薬剤師のハートトーク

ありがとうございました​

私は昭和56年から国立関連の病院に勤務し、いくつかの施設を経て、平成7年に国立大阪病院(現国立病院機構大阪医療センター)に異動しました。平成9年から感染症の患者さんを担当し、これが血友病の患者さんとお会いするきっかけになりました。その後、様々な施設に異動しましたが、何らかの形で関わりながら現在に至っています。国立大阪病院では入院患者さんへのお薬の説明も行っていましたが、治療の多くは外来で行われていたことから、外来に薬剤師のお薬相談室を設けて、対応させていただいていました。血友病の患者さんからは、本当にたくさんのことを学ばせていただきました。感謝の気持ちでいっぱいです。今年3月に定年を迎え、国立関連の病院を去ることになりました。今回、このページを執筆させていただく機会をいただきましたので、この場をお借りして、お世話になった皆様に、御礼のお手紙を書かせていただくことにしました。

Aさんへ。

初めてお会いしたのは、約20年前だったと思います。血友病の患者さんとお会いする機会がまだ少なかった頃、主治医のすすめで、外来のお薬相談に来てくださいました。
そのとき「なぜ薬剤師に会ってみようと思われたのですか」と伺ったところ「主治医を信頼しているから、主治医が信頼する薬剤師なら会おうと思った」とおっしゃいました。
患者さんを取り巻く医療従事者同士の信頼関係なしに医療はあり得ないという、“チーム医療の基本”を教えていただいたと思います。何度かお会いするうちに「薬剤師は院内のセカンドオピニオンのようなものですね。
主治医は新しい薬のことをこのように説明したけど、薬剤師としてはどう思いますか?」と、いつも何か疑問があれば質問をしてくださいました。「もう少し詳しい資料がほしい」と、受診の帰りに立ち寄られて、必要な資料をお渡しし、説明をしたこともあります。
患者さんに向き合う薬剤師としての心構えを、教えていただきました。

Bさんヘ。

いつも外来で、お薬に関係すると思われる副作用や、生活に支障のあることなどを詳しく教えていただきました。
「少しでも、他の患者さんの参考になれば役立ててほしい」と、薬に関係のないようなことも含めて、気になっていることを書き留められ、外来の度にたくさんの症状を伝えてくださいました。
薬を飲んでいる時間や飲み方を伺いながら、薬とその症状について関係があるかどうか、一つずつ、じっくり考えることができました。わからないことは添付文書だけではなく、薬の基礎研究のデータ、臨床試験の結果、薬の化学構造、薬が体の中でどのように運ばれどのように変化するか、症状との関係を詳しく調べることで、とてもよい勉強になりました。

Cさんヘ。

飲んでいる薬の飲みにくさや、どんなタイミングで飲み忘れるかを、詳しく教えていただきました。どう飲みにくいのか、飲み忘れを防ぐためにどのような方法で対応しているかを教えていただいたことで、他の患者さんとの相談の際に「このような例ではこのような対応をされている方がおられます」と、お伝えすることができました。
また、ゴミとして薬を出す時に、貼られているシールが剥がれにくいことや、薬のシートの印字などで気づいた点をご指摘いただきました。メーカー担当者に伝え、製品の改良につながったこともありました。

Dさんヘ。

「旅行に行くから、製剤を持ち歩く際の注意点や、温度管理について教えてほしい」と聞かれ、血液製剤の保存条件の違いによる安定性データを一覧にしました。
温度管理に気を使うお薬を使っておられることを、改めて認識することができました。他の患者さんに製剤の説明をする際、持ち歩きも含めて、この情報をお伝えするようになりました。今もアップデートしたものを、大阪医療センターのホームページに掲載しています。また、機会がございましたらご活用ください。

Eさんヘ。

院外処方せんの発行を推進するために、院外薬局のご説明をした際、「僕が街の薬局で薬を受け取ることで、より多くの人に病気のことを知ってもらい、理解してもらえる人が増えると思うので、喜んで協力させていただきます」とおっしゃってくださいました。
一人一人の患者さんの力が、世の中を動かしていく原動力になるのだと思いました。

Fさんヘ。

お薬の話が終わると、気になるタレントやアニメのお話をされ、盛り上がってしまうこともしばしば。
当時、私の幼い息子が、あるキャラクターカードにハマっているというお話をしたところ、集めておられたものの中から数枚、息子あてにお送りいただきました。
添えた手紙に「お父さんはお薬の説明をすることで、多くの患者の命を救ってくれています」と書いてくださいました。感謝の気持ちと共に、しっかりやらなくてはと、気の引き締まる思いがしました。

Gさんヘ。

つらい経験をされたことを教えていただきました。薬を安全に使っていただくために、現場の薬剤師は何をすべきか、考える習慣がついたと思います。
薬剤師として働く後輩たちに、伝えていきたいと思います。

Hさんヘ。

先日、久々にお会いしました。ご無沙汰しておりました。新しい薬が発売され、サイズが小さくなった薬もあります。1日1回の服用で済む薬もあります。
「昔に比べると、副作用も少なくなりました。でも、毎日続けてお薬を飲むことには変わりはありませんし、副作用も昔に比べるとマシですけど、生活になんらかの支障が出ることもあります。
年を取ったので、飲む薬も増えてきました。薬の飲み合わせも気になります」というお話を伺いました。私たち薬剤師は今後も、お薬の情報提供や相談に力を入れて、お役に立ちたいと考えています。

皆様とお会いしたことで、病院に勤務する薬剤師として、また一人の医療人として、とても充実した人生を送ることができました。改めて御礼を申し上げます。ありがとうございました。

(2018年Vol.56春号)
審J2006107

桒原(くわはら)健先生​ 国立国際医療 研究センター病院​薬剤部長