薬剤師のハートトーク

薬に使われているさまざまな技術​

薬の効果のもととなる成分を「有効成分」と言います。しかし、この「有効成分」だけではまだ錠剤、カプセル剤、散剤、軟膏剤、注射剤などの「薬」にはなりません。「薬」にするために「有効成分」に対してさまざまな技術が用いられています。今回は「有効成分」をよりよい「薬」にするために用いられている技術を、ほんの一部ですが紹介します。

まずは飲み薬を飲みやすくする技術についてです。「良薬は口に苦し」ということわざがありますが、飲み薬は苦くないに越したことはありません。「薬の苦味」は薬を飲むことをやめてしまう原因のひとつに挙げられます。そこで、苦い薬を苦いと感じさせないような技術として、錠剤を薄いフィルムでおおった「フィルムコーティング錠」、糖類や甘味料などで薬をコーティングして錠剤にした「糖衣錠」があります。また、コーティングした錠剤であっても口の中で溶け出すと苦味を感じるものには、極めて細かい粒子にした有効成分にスプレーでコーティングを行い、コーティングした粒子を錠剤にすることで口の中で溶け出しても苦みを感じにくくする技術などが使われます。また、口の中に入れるとすぐに唾液で溶ける技術として「口腔内崩壊錠」があります。通常の錠剤などと同様に水で飲むこともできますが、手元に水がない場合や水分の摂取量を制限している場合にも服用しやすく、薬の利便性が高まります。

次は、有効成分が長く効くための技術です。有効成分にはそれぞれ性質があり、素早く代謝(分解)されるものがあります。何の技術も用いない状態で服用(使用)すると、すぐに有効成分の効果がなくなってしまうために何回も薬を服用(使用)する必要があり、利便性の低い薬になってしまいます。そのため、薬を服用したり注射した後に有効成分がゆっくり溶け出したり、有効成分が分解されにくくすることで、有効時間を長くして服用(使用)回数が少ない薬にすることができます。

有効成分を守る技術もあります。有効成分によっては胃酸によって分解されたり、効果が落ちるものがあります。胃酸による有効成分の分解を防ぐために、胃酸によって酸性になっている胃内とアルカリ性になっている腸内のpHが異なることを利用して、胃では溶けずに腸に達することで初めて錠剤やカプセルが溶け出す技術(腸溶性コーティング)が用いられています。

副作用を軽減させる技術も紹介しましょう。たとえば、昔からあるがんに効く薬では、その有効成分は血液にのって全身を巡るため、正常な組織にまで影響を及ぼし、強い副作用が生じていました。しかし、がんに効く有効成分をある種の「リポソーム」という非常に小さなカプセルに閉じ込めて血液に送り込むと、がん細胞が存在する組織には届けられ効果を発揮しますが、他の正常な組織へは届けられにくいため、副作用を減らすことができます。

このほかにも、よりよい「薬」にするためにさまざまな技術が用いられています。近年、テレビや映画などでは脇役がバイプレイヤーと呼ばれて注目を集めていますが、有効成分の力を十分に発揮させるためのこういったバイプレイヤー(=技術)にも注目してみませんか。薬に用いられているこのような細かな技術について患者さんにお話しする機会はあまりありませんが、薬の専門家である薬剤師はこのような技術的なことも把握しています。一度担当の薬剤師に聞いてみると、お使いの薬のことをより深く知れて、また違った視点で薬をみることができるかもしれません。


薬に使われているさまざまな技術の図

(2018年Vol.57夏号)
審J2005100

日笠 真一先生​ 兵庫医科大学病院 薬剤部