TOP 製剤情報一覧 疾患から探す 重症筋無力症(MG) 重症筋無力症のエキスパートに聞く MG治療に関する改訂ポイント

MG/LEMS診療ガイドライン2022 改訂のポイント

MG治療に関する改訂ポイント
慶應義塾大学医学部 神経内科 准教授鈴木 重明 先生
総合花巻病院 脳神経内科 主任医長長根 百合子 先生

Expert’s Comment(鈴木重明先生)

今世紀に入るまで、MG治療は胸腺摘除術と大量の経口ステロイドによって行われてきた。しかし、大量かつ長期の経口ステロイドによるQOL低下が次第に明らかとなり、根本的な見直しが必要であった。カルシニューリン阻害薬と免疫グロブリン静注療法が加わりMG治療は新たな時代に入ってきた。2014年のMGガイドライン1)では、治療目標として「経口プレドニゾロン5mg/日以下で軽微症状(minimal manifestations: MM)レベル(MM-5mg)以上」を設定し、「早期速効性治療戦略」を提唱し大量の経口ステロイド投与を避ける基本方針となった。
長期にわたり患者QOLを良好に保つという基本信念は新ガイドライン2)でも継承されている。近年、早期速効性治療戦略の有効性がさらに明確となり、MG治療は分子標的治療薬の時代に突入してきた。分子標的治療薬であるエクリズマブとエフガルチギモドが保険適用となり、更にいくつかの薬剤の治験が実施中である。分子標的治療薬が適応となる、「難治性MG」も新ガイドラインで定義された。MG治療にあたる医師への最適な指針となることが期待される。

MG診療の問題点

全身型MGの治療では、約50年前から高用量経口ステロイド療法が普及し、重症例、死亡例が減少した経緯がある。その後、長期にわたって、高用量経口ステロイド療法と胸腺摘除が広く行われてきた。しかし、2010年以降繰り返し行われた調査3-6)では、成人MGの寛解率の増加は認められていない。MGは長期の寛解維持が困難な疾患であり、経口ステロイドはしばしば減量不十分なまま長期的に使用され、患者のQOLやメンタルヘルスを阻害する重大な要因となっていることも明らかになった。
また、MG症状は患者によって分布が様々で、日内変動があり、患者の活動負荷、生活様式によっても異なるため、患者が自覚する症状レベルや病状への不満が、医師に十分に把握されていないことも少なくない。患者と医師の間には治療の満足度に隔たりがあり、MG診療における最大の問題点とされている。定量的評価スケールやMG特異的なQOLスケールを用いた多施設調査の結果3,4)、不十分な症状改善状況や薬剤の副作用のため、QOLが阻害されているMG患者は今でも少なくないことが示されている。

MG治療の基本的な考え方

2010年以降繰り返された多施設共同調査・解析の結果を踏まえ、議論を経て、2014年に「MG診療ガイドライン2014」1)が作成された。このガイドラインは、患者のQOL改善を基本理念とし、過度に経口ステロイド投与と胸腺摘除を重視する治療からの方向転換を図った点で画期的であった。患者QOLと臨床パラメータとの関連解析の結果を根拠に、治療目標に「経口プレドニゾロン5mg/日以下の服用量で軽微症状(minimal manifestations: MM)(MM-5mg)レベル以上の早期達成」を設定したこと、「早期速効性治療戦略(early fast-acting treatment strategy: EFT)」を提唱し、症状の早期改善と経口ステロイド抑制の両立を図る方向性を示したことなどが特徴としてあげられる。患者のQOL改善を治療の基本理念とする方向性は2022年版ガイドライン2)でも維持され、2014年以降に発表された論文をもとに、より具体的な推奨文が示されている。MG治療における最初の到達目標はMM-5mgであり、この達成率は、免疫治療開始から約5年間増加するが、以後はほとんど増加しないため、可能な限り早期の達成を目指す。その早期達成にはEFTが有効であるとしている。
また、患者QOL、MM-5mg早期達成への影響から、漸増漸減投与法による高用量経口ステロイド療法を推奨しないことが明記された。漸増漸減投与法による高用量経口ステロイド療法は、中等量以上の経口ステロイド投与の長期化につながり、容姿の変化、精神障害、糖尿病や病的骨折などの原因となり、QOL悪化を生じる。一方、寛解率を従来より高める可能性はなく、MM-5mgの達成にも不利であることが明らかになっている。EFTに高用量経口ステロイド療法を併用した場合、経口ステロイド少量投与に比べMM-5mgの達成は年単位で遅れる。従って、2022年版ガイドラインは漸増漸減投与法による高用量経口ステロイド療法を推奨しないとされた。ただし、高用量経口ステロイド療法を完全に否定するわけではなく、漸増せずに高用量経口ステロイドを投与する場合はあるとしている。しかし、その投与期間、有効性、ステロイド投与量抑制効果や副作用緩和効果については不明なため、高用量経口ステロイドの適用は慎重に考えるべきとし、高用量を投与した場合は速やかに減量することを推奨している。
さらに、今後想定される分子標的治療薬時代を見据え、難治性MGの定義が示された。「複数の経口免疫治療薬による治療」あるいは「経口免疫治療薬と繰り返す非経口速効性治療を併用する治療」を一定期間行っても、「十分な改善が得られない」あるいは「副作用や負担のため十分な治療の継続が困難である」場合を難治性MGとしている。単に治らないというだけでなく、治療による患者負担も考慮した定義となっている。

EFTとは何か

2022年版ガイドラインでは、EFTの有効性やEFTにおける免疫治療の使用方法が記載されている。EFTは、非経口速効性治療を積極的に行い、早期症状改善と経口ステロイド投与量の抑制の両立を図る治療戦略である。現状での非経口速効性治療とは、血漿浄化療法、メチルプレドニゾロン静脈内投与療法(ステロイドパルス療法)*、免疫グロブリン静注療法、あるいはこれらを組み合わせた治療である。ステロイドパルス療法を適切に用いることも推奨され、使用上の注意点が示されている。EFTでは、経口ステロイドを重視する従来型治療と比較してMM-5mgの早期達成率が高いことが報告されている7)。長期の安定が得られなくとも、一定期間のMM-5mgを達成出来れば、間欠的な非経口速効性治療により良好なQOLの継続が可能である。EFTにおける経口ステロイド療法として、少量と漸増高用量のいずれがMM-5mg早期達成に有利であったかを比較した検討では、漸増高用量群にMM-5mg達成促進効果は示されず、治療開始約5年までは少量群より達成率が低かった8)。EFTにおける経口免疫治療では、治療初期から経口ステロイドは少量にとどめ、カルシニューリン阻害薬を併用することが推奨されている。 *正式な保険適応を有しないが、診療報酬審査上、原則としてその使用は認められている

非胸腺腫MGに対する胸腺摘除の適応

発症年齢18歳から65歳、発症5年未満のAChR抗体陽性、非胸腺腫MG患者を対象とし、胸腺摘除術の有効性を検討したMGTX試験では、漸増漸減ステロイド単独治療群に比較し、胸腺摘除+漸増漸減ステロイド併用群においてMG症状の有意な改善とステロイドの有意な減量が示された。一方、50歳以上発症の年齢別サブクラス解析においては、ステロイド単独治療群と胸腺摘除+ステロイド併用群に有意差は認められなかった9)。これらの結果を踏まえ、胸腺摘除の有効性が期待でき、その施行が検討される非胸腺腫MGは、2014年版ガイドラインと同様、50歳未満の発症で、発病早期のAChR抗体陽性過形成胸腺例であり、50歳以上発症の非胸腺腫MGに対しては、胸腺摘除がファーストライン治療ではないとしている。

経口ステロイドをどのように用いるか

MGに対し経口ステロイドの有効性を検証したランダム化比較試験はないが、経口ステロイドは標準的な免疫治療薬として広く受け入れられている。しかし、本邦の多施設共同研究10)によって、経口ステロイド療法には有効例(responder)と、効果不良例(poor-responder)が存在することが示され、経口ステロイドの増量や投与期間の延長が必ずしも良好な治療成績に結びついていない例がいることが明らかになっている。現在、MG治療のオプションは増えており、経口ステロイド以外の免疫治療を積極的に併用することにより、経口ステロイドの使用量を最小限にとどめる低用量経口ステロイド療法の有効性が示されている。2022年版ガイドラインでは、免疫治療開始早期からの低用量経口ステロイド療法は治療目標の達成を促進する、という推奨文が記載された。

補体標的薬をどのように用いるか

AChR抗体陽性MGでは、神経筋接合部の伝導障害に補体が関与していることが指摘されている。補体標的薬は、補体終末経路にあるC5に選択的に結合することにより、膜侵襲複合体の形成を阻害し神経筋接合部破壊を抑制すると考えられている。2017年に補体標的薬であるエクリズマブが承認されたことを受け、分子標的治療薬に関する項目が新たに加えられた。我が国も参加したグローバル第Ⅲ相試験11)で、難治性AChR抗体陽性MGに対するエクリズマブの有効性が示され、臨床の現場で使用されている。保険適応となるMGは「免疫グロブリン大量静注療法又は血液浄化療法による症状の管理が困難な場合」であり、今回のガイドラインで定義された難治性MGと同義である。高額薬剤であることや、髄膜炎菌感染のリスクがあることから、その適用は十分検討することが推奨されている。
また、B細胞を標的とした分子標的薬や、IgGリサイクリングに関与する分子標的薬などの治験が進行中であり、今後、難治性MGに対する治療選択肢はさらに増加することが期待される。

病型ごとの治療アルゴリズム(図1)

2022年版ガイドラインでは、新しい病型分類に基づいた治療アルゴリズムが記載されている。

図1 病型ごとの治療アルゴリズム 図1 病型ごとの治療アルゴリズム
日本神経学会監修:重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症診療ガイドライン2022, 2022, 南江堂.
抗コ薬:抗コリンエステラーゼ薬、PSL:プレドニゾロン、IVMP:メチルプレドニゾロン静脈内投与、EFT:早期速効性治療、IVIg:免疫グロブリン静注療法、PLEX:血漿交換、IAPP:免疫吸着療法、FT:速効性治療

免疫チェックポイント阻害薬によるMGをどのように取り扱うか

がん免疫治療領域で、免疫チェックポイント阻害薬が使用されるようになっている。免疫チェックポイント阻害薬の有害事象としてMGを発症することが報告されており、今回新たに、免疫チェックポイント阻害薬によるMGの取り扱いに関するCQが設定された。発症頻度は低いものの急速に進行する重症例が多く、血清クレアチニンキナーゼ高値を特徴とし、筋炎や心筋炎を合併する場合があるとされる。免疫チェックポイント阻害薬によるMGの治療は、通常のMGと同様に行われるが、免疫チェックポイント阻害薬開始後、数日でクリーゼに陥るケースもあるため、入院を含めた慎重な経過観察が必要とされている。

参考文献
  1. 重症筋無力症診療ガイドライン作成委員編集: 重症筋無力症診療ガイドライン2014(日本神経学会監修), 2014, 南江堂.
  2. 日本神経学会監修:重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症診療ガイドライン2022, 2022, 南江堂.
  3. Masuda M et al.: Muscle Nerve. 46: 166-173, 2012.
  4. Utsugisawa K et al.: Muscle Nerve. 50: 493-500, 2014.
  5. Utsugisawa K et al.: Muscle Nerve. 55: 794-801, 2017.
  6. Imai T et al.: J Neurol Neurosurg Psychiatry. 89: 513-7, 2018.
  7. Nagane Y et al.: Eur. Neurol. 65: 16–22, 2011.
  8. Utsugisawa K et al.: Muscle Nerve. 55: 794-801, 2017.
  9. Wolfe GI et al.: N. Engl. J. Med. 375: 511–22, 2016.
  10. Imai T et al.: Muscle Nerve 51: 692-6, 2015.
  11. Howard JF Jr et al.: Lancet Neurol. 16:976-86, 2017.

JBスクエア会員

JBスクエアに会員登録いただくと、会員限定にて以下の情報をご覧になれます。

  • 最新情報をお届けするメールマガジン
    (Web講演会、疾患や製剤コンテンツ等)
  • Web講演会(視聴登録が必要)
  • 疾患や製剤関連の会員限定コンテンツ
  • 海外文献
  • 薬剤師向けの情報
JBスクエア会員の登録はこちら
領域別情報 製剤情報 関連疾患情報
お役立ち情報・患者指導箋など JBファーマシストプラザ 海外文献情報 講演会・学会共催セミナー
エキスパートシリーズ 情報誌など お役立ち素材 その他コンテンツ 新着情報