CLOSE UP HEART

第13回 血友病類縁疾患について

血友病の専門医(家)に監修の吉岡先生がインタビューし、ひとつのトピックスを掘り下げる「クローズアップハート」。血友病類縁疾患のひとつ、フォン・ヴィレブランド病は、止血に重要な役割を果たす血漿フォン・ヴィレブランド因子の量が少ない、または正常に働かないことで、止血がうまくできない病気です。今回は名古屋大学の松下先生にフォン・ヴィレブランド病を中心に血友病類縁疾患についてお話を伺いました。

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名古屋大学医学部附属病院 輸血部 教授
松下 正先生
松下 正先生 プロフィール
  • ●1985年 名古屋大学医学部医学科卒業
  • ●1985年 名古屋第一赤十字病院研修医
  • ●1992年 名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)
  • ●1992年 米国Washington大学 Howard Hughes Medical Institute, Research Associate
  • ●1999年 名古屋大学医学部附属病院 第一内科助手
  • ●2005年 名古屋大学医学部附属病院 血液内科 講師
  • ●2010年 名古屋大学医学部附属病院 輸血部 教授 検査部長
  • ●2019年 名古屋大学医学部附属病院病院長補佐
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名古屋大学医学部附属病院
〒466-8560
名古屋市昭和区鶴舞町65番地
TEL:052-741-2111(代表)
URL:https://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/

フォン・ヴィレブランド病と血友病との違いについて

吉岡先生患者さんの数はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。血友病の患者さんと比べていかがでしょうか。

松下先生血液凝固異常症調査では、血友病Bの患者さんと同じぐらいか少し多くいらっしゃいます*1。診断されていない方を含めると潜在的にはもっと多くの患者さんがいると思われます。診療の実感としては血友病AとBの患者数の間くらいではないかと考えております。

*1:令和元年度血液凝固異常症調査ではフォン・ヴィレブランド病1363名、血友病A5410名、血友病B1186名。

吉岡先生血友病と遺伝形式は異なるのでしょうか。

松下先生フォン・ヴィレブランドの遺伝子は12番染色体上にあり、常染色体遺伝になります。フォン・ヴィレブランド病のタイプ(病型)*2のうち、3型あるいは血小板型以外は優性(顕性)遺伝になります。血友病との違いは、血友病は基本的に男性の病気ですが、フォン・ヴィレブランド病は男性も女性もほぼ同じ頻度で出ることになります。

*2:2ページの右下にある(参考)をご覧ください。

吉岡先生特徴的な出血症状について教えてください。

松下先生フォン・ヴィレブランド因子の機能は2つありまして、1つは一次止血の際に血小板と結合して、出血場所へ集まる血小板を粘着しやすくします(図1)。もう1つは、二次止血で第Ⅷ因子に結合して第Ⅷ因子の血中濃度を保ちます。患者さんの出血症状は、主には1つ目の機能がうまく働かないことによる一次止血異常になります。症状としては粘膜出血や紫斑、口腔や胃粘膜からの出血があり、鼻出血と月経過多が非常に特徴的な所見です。

吉岡先生二次止血が悪い血友病と比べると、出血の症状にも差があるということですね。

(図1)一次止血:血小板が集まって一時的に出血部位をふさぐ
(図1)一次止血:血小板が集まって一時的に出血部位をふさぐ
二次止血:一次止血のあとに起こるより強固な止血

フォン・ヴィレブランド病の検査と診断、血液型との関係

吉岡先生治療を受けるためには診断が大切ですが、診断のための検査についてはいかがでしょうか。

松下先生実は診断が大変難しく、フォン・ヴィレブランド因子の異常によって第Ⅷ因子が不安定となり相対的に低下するためにAPTT*3がわずかに延長するのですが、各施設が基準値として設定する正常範囲内に収まってしまうことがあります。うまく診断されない場合は担当医が本症を疑ってより専門的な検査(VWF活性や抗原値)をする必要があります。その場合、専門的な検査は外注して行われることが多いです。

*3:APTTは、内因系の血液凝固能力(凝固時間)を測定する検査で、内因系に関わる血液凝固因子のいずれかが不足したり機能が低下したりするとAPTTが延長します。

吉岡先生本症では第Ⅷ因子が低下する点で血友病Aの検査値と似ています。血液型との関係については、いかがでしょう。

松下先生O型の方はA型やB型、AB型の患者さんに比べてフォン・ヴィレブランド因子の抗原量が65%から70%くらいの方が多いと思います。

吉岡先生そうすると、フォン・ヴィレブランド病なのか血液型がO型でフォン・ヴィレブランド因子が低い方なのか、診断する上でその境界が難しいですね。

松下先生難しいです。私はO型の患者さんの場合フォン・ヴィレブランド因子活性が35%以下の場合フォン・ヴィレブランド病と診断しています。

吉岡先生O型だからと言って本症を軽視はできない、両方の状況を勘案しなければならず難しいですね。

松下先生はい。大変微妙なところです。フォン・ヴィレブランド因子の活性・抗原量は加齢とともに上昇します。また妊娠でも著明に上昇します。若い時にフォン・ヴィレブランド病と診断されていた方が歳を重ねるごとに活性が上昇して、もはやフォン・ヴィレブランド病と診断できなくなっている患者さんをしばしば目にしています。

吉岡先生特に検査を受けるタイミングは、気にしなくてもよいでしょうか。

松下先生日常的に明らかに鼻出血がある方、過多月経で苦しんでいる方、あるいは手術や処置の際に止血困難な方は、担当医に相談して検査を受けていただくことをお勧めします。患者さんが少なく、検査も一般的ではないために、医師の中にはこの病気について頭に入っていない可能性もあると思います。

吉岡先生血縁者の検査をお勧めした方がよいのでしょうか。

松下先生血縁者の活性が知りたい方もいらっしゃいますが、私は積極的にはお勧めしていません。しかし、発端者の方が生命の危機に陥るような出血をした際に、血縁者も同じような状況で出血の可能性がある、例えば妊娠の可能性や分娩時にお勧めする場合があります。

フォン・ヴィレブランド病のタイプと重症度について

吉岡先生この病気のタイプと重症度の違いについて教えてください。

松下先生大きく3つの病型(参考)に分けることができます。まず3型と呼ばれる方は明らかに他のタイプよりも重症です。第Ⅷ因子が特に少なく、このため関節出血が血友病Aのように起こることもあります。こういった方は定期補充の適応になる場合があります。1型と2型では、患者さんの症状に大きな違いはありません。ただし、2型のうち2B型の患者さんは、血小板減少を伴っており、他疾患との鑑別が必要となります。

(参考)フォン・ヴィレブランド病のタイプ(病型)
フォン・ヴィレブランド病は大きく3つのタイプに分けられます。

病型分類 フォン・ヴィレブランド因子の状態
1型 フォン・ヴィレブランド因子の量的減少
(量が少ない)
2型* フォン・ヴィレブランド因子の質的異常
(うまく働かない)
3型 フォン・ヴィレブランド因子の完全欠損
(フォン・ヴィレブランド因子を持っていない)

※2型はさらに2A、2B、2M、2N型の4つのタイプに分けられます。出血症状の程度が異なり、1型は最も多く、概して軽いとされています。一方、2型(特に2A型)及び3型はより重症の出血を起こしやすいです。

吉岡先生治療薬や止血薬は具体的にあるのでしょうか。

松下先生フォン・ヴィレブランド病の特に1型、2型の方は、片方の遺伝子が正常なのでフォン・ヴィレブランド因子が貯蔵されている血管内皮細胞からの放出を促進する薬剤を投与することによって、血漿中の濃度が上昇することが期待できます。他にはフォン・ヴィレブランド因子濃縮製剤があります。定期補充療法が必要かどうかについて、レベルの高いエビデンスはまだありません。いわゆる月経出血、あるいは鼻出血などが続いてコントロールできない貧血がある方には定期補充療法を勧めるべきだと考えております。

フォン・ヴィレブランド病女性患者の妊娠・出産時の注意点

吉岡先生女性もかかる病気ですが、妊娠、出産、不妊治療を受ける方の注意点など教えてください。

松下先生妊娠中は第Ⅷ因子、フォン・ヴィレブランド因子が、1型、2型の方でもかなり上昇いたします。経験上半数近くの方で分娩時の補充療法は必要ありません。一方フォン・ヴィレブランド因子活性が100%に満たない方には、補充療法を行います。不妊治療につきましては、腹腔鏡などで卵巣、卵胞から卵を採取するといった処置を行う場合、補充療法が必要だと思います。

吉岡先生出産時のお母さん側と新生児側の出血予防についてはどうでしょうか。

松下先生出産時は出血リスクがありますので、予定日に近い時期に検査を行い、十分上昇していない方は、フォン・ヴィレブランド因子活性100%を目指して補充療法を行います。フォン・ヴィレブランド病の新生児が産まれた際の、頭蓋内出血を起こす症例は稀であり、血友病のような新生児への止血予防対策はほとんど必要ありません。

吉岡先生これを聞いて安心された方もいるのではないかと思います。産褥時や産褥後のお母さんの出血は気にした方がいいのでしょうか。

松下先生産褥時はフォン・ヴィレブランド因子以外の血液凝固因子活性も急に低下しますので、補充療法が必要になるケースがあります。

その他の類縁疾患について

吉岡先生血友病類縁疾患について、その他に先生が強調しておきたい出血症はありますか。

松下先生フォン・ヴィレブランド病の次に気にしているのが、先天的な血小板異常症です。その方に対して慢性的に血小板の輸血が行われているのを時々目にします。血小板輸血の回数が増えますと血小板に対する抗体ができてしまう場合がありますので、患者さんを診ている小児科の先生には漫然とした輸血はできるだけ避け、必要に応じて一般的な止血剤等で経過を見ていただきたいです。

吉岡先生その他の病気はいかがでしょうか。

松下先生血液凝固第Ⅴ因子欠乏症と血液凝固第Ⅺ因子欠乏症です。現在、これらの疾患には濃縮凝固因子製剤が存在しませんので、早期に治療薬が開発されることを望みます。

吉岡先生本日は、非常に幅広くご意見をいただきありがとうございました。

(2020年Vol.66冬号)
審J2101502