2022年版ガイドラインにおける主な改訂のポイント
国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学 教授(代表)村井 弘之 先生
2003年に重症筋無力症(MG)の治療ガイドラインが発行された当時、MG治療の中心はステロイド療法であった。その後、『重症筋無力症診療ガイドライン2014』1)では、MGの治療として早期速効性治療(EFT)が提唱された。近年、MGの治療薬として分子標的薬が使用可能となり、2022年発行の『MG/LEMS診療ガイドライン2022』2)は、EFTと分子標的薬の橋渡し的な位置にあると考える。
2014年版ガイドラインからの主な変更点としては、1)MGの新しい分類の提示、2)MG診断基準の改訂、3)高用量経口ステロイド療法を推奨しないことを明記、4)難治性MGの定義、5)分子標的薬を治療薬として追加、6)ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)の診断基準を提示、7)MGとLEMSの治療アルゴリズムの提示などがある。
2022年版ガイドラインにおけるMGの病型分類では、最初に眼筋型と全身型に大別する。全身型MGでは抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)の有無を鑑別し、抗AChR抗体陽性は、胸腺腫を伴わない50歳未満発症の早期発症MG(EOMG)、50歳以上発症の後期発症MG(LOMG)、胸腺腫を伴うMG(TAMG)に3分類、抗AChR抗体陰性は、抗筋特異的受容体型チロシンキナーゼ抗体陽性MG(MuSK MG)、抗体陰性MG(SNMG)に2分類する(図1)。抗LDL受容体関連タンパク質4(LRP4)抗体のみ陽性の場合は、SNMGに分類する。
MG診断基準としては、本ガイドラインの基本方針である“false negative”を少なくする配慮からDの支持的診断所見として血漿浄化療法の有効性に加え、判定にprobableを設けた。治療の基本的な考え方として、漸増漸減による高用量経口ステロイド療法は、副作用やQOL低下につながりやすいため推奨しないと明記されたことが2022年版のポイントである。治療目標は2014年版と同様、経口プレドニゾロン5mg/日以下の投与によるminimal manifestations(MM-5mg)レベルである。また難治性MGは、経口免疫治療薬や血漿浄化療法、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン静注療法などの非経口速効性治療(fast-acting treatment: FT)を一定期間行っても、充分な改善が認められない、または副作用などにより治療の継続が困難であるMGと定義された。
2022年版ガイドラインにはLEMSの記述が加わった。LEMSは症状、反復刺激試験の異常、病原性自己抗体の有無によって診断する。なかでも反復刺激試験の所見が重要で、病原性自己抗体が認められなくても、反復刺激試験で異常所見が認められた場合にはLEMSと診断する。LEMSは小細胞肺がんの有無を考慮した上で、MGに準じた治療を行う。
治療アルゴリズム眼筋型MGと全身型MGに分けて示されている。眼筋型MGではステロイドパルス療法の反復を主体とした治療を施行し、全身型MGでは低用量経口ステロイド、カルシニューリン阻害薬(CNI)、コリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)の投与後、病型に合わせて胸腺摘除、EFTや分子標的薬などの治療を行う。
本ガイドライン作成委員会では、実際の臨床現場において使いやすいガイドラインを目指し検討を重ねてきた。MGやLEMS患者を診療するうえで参考となり、患者さんのQOLが向上することを願っている。
- 重症筋無力症診療ガイドライン作成委員編集: 重症筋無力症診療ガイドライン2014(日本神経学会監修), 2014, 南江堂.
- 日本神経学会監修:重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症診療ガイドライン2022, 2022, 南江堂.