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MG/LEMS診療ガイドライン2022 改訂のポイント

MG診断に関する改訂ポイント
国立病院機構箱根病院 院長 神経内科今井 富裕 先生
砂川市立病院 脳神経内科 医長山本 大輔 先生

Expert’s Comment(今井富裕先生)

2022年版ガイドライン1)でMG診断について改訂されたポイントとして、これまでは「definite」しかなかったMGの診断基準に「血漿浄化療法によって改善を示した病歴」という支持的診断所見を加えて「probable」という判定基準を設けたこと、MGの病原性自己抗体をAChR抗体とMuSK抗体の2つのままに据え置いたこと、診断基準の「神経筋接合部障害」に記載されている検査手技をアップデートしたこと、質問項目や評価尺度を改訂した新たな質問票をQOLの評価法として推奨したこと、病型分類を改訂し、眼筋型・全身型(早期発症・後期発症・胸腺腫関連・MuSK抗体陽性・抗体陰性)の6病型のそれぞれの英字の頭文字をとったO/g-ELTMuN分類を推奨したこと、MG における胸腺腫および過形成胸腺の病態について述べ、その病理から胸腺摘除術の適応を再考したこと、などが挙げられます。ここでは、それらの改訂ポイントについて集約的にまとめています。

ここでは、MG診断に関する改訂ポイントを中心に、前回のガイドラインに記載されている項目についても解説する。

MGの疫学

本邦のレジストリ研究の結果、2017年に受診したMG患者は29,210人と推定されることがMG/LEMS診療ガイドライン2022年版1)に記載された。MG患者数は増加の一途をたどっており、2006年の調査と比較して10年で約2倍となっていることから、今後、MG患者を診察する機会がより増加することが予想される。

MGの診断(表1)

MGの診断基準として、症状、病原性自己抗体の有無、神経接合部障害の有無に加え、今回新たに血漿浄化療法による改善の有無が支持的診断基準として追加された。この結果、MG症状を呈し、血漿浄化療法により改善が認められて他の疾患が除外できる場合、MGの可能性ありと判定することが明記された。

表1 重症筋無力症診断基準2022 表1 重症筋無力症診断基準2022
日本神経学会監修:重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症診療ガイドライン2022, 2022, 南江堂.

-症状-

初発症状としては、眼瞼下垂、複視などの易疲労性、日内変動を伴う眼症状の頻度が高いが、球麻痺や呼吸症状を伴う例もある(表22)。また、診断時に眼筋型MGであっても、約20%は全身型MGに移行する2)。高齢発症MGにおいては、MG症状と加齢や合併症に起因する症状の鑑別が必要であり、病原性自己抗体の種類によって、筋力低下の程度や分布が異なることにも留意が必要である。特にMuSK抗体陽性MGは、顔面や頸部の筋力低下、球症状が主症状であり、クリーゼになりやすいことが報告されている3)

MGでは、甲状腺疾患をはじめとした自己免疫疾患の合併がしばしば認められる。自己免疫疾患合併率は、MuSK抗体陽性MGで9.6%。AChR抗体陽性MGで約26.5%と報告されている4)
胸腺腫関連MGではしばしば非運動症状が認められる。非運動症状が起こる機序として、まず未成熟な胸腺細胞が胸腺上皮細胞に発現したAChRやVGKC(電位依存性カリウムチャネル)などから抗原提示を受けて、自己反応性T細胞に分化する。CD8+T細胞はHLA-class Iを介して細胞毒性を示し、骨髄に障害を起こせば赤芽球癆や低IgG血症、皮膚であれば脱毛が起こると考えられる5,6)。一方、CD4+T細胞はHLA-classⅡを介してB-cellを活性化し、特異抗体を産生することで心筋炎や味覚障害などが生じることが推察されている。

表2 MGの症状 表2 MGの症状
Murai H, et al. J Neurol Sci 2011; 305: 97-102より作表

-病原性自己抗体-

MGは神経筋接合部の刺激伝達が障害されて起こる自己免疫疾患であり、AChR抗体とMuSK抗体が病原性自己抗体と考えられているが、2022年版ガイドラインでは、MGの病態におけるリンパ球とサイトカインの役割が示された。末梢血中のヘルパーT(Th)17細胞数や濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞数の上昇、制御性T細胞数の減少の程度が、MGの重症度やAChR抗体価と相関することが報告されている。また、Th17細胞関連サイトカインであるIL-17は慢性炎症を惹起し、間接的に抗体産生に関与する。Tfh関連サイトカインのIL-21はB細胞のクラススイッチや抗体産生を促し、B細胞関連サイトカインのBAFFやAPRILはB細胞の生存、分化、抗体産生をもたらすと推察されている(図17)

図1 MGの病態 図1 MGの病態
Uzawa A, et al. Clin Exp Immunol 2021; 203: 366-374
Oxford University Pressの許諾を得て転載

神経筋接合部では、神経終末から分泌されたagrinが筋細胞膜上のLRP4と結合するとMuSKと4量体を形成し、この4量体がrapsynを介してAChRの集簇を安定化することが筋活動電位の発生に重要である8)。AChR抗体のサブクラスはIgG1を主体に構成されており、補体を活性化して膜破壊複合体(MAC)を形成し、シナプス後膜を破壊することが、AChR抗体陽性MGの主病態であると考えられている9)
一方、MuSK抗体陽性MGの神経筋接合部病理像では、補体介在性膜破壊が非常に軽微である。現在はagrin/LRP4/MuSKのシグナル伝達障害が病態機序と考えられている10,11)
LRP4で免疫を惹起することによって筋力低下を引き起こし、神経筋接合部のひだ構造の破壊やシナプス小胞の密度の減少などが認められ、血中にLRP4抗体が検出されるMGの動物モデルが報告されている12,13)。この動物モデルの存在からLRP4抗体は有力な第3の病原性自己抗体の候補であると考えられたが、臨床的にはALSを中心に他疾患でも陽性例の報告が相次ぎ14)、疾患特異性の問題があること、LRP4抗体の測定方法によって陽性率が異なること15)、LRP4抗体陽性MG患者の病理報告がないなどの問題が知られている。したがって、LRP4抗体はMGの病原性自己抗体とは断定できないというのが現時点での結論である。

-神経筋接合部検査-

神経筋接合部の検査として、2014年版ガイドラインと同様に、眼瞼の易疲労性試験、アイスパック試験、エドロホニウム(テンシロン)試験、反復刺激試験(RNS)、単線維筋電図(SFEMG)の5つが挙げられている。
眼瞼の易疲労性試験は上方視を最大1分まで続けさせ、眼瞼下垂が出現もしくは増悪すれば陽性である。
MGによる眼瞼下垂は冷却によって改善することが知られており16)、アイスパック試験として用いられている。局所冷却によりRNSの減衰率が改善したことも報告されている17)。2分間の冷却ののち眼瞼下垂が改善すれば陽性であり、MG以外の疾患では陽性になりにくい18)
エドロホニウム試験では、塩酸エドロホニウムを静注して症状の改善を確認する。しかしMuSK抗体陽性MGでは、抗コリンエステラーゼ薬によって症状が悪化する場合があるため、エドロホニウム試験は避けるべきであると考える。
RNSでは、10回の連続刺激を行い、1回目の複合筋活動電位の振幅に対して4回目もしくは5回目の振幅が10%以上減衰した場合に陽性と判定する。しかし、三角筋や僧帽筋ではMGよりもALSで陽性率が高いことが報告されており19)、RNS陽性だけではMGとは診断できない。
SFEMGには、随意収縮を用いて同一の前角細胞に支配される2本の筋線維の電位を記録し、その潜時差の変動を計測するvoluntary SFEMGと、軸索を電気刺激して1本の筋線維の電位の変動を記録する axonal-stimulating SFEMGがある。例えばvoluntary SFEMGでは、神経筋接合部が正常なペアでは筋線維間の潜時差の変動が少ないが、異常があるペアでは変動が増大する。特異度は高くないが、陰性的中率が高い検査である。
神経筋接合部の検査はMGの診断に有用だが、異常が認められた場合にもMG以外の疾患である可能性を考慮し、十分な鑑別を行う必要がある。

-支持的診断所見-

MGの診断において最も重要なことは、MGを見逃して治療開始時期が遅れるのを防ぐことである。2022年版ガイドラインでは血漿浄化療法による症状の改善を支持的診断所見とし、他の疾患を除外できる場合には、MGの疑いがあり(probable)とした。

QOL評価

MGの罹患および治療によって、患者の約30%が解雇や望まない転職、収入の減少を経験しており、約50%は活動性が低下したと報告されている20)。こうした背景から、MG症状の改善のみならずQOLを考慮した治療が求められ、QOL評価が重要である。
MG症状の評価には、MGFA分類、MG-ADLスケール、QMGスコア、MG composite、MGFA Postintervention Statusを用いることは2014年版ガイドラインと同様だが、QOLの評価として2014年版ガイドラインで用いていたMG-QOL15に代わり、2022年版ガイドラインでは質問項目や評価尺度を改訂したMG-QOL15r を用いることが推奨されている。

MGの病型分類

MGはクラスター解析の結果、以下のサブタイプに分類される。まず眼筋型(①OMG)と全身型(gMG)に大別され、全身型はさらにAChR抗体の有無、胸腺腫の有無、発症年齢、MuSK抗体の有無によって、早期発症(②g-EOMG)、後期発症(③g-LOMG)、胸腺腫関連(④g-TAMG)、MuSK抗体陽性(⑤g-MuSKMG)、抗体陰性(⑥g-SNMG)に分類される。g-EOMGとg-LOMGは、前者が過形成胸腺を伴う可能性に基づいている。6病型のそれぞれの頭文字をとってO/g-ELTMuN分類と呼ぶ。

胸腺腫や過形成胸腺の病態

2022年版ガイドラインでは、MGにおける胸腺腫および過形成胸腺の病態について述べられている。MGはWHO分類TypeB2の胸腺腫の合併が多く、その病理学組織像は生理学的特性と関連があると考えられている。MGの過形成胸腺に存在する胚中心に、AChRタンパク質、AChR特異的T細胞、AChR抗体産生B細胞、形質細胞が集簇しており、AChR抗体の産生に関与していると考えられるため、過形成胸腺を伴う可能性のあるg-EOMGでは、胸腺摘除が治療オプションの一つとなっている。

参考文献
  1. 日本神経学会監修:重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症診療ガイドライン2022, 2022, 南江堂.
  2. Murai H et al.: J. Neurol. Sci. 305: 97–102, 2011.
  3. Sanders DB et al.: Neurology. 60: 1978–80, 2003.
  4. Nakata R et al.: Eur. J. Neurol. 20: 1272–6, 2013.
  5. Suzuki S et al.: J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry. 84: 989–94, 2013.
  6. Suzuki S: Brain and Nerve. 65: 477–83, 2013.
  7. Uzawa A et al.: Clin. Exp. Immunol. 203: 366–74, 2021.
  8. 山本大輔ら: 脳神経内科. 93: 579-587 改変, 2020.
  9. Conti-Fine BM et al.: J. Clin. Invest. 116: 2843–54, 2006.
  10. Shiraishi H et al.: Ann. Neurol. 57: 289–93, 2005.
  11. Takata K et al.: JCI Insight. 4, 2019.
  12. Mori S et al.: Exp. Neurol. 297: 158–67, 2017.
  13. Shen C et al.: J. Clin. Invest. 123: 5190–202, 2013.
  14. Tzartos JS et al.: Ann. Clin. Transl. Neurol. 1: 80–7, 2014.
  15. Bacchi S et al.: Can. J. Neurol. Sci. 45: 62–7, 2018.
  16. Marinos E et al.: Eye (Lond). 32: 1387–91, 2018.
  17. Odabasi Z et al.: J. Clin. Neuromuscul. Dis. 1: 141–4, 2000.
  18. Fakiri MO et al.: Muscle Nerve. 48: 902–4, 2013.
  19. Iwanami T et al.: Clin. Neurophysiol. 122: 2530–6, 2011.
  20. Nagane Y et al.: BMJ Open. 7: e013278, 2017.

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