薬剤師のハートトーク

地域の中小病院の薬剤師経験から
~血友病専門外病院にできること~

当院は、地域の中規模病院で、血液内科や小児科はありませんが、20年前から一昨年まで1名血友病の方が通院していました。
今回は、血友病の専門外病院において、その方(以後Aさん)との交流を通じて学んだことを書こうと思います(掲載にあたりAさん、主治医の承諾を得ております)。

Aさんがまだ学生の頃は、週1回程度、凝固因子製剤の注射をするために通院していました。血友病の専門病院ではないため自己静脈注射など全く未知のことで、外来の看護師が通院のたびに注射をしました。当時、薬剤師の私が直接Aさんとお話をすることはほとんどありませんでした。

しかし、社会人になる頃、主治医が薬局に来て「Aさんから自己注射をしたいと相談された。社会人になると、その都度注射のために病院に通うのも大変になるし、自己注射できるように手伝ってくれないか?」と相談されました。その頃の私は、血友病の知識もなく、患者さんが片手で自己静脈内注射するということに戸惑いました。しかし、Aさんとの話合いで「血友病の治療としても、一人の社会人として生きていくためにも、今のAさんにとって自己注射は必要なことで、そのお手伝いをしたい」と思いました。

練習は、混雑しない夕方にAさんに来ていただき、看護師と私と3人で一緒に行うことにしました。最初は製薬会社の患者指導パンフレットと練習用キットで繰り返し練習し、2回目からはその日使う製剤の調整はAさんが行い、看護師が注射しました。私は、家でも調整や注射の練習ができるように、手袋や点滴調整用のチューブなどで自作の手の模型を作って応援しました。数回目から、看護師の指導のもと自己注射をしてもらうようになり、練習を繰り返すうちにAさんの技術はどんどん上達し、看護師から「もう自宅で注射できます。出来ないときは病院に薬を持ってくればいつでもサポートしますよ」とうれしい報告があり、自宅での自己注射が始まりました。

自己注射が始まると、補充回数が週1回から週2~3回に増えていきました。印象深かったのは、それとともに表情がとてもよくなっていったことです。以前は出血による痛みがあっても我慢していたのでしょう。一度仕事帰りにスーツで病院に来ていたのを見て、かっこいい社会人になったと嬉しく思ったことを今でも覚えています。自己注射になったあとは、受診前日に必ず電話をしてくれるため、関節の状態の確認、注射の回数、血友病アンケートや血液検査など、いろいろなことに関わらせてもらいました。Aさんが30代になり、専門的な診察の必要性を主治医、Aさん、看護師とも協議し、血液内科のある総合病院に転院することになりました。

Aさんとの関わりで、血友病の患者さんは血友病の知識をきちんと持ち、凝固因子を適切に補充することができれば、健常人と同じように人生を送れることがわかりました。患者さん自身が前向きに治療を受け人生を考え、医療者側もきちんと向き合うことが非常に大切なことだと感じました。

――仕事帰りのスーツ姿のAさん。かっこいい人生を送っています。

血友病患者さんが有意義な人生を送るために、ガイドラインに沿った専門的治療が地域格差なく受けられるよう医療者側も頑張っていきます。

注射手技練習用に作った手の模型を再現してみました。赤色は食紅で色を付けています。


手の模型

(2017年Vol.52春号)
審J2005096

竹内 剛 医療法人社団養生館 苫小牧日翔病院 薬剤師