木先生:
MGや筋炎は、AChR抗体、Titin抗体、Kv1.4抗体の組み合わせにより陽性になることが多いことが明らかになっています11)。これらの横紋筋抗体が60~70%でMGや筋炎陽性となる12)ことから、横紋筋抗体が血清学的マーカーになる可能性があるのではないかと考えています。

臨床現場からのQ&A

― 担がん患者さんの治療中に発症した筋炎で、ICIsによるirAEsの筋炎か、悪性腫瘍合併による筋炎かの見極め方はありますか?

鈴木先生:
筋病理所見において皮膚筋炎で特徴的な所見があればirAEsというよりは腫瘍随伴性の可能性が高いと推察できますが、担がん患者さんに筋生検を行うのは難しいと思いますので、ICIsを開始から発症までの期間がポイントになると思います。irAEsの筋炎はICIsの初回投与から4回目までが多いという報告がありますので、発症時期で見極められるものが多いと考えます。

― irAEs-MGとiMGとで、再発率や想定される免疫維持薬の必要量などに違いはありますか。

鈴木先生:
iMGは再燃することがありますが、irAEs-MGの再燃は少ないと思います。irAEs-MGの場合にステロイドは少量でいいという根拠はないので、1mg/kg/日としっかり使った方がいいと思います。維持量は5~10mg/日で、5mg/日を目指すという点は同じです。カルシニューリン阻害薬も使われますが、irAEs-MGの場合は、ステロイド単剤で管理したいと考えています。

― がん治療により筋炎合併MGを来した場合、CK値は臨床症状に先行して低下しますが、状態評価の定量的指標として何を主に着眼しておられますか?

鈴木先生:
CK値が低下しても症状が残存するケースは多いと思いますが、患者さんの残された時間を考えると、重要なのはADLやQOLの維持だと考えています。外来通院も選択肢になり得ると思いますし、生活ということに主眼に置くことが重要かと思います。何を目標にするかというのは、がん専門医の先生や患者さんも含めて検討し、ステロイドの量よりも患者さんの状態を最優先して投与期間の設定を行っています。

― irAEsを発症すると、原則、がん免疫療法は中止になりますが、患者さんががん免疫療法にかける期待も大きいのが現実です。神経筋障害が軽微である場合、がん免疫療法の継続は可能でしょうか?

鈴木先生:
ガイドライン上では、CTCAE Grade 3以上のirAEsを発症した場合、ICIsの再開はできません。しかし、irAEsを発症する患者さんはICIsの有効性が高いことが示され5)、再開後5年ほどの長期生存例もありますので、リスクはあると思いますが、現実的には可能だと思います。私自身、家族がこういった状況になった場合には継続してほしいと思いますので、患者さんの希望を聞きながら、がん専門医の意見を最大限尊重して、その中で対応することになると考えます。

参考文献
1) Sharma P et al.: Science. 348: 56–61, 2015.
2) 再発転移がん治療情報 https://www.akiramenai-gan.com/immunotherapy
3) Borghaei H et al.: N. Engl. J. Med. 373: 1627–39, 2015.
4) Suzuki S et al.: Neurology. 89: 1127–34, 2017.
5) Shimozaki K et al.: Cancer Manag. Res. 12: 4585–93, 2020.
6) Suzuki S et al.: Arch. Neurol. 66: 1334–8, 2009.
7) Seki M et al.: J. Autoimmun. 100: 105–13, 2019.
8) 日本臨床腫瘍学会. がん免疫療法ガイドライン第2版. 金原出版, 東京. 2019
9) Chang H et al.: Ann. Clin. Transl. Neurol. 7: 2243–50, 2020.
10) 鈴木重明: 癌と化学療法. 47: 219-223, 2020.
11) Kufukihara K et al.: Sci. Rep. 9: 5284, 2019.
12) Suzuki S: Arthritis Rheumatol. (Hoboken, N.J.). 73: 1563–4, 2021.

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