Heart Hospital

三重大学医学部附属病院血液内科 輸血・細胞治療部 副部長・助教/松本 剛史先生

血友病の診断・治療に関わるようになったきっかけや時期を教えてください。

松本先生私自身が血友病であったため、血友病診療することを目指して医師になりました。6歳のころから三重大学で診療を受けていたこともあり、当時、血液診療科だった第二内科に入局し、そのまま血栓止血・血友病の診療に携わっています。

患者さんの年齢層と診療体制の特色

現在、三重大学病院に通われている患者さんの数や年齢層を教えてください。

松本先生患者さんは三重県全域から来院されており、ほとんど出血をせず年に1度くらいしか通院しない中等症・軽症の患者さんを含めると60~70名くらいです。定期的に薬を処方したり注射をしたりしている患者さんは30名くらいです。年齢層は0~70歳代までと幅広く、特に40~50歳代の方が多いです。新規で来院されるのは小さな子供が多い。最近よくみられるのが中等症や軽症で注射もほとんどしたことがない方で、大人になってから突然来院されるパターンです。近くの整形外科にかかり、医師から「本人が血友病と言っている」と連絡が来たこともあります。また、中学生くらいまでは入院歴があった方で、その後50年近く全く治療を受けずにいましたが、C型肝炎による肝細胞がん治療のために当院の肝臓内科に紹介され、そこから患者が血友病であるということで私に連絡が来た際には驚きました。

診療体制の特色を教えてください。

松本先生小児科に初診でかかり、血液の凝固に異常がある場合は私に連絡があります。受診日に小児科で一通りのことをした後、最後に私のところに寄ってもらい、出血の状況を聞いて薬の量、投与の方法や製剤について小児科の先生にサジェスチョンさせていただいています。私が最初から加わることで、内科への移行も容易なのかなと考えています。このよ うな体制にしているところは珍しいのではないでしょうか。

他科との連携や、地域病院との連携についてお聞かせください。

松本先生例えば整形外科で手術が必要な場合、止血管理は私が担当する形で行っています。歯科の先生には止血異常の患者さんを多く診ていただいていることもあり、抜歯が必要な場合もしっかりと止血していただいています。しかし、親知らず(智歯)の抜歯では思わぬ出血をすることがあるため、入院で処置することがあります。地域連携では、三重県は南北に長いので、地元の病院で血友病の診療経験が少ない先生にかかっている方が多くいらっしゃいます。そういった方は3ヵ月~半年に1度は当院を受診してもらい、症状を聞いてより患者さんにあった治療に変更させていただくなど包括医療を行っています。

患者会との連携や活動についてお聞かせください。

松本先生私自身が患者会の会長になっています。年1回総会や講演会を行い、夏になるとキャンプやバーベキューをしています。当院の患者さんはもちろん、他病院の患者さんも含め20名から多い時は40名程集まります。ただ一泊になると子供も大人も忙しくて参加数が減ってしまうため、夏休みを外した方が良いのかなと考えたり、色々悩んでいます。総会や講演会には血液内科の先生も参加していただいています。

自己注射の指導体制はどのようにされていますか。

松本先生外来での自己注射指導は小児科の先生がされていたのですが、かなりの労力が必要でした。私も自分で何人かは指導していたのですが、今は輸血部のナースに指導してもらっています。私が外来診察をしている隣の部屋で行っているので、何かあれば声をかけてもらいます。自己注射を始めるタイミングは中学校に行く前で、小学校6年生の夏休みが一番多く、次に、その前の冬休みです。その際触ったらダメなところや清潔性の保持について教えます。1回に1時間くらいかけて指導するとだいたい3回目でできるようになります。

最近では個別化医療が提唱されていますが、定期補充療法をする際に患者さんのポピュレーションPK(製剤ごとの平均的薬物動態)を測定されていますか。

松本先生本当は測定したほうがいいのですが、なかなか難しいですね。インヒビターが無いかは定期的に確認していますが、症状を主に診ていることが多いです。安定している方だと、投与本数や注射の回数は出血の具合をみながら調整することで、だいたい管理できています。QOL調査を見ると、重症の方で定期補充をしていないとだんだん関節の状態が悪 くなるので、一次定期補充療法はするべきです。中等症や軽症ですと、関節の状態が人により異なりますので、ケースバイケースですが、関節の状態が悪いと定期補充療法となります。

インヒビターのある患者さんや後天性血友病の方はいらっしゃいますか。

松本先生通院患者でインヒビターのある患者さんは小児も含めて4人です。1人は定期補充を始めてすぐに消えました。ITI療法中の患者さんが1人、現在70代ですが30代くらいでインヒビターができた方が1人。あと1人は軽症でインヒビターができてしまい、退院してから次の外来日までの間にたくさん出血をして、また入院するということが数回続いて非常に大変でした。後天性血友病は年に1例くらいで、入院は年に1例あるかないかです。外来で済んでしまうような軽症の方もいまして、中にはステロイドを内服し1週間後には軽快した患者さんもいらっしゃいました。

出血傾向のある保因者の方の診療はご経験がありますか。

松本先生親戚に血友病がいなくて、親知らずの抜歯の際に皮下出血が肩の下くらいまで広がった女性患者を、当初はフォン・ヴィレブランド因子が低めで第Ⅷ因子も低かったためフォン・ヴィレブランド病と診断したのですが、その方が後になって結婚し出産した男の子が軽症の血友病Aということがわかりました。その女性は血友病Aの保因者で、フォン・ヴィレブランド因子が低めであったため出血傾向があったようでした。出血傾向のある保因者が、フォン・ヴィレブランド病と診断されることがしばしばあり、注意する必要があります。

今後、実現したい診療体制

松本先生他の病院との連携をさらに強くし、情報共有ができるようにしていきたいです。「病診連携」「病病連携」についてももう少しきちんとした形で進めたいと考えています。「三重県血友病診療ネットワーク」という名前をつけて、年に1度の講演会を行っていますが、なかなか当院に来ていただけないことも多くありますので、今年からこちらから出向いていくことも考えています。また、後進の育成については血友病だけではなく、血栓・止血の専門として後継者をきちんと養成していかなければならず、今後の大きな課題として考えていきたいと思います。

(2018年Vol.56春号)
審J2006107

松本 剛史先生
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奈良県立医科大学名誉教授・前学長 吉岡 章先生からひとこと

松本先生は伝統ある三重大学血液内科で、血友病専門医として、さらに、ご自身の患者としてのご経験と思いを込めて診療・研究を続けておられます。現在、全国各地に先生と同じお立場の専門医が活躍しておられ、頼もしいことです。三重県のそして全国の患者会の会長としても引き続きご指導よろしくお願い致します。