Heart Hospital

琉球大学医学部附属病院小児科/百名 伸之先生 第二内科/島袋 奈津紀先生

県立南部医療センター・こども医療センター小児科/嘉数 真理子先生

沖縄では小児の診療を県立南部医療センター・こども医療センター(以下、こども医療センター)が、成人の診療を琉球大学医学部附属病院(以下、琉球大学病院)が中心となり行っています。今回の取材では、沖縄県立北部病院の所属で3月までこども医療センターで診療されていた嘉数先生と琉球大学病院の百名先生、島袋先生からお話を伺いました。

最初にそれぞれの先生が血友病に関わるようになったきっかけを教えてください。

百名先生私は小児科ですが、研修医の頃から血友病を診ています。初めての患者さんをずっとフォローし、そのうちに他の患者さんも診るようになり30年近く血友病に関わってきました。

島袋先生私が医者になろうと思ったのは、血友病に関わる仕事がしたいと考えたからです。身近に血友病の人がいて、昔は5歳まで生きられないと言われていた方が40代になっている姿を見て「お医者さんってすごいな」と思いました。最近は高齢になってからのフォローが必要と感じ、いろいろ考えて内科で診療することを決めました。

嘉数先生私は小児科ですが、研修で2年ほど「血友病センター」のある静岡県立こども病院に行き、そこで血友病の外来や患者会の活動に参加したのをきっかけに興味を持つようになりました。沖縄では県内の病院がバラバラに血友病を診ている状態で専門の外来がありませんでした。そこで研修の経験を活かし、こども医療センターに赴任後、2012年に血友病の外来を立ち上げました。

小児での診療体制について教えてください。

嘉数先生沖縄から県外にある血友病センターまで行くのは遠いので、お子さんについてはこども医療センターが基幹施設として、成人の施設とも連携しながらやっていきたいと考え琉球大学病院の百名先生にご相談して進めてきました。

百名先生こども医療センターの場合は小児に特化しているので、実態として包括的に診療ができていると思います。他の科との連携が必要になった時も垣根は高くないですね。

嘉数先生私と百名先生で外来を担当し、関節障害の患者さんは整形外科と連携して半年に一度定期的にフォローしたり、歯科に問題がある患者さんは止血管理を小児科でやりながら歯科の処置をしたりと、非常にスムーズにできています。

小児のうちはこども医療センターで、大人になると琉球大学病院で診られるのですか?

嘉数先生そうですね。ここ数年は島袋先生が血友病の外来を立ち上げてくださって成人を積極的に診てくださるので、最近はずっと琉球大学病院に紹介しています。

島袋先生内科では20代から60代まで様々な患者さんがいて、関節症が進行して手術が終わった方や、中にはHIV・C型肝炎ウイルスを持っている方もいます。患者さんの半数はHIVの拠点病院になっていることをきっかけに来院し、そのまま血友病の診療を受けているという感じです。

血友病診療をサポートする看護師さんやスタッフの体制について教えてください。

嘉数先生こども医療センターでは、最初から血液チームの看護師に積極的に参加してもらい、患者さんを担当して自己注射の指導や細かい相談などにも対応してもらっています。異動もありますが、中心となる人が数名いるのですごくありがたいです。

島袋先生内科では15人くらいの患者さんを血友病のチームと感染症のチームが連携しながら診ています。1年に一度受診される方も含めて沖縄県の全域から来られます。関節手術後のケアは整形外科の先生と理学療法士さんが積極的にやってくださいます。

自己注射や家庭注射の指導はいつごろから始められますか?

百名先生本人の自己注射ですと小学校高学年になる頃に話をします。親御さんの場合、やってみたい、という方にはどんどんお願いしています。まだ小さい子で医療者でも血管の確保が難しいケースでは定期的に来院してもらいます。

嘉数先生ほとんどが家庭での定期補充療法を実施しています。発達障害などで難しいケースは通院で対応しています。以前は血管の確保が難しいことや、指導体制が整っていなかったこともあり、中心静脈カテーテル(いわゆる、ポート)を入れている患者さんもいました。現在ではほとんどの方が末梢静脈からの定期補充を行っています。

島袋先生成人の場合は、脳出血などで自己注射ができなくなった患者さんに対して、緊急時にご家族が注射できるのか、またご家族への指導を誰がするのかという課題があります。最近は訪問看護を取り入れたりしながら連携を強化しています。

インヒビターの方の診療はどのようにされていますか?

嘉数先生出血の状況によりますが、落ち着いていれば月1回ほど受診してもらいます。先日、ポートで自己注射をしていた患者さんがそこから感染を起こしてしまい、2週間ほど入院し、止血の管理やポートを抜いて血管からの注射に変更する指導をしました。でも、小児ではインヒビターで苦労しているケースはそれほど多くないです。

島袋先生成人は大変です。寝たきりの患者さんで家族にポートからの注射を指導したら、そこで感染症を起こしてしまったケースや、転んだ時に慌てて注射しそこから人工関節に感染してしまったケースがありました。沖縄はインヒビターがいないと言われていたのですが、ここ数年で出て来た印象があります。今まで診断されていなかっただけかもしれませんが…。成人患者さんは合併症も多いので大変ですが、中心静脈ポート留置や関節手術を経験しています。

製剤を選択する上でのお考えをお聞かせください。

百名先生患者さん目線で言えば注射回数が少ない方が良いので、新しい製剤が出ると紹介し、患者さんが「変えたい」と言えば切り替えています。体内で凝固因子の活性が少し上がるだけで、患者さんは感覚的に違いを感じられるようですね。

最後に、今後の沖縄県の血友病診療について、展望を教えてください。

嘉数先生沖縄では1年に一度は整形外科や歯科をまわる、といった包括的な外来まではまだできていません。できるだけ沖縄県内で治療を完結するような形にできれば良いと思います。私自身は、一度この職を辞して海外へと思っています。

百名先生小児はこども医療センターで、成人は琉球大学病院と、2つの病院が中心になり診療する仕組みを作ることと、次の世代の若い先生方に血友病の診療に興味を持ってもらうことが大切だと思います。

(2017年Vol.53夏号)
審J2005097

左から嘉数 真理子先生、百名 伸之先生、島袋 奈津紀先生
嘉数先生、百名先生、島袋先生の写真
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県立南部医療センター・こども医療センター
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奈良県立医科大学名誉教授・前学長 吉岡 章先生からひとこと

沖縄県全体を一つの医療圏と考えて、南部医療センター(小児)と琉球大学附属病院(成人、小児)が強力な連携のもと、包括医療を推進してくださっています。感染症診療も万全で、安心ですね。離島の数少ない患者にも心強いことと思います。