薬剤師の立場から
総合花巻病院 薬局
佐藤 由美さん 八重樫 由貴さん
総合花巻病院における薬局の業務についてお聞かせください。
佐藤さん:日常業務として、脳神経内科病棟において、入院患者さんに対する持参薬の確認や薬剤管理指導、問い合わせに対する対応等を行っています。また払い出しについては、病棟から看護師ないし看護助手が薬局に来られ、薬剤をお渡しします。その際、通常の注射剤の場合はオーダー時に処方箋が出ますが、静注用免疫グロブリン製剤(IVIg)等の特定生物由来製品の場合、その伝票も一緒に印刷される設定になっており、その伝票に外装箱についている製造番号のシールを貼って保管しています。
薬剤管理において5%から10%への切り替えで、どのような変化がありましたか?
八重樫さん:IVIg 5%製剤は最大規格が10gでしたが、10%製剤は20gの規格があります。通常、薬局では2回分、つまり同一日に患者さん2人に処方されても当日払い出しできる本数を常備しており、5%製剤の10gは4本在庫していましたが、10%製剤では20gの規格があることでそれを2本に減らすことができ、スペースに余裕ができました。
佐藤さん:5%製剤に比べて10%の製剤の方が規格のラインアップが多いこともあり、病院としても多くの規格を採用しています。そういう意味でも在庫の本数を減らすことができました。
投与時に安全性について留意されるポイントなどがあれば教えてください。
佐藤さん:IVIgの添付文書の投与速度の表記では、そのまま看護師に渡しても、その場ですぐ計算というのが難しいため、薬局で、体重毎の用量の換算表を作成し、現場に渡しています(表)。
八重樫さん:開始何分までは、この量まで、この体重ならこの量までという具合です。初回投与の際にこの換算表をつけて払い出しすることで、投与時に、看護師や患者さんの参考にしていただけるという体制になっています。
実際に投与速度を設定する場面では、体重何kgの方なら1時間あたり何mL投与できるかというところが大事ですので、体重5kg刻みに、投与開始時と投与開始1時間以降の最大投与量の目安としていただいています。
八重樫さん:初回投与の患者さんの場合はこの表を参考にしていただき、その後は患者さんと看護師で話し合って投与速度を調整されています。何度も入院されている患者さんの場合は、前回の入院の時は速めに入れても大丈夫だったから速めがいいとか、まだ怖いからゆっくりめにしてみようかといった形で患者さんの希望や状態を確認しています。
佐藤さん:一旦、投与速度を上げても、頭痛などが出てくれば緩やかにスピードを落としてみたりされています。投与速度をアップしても大丈夫だった患者さんでも、その時々の状況により頭痛などが出てくるという方も稀にいらっしゃるので、そこは話し合いで調整しています。
10%製剤への切り替えに際して、留意された点についてお教えください。
八重樫さん:10%製剤は5%製剤に比べて濃度が2倍、つまり5%製剤と同じ投与速度で10%製剤を投与すると、時間あたりの体内に入る成分量は2倍になるため、患者さんの様子を十分に観察しながら慎重な投与速度設定を行っていました。
佐藤さん:10%製剤が出た当初は、濃度は2倍なのに速度はそのままでもいいのかという点が話題になりました。最初は添付文書に記載されている投与速度よりも、さらにゆっくり投与していた時期もありましたが、現在は添付文書どおりの速度で投与を行っています。
八重樫さん:実際、10%製剤が出た当初は、5%製剤使用時の投与量に換算(時間あたりのIgGの量を同じに調整)した表を作って、添付していた時期もありました。添付文書上では、5%製剤と10%製剤の副作用発現状況に大きな違いはないとされています。
患者さんから免疫グロブリン製剤について質問を受けることはありますか?
佐藤さん:免疫グロブリンという成分がどういう働きをするのか、患者さんにはわかり辛い部分があると思います。もちろん主治医や看護師からも説明された上で投与されているのですが、なかには薬剤師がいるタイミングで再度説明を聞きたいという方もいらっしゃいます。説明内容のひとつずつを受け止め、自分の中で理解するまでに時間がかかるのだと思います。そういった場合に、薬剤師から改めてご説明することがあります。
八重樫さん:やはり、免疫グロブリンって何、という点がわかり辛い方が多いので、私は、初回の方にはJBさんに提供いただいている、「免疫グロブリン療法を受けられる重症筋無力症の患者さんへ」(図)を使って説明しています。
医師や看護師とのコミュニケーションについてお聞かせください。
佐藤さん:IgG投与量は体重によって決まりますが、患者さんの体重が前回投与時と変わっていることがあります。当日と前回の体重があまりにも乖離しているようであれば、このままの量で大丈夫かという点を確認することがあります。
また、5%から10%製剤に変わる時には、製剤の本数に入力間違いがないかをチェックし、気になるところがあれば医師にお伝えするということをしていました。
八重樫さん:今はオーダー入力毎に、外来の看護師から「〇〇さんのIVIgの指示が出ました」と、必ず薬局に電話が入るようになっています。その流れが継続されていることもあり、用量に関してはオーダー入力に加え、電話連絡のダブルチェックが行われる環境になっています。
10%製剤の一番のメリットはどのような点にあるとお考えですか?
佐藤さん:当院では、10%製剤の規格のほぼ全てを採用していますので、払い出しの本数が少ないことは大きな変化です。見た目に多くの点滴ボトルが吊るされていると『薬をたくさん投与されているという感じが気になる』という方も、10%製剤になって投与本数が減ることですっきりしたと喜んでいらっしゃる患者さんもいました。
八重樫さん:やはり5%製剤よりも点滴が早く終わるのが嬉しいという患者さんは結構いらっしゃいます。入院で5日間連続投与する際にも、点滴しながら自由に歩いたりはできるのですが、点滴による拘束時間が少なくなったことはいいなとおっしゃっている患者さんもいました。