薬剤師のハートトーク

ISGインストラクター


当院薬剤部で仕事をする看護師さんたち:ISGインストラクターさんを紹介したいと思います。
ISGインストラクターという職種は当院独自の職種です。看護師の免許を持ち、看護部ではなく薬剤部所属でパート出勤、入院・外来の在宅自己注射の手技指導と、血糖測定機器の貸し出しと手技指導に当たっている人たちです。現在6名いて、日勤帯の忙しい時間帯には3名が院内にいるようにシフトを組んでいます。もともとは糖尿病のインスリン自己注射にペンタイプが登場し、簡易血糖測定機器の貸し出しと併せて、薬剤師ではなく専任の看護師さんがインスリンペンの使い方の指導をする目的で開始しました。家庭の事情から、パートで働きたいという看護師さんを薬剤部に採用したのでした。看護師さんが指導するメリットとしては、「最後にどうしても自己注射する勇気が出なかったとき、【代わりに施注して】、次回また一緒にやってみましょう、と予約をして、患者さんが自信をもってできるように寄り添ってあげられる」ところでしょうか。
この看護師さんたち:ISGインストラクターさんたちが薬剤部に所属していることで、薬剤の情報提供が薬剤師からできること、インストラクターさんが気が付いたことを薬剤師に報告してもらいやすいこと、患者さんの状態がモニタリングしやすいことが優れています。また、患者さんの訴えについても、薬剤師が対応したほうがいいもの、医師に報告が必要なもの、手技指導に特化してインストラクターが対応したほうがいいものを判断し、良好な対応ができるところです。在宅自己注射の適用がある採用薬は昨今ずいぶん増えてきました。糖尿病をはじめ、骨粗しょう症、リウマチなどの当院採用薬で在宅自己注射の適用があるものは56種類あります(そのうち20種類はインスリン製剤)。もちろんこの中には、血友病の患者さんが使用される凝固因子製剤も含まれています。
思い起こしてみると、昔は凝固因子製剤の定期補充の考え方がなかったので、救急薬局で当直や日直をしているときに、痛くなったり出血して患者さんが救急に来られていました。そうして来られた小児患者さんに凝固因子製剤を救急薬局から払い出したのが、私にとっての血友病患者さんとの初めての出会いでした。その頃はまだ、病棟で薬剤師が患者さん(やその家族)に「服薬指導」をする時代ではなかったので(調剤室で調剤をするのが薬剤師の仕事だったのです)、血友病という病気や治療薬についてあまり知識がなく、当直明けに本を開いたのを思い出します(そうです、インターネット検索ではなく本!)。その後「服薬指導」という業務のために私が小児病棟を担当するようになってから、在宅自己注射が認められ、母子で1~2泊週末入院されて、医師の指導の下、小児病棟の看護師さんの見守りで、お母さんたちが在宅注射の手技を習得され、お家で定期補充を始められたことも印象的でした。製剤の説明や清潔操作については少し補足説明をしましたが、実際の手技には薬剤師である私はほとんど関わりませんでした。
今在宅自己注射を認められている多くの注射剤は皮下注射です。中にわずかに筋注もありますが、やはり一番大変なのは静脈注射、凝固因子製剤の自己注射の難点です(ということで、最近では皮下注製剤の開発も進んできていますが)。

ISGインストラクターによる在宅自己注射指導

入院・外来での在宅自己注射専門に指導をする看護師として、医師の指示の下で指導を行っています。特に、初回導入時の指導を担当しています。診察日に関係なく、平日時間内及び祝日ではない土曜日の午前中は、手技について疑問点等あれば、その都度対応を行っています。最近は、高齢の方も多く、安全・確実にご自宅で自己注射薬をご使用いただけるように努めています。(当院HPより)
阿曽沼 和代先生 ※ISGインストラクターとは、当院独自の職種です。I(Insulin:インスリン)、S(SelfMonitoringBloodGlucose:自己血糖測定)、G(GrowthHormone:成長ホルモン)

成人の患者さんで心に残っているAさんは、当時41歳でした。
ふらつきを主訴に、消化管出血で消化器内科入院となりました。中学生の時に大腿血腫を発症して輸血歴あり。止血能異常を指摘され、精査の結果血友病Aと指摘されている、ということでした。その後はB病院にかかりつけではあったのですが、特に加療なく経過を見られていたようでした。入院2カ月前に吐血あり、かかりつけのB病院を受診されて経過を診られていました。入院1週間ほど前に嘔気嘔吐あり、急性胃腸炎として加療されたのですが改善なく、内視鏡検査で胃潰瘍と出血のあることがわかり、当院紹介となられたのでした。カルテには、「凝固因子補充歴あり。輸血歴あり。輸血後肝炎あり。既往:血友病(無加療)肝炎(中学生、輸血後肝炎)アレルギー:なし」。公的な申請もできておらず、当時私が担当していた血液内科へすぐに相談がありました。消化管出血は治療終了でき、医療相談室のソーシャルワーカーさんが手際よく公的な手続きを終えてくださって、退院も近くなった時、血液内科の医師から「自己注射の指導をしてもらえないか」とインスリン自己注射指導依頼の存在を知っている血液内科医師から私に打診がありました。当時、インストラクターさんたちは、皮下注射の指導は山ほどしていたのですが、静脈注射の指導は初めてでした。インストラクターさんたちに、血友病の勉強からしてもらいました。彼女たちも「静脈への自己注射」の指導は初めてで、練習キットで十分準備してくれました。
Aさんはなかなか勇気が出なかったこともあり、また血管が逃げてうまく施注できず、医師の診察はなくても、通院して一緒にやってみることが続きました。
結果的には彼は半年以上かかって、手背に自己注射できるようになったのでした。毎回私も気になって「どうだった?」と聞いてみたり「今日はいいとこまでいったのに、最後やっぱり穿刺できなかった」と報告してくれたり。やっと「できそう」と予約なく帰られても、やっぱり無理…明日病院で一緒に、ということになったり、と、私も一緒に一喜一憂しました。とうとうご自身でも自信がつき、失敗してもやり直しもできるようになった時は、皆で大喜び、ほっと胸をなでおろしました。初回指導から約8カ月、49回目の指導で終了したのです。インストラクターさんたちに「本当にありがとう」と頭が下がりました。その後、製剤の切り替え時には、施注の手技には問題もなく、製剤の溶解方法などについてのみ指導し、一回で終了できたようです。
私たちも彼のことを思い出すこともなくなった頃、肝炎の治療で入院された時には「病室にいても暇だったから」と薬剤部に顔を見せに来られ、当時のことを思い出して皆で談笑したことも懐かしい思い出です。
いつでも気軽に相談できる窓口として、薬剤部のインストラクターさんたちを信頼してくれていました。在宅自己注射で定期補充を始めるまでは、体調不良はしばしばのことでした。出血、関節痛などの度に休むので、仕事に就いても長続きせず、アルバイトを転々とされていたようですが、定職に就かれ、月1回の通院で生活も安定し、元気に過ごしていると報告もしてくださいました。
当院のように、様々な疾患で在宅自己注射の適用となられる患者さんが多いと、こういった手技指導の専門職種を独自に運用することで多くのメリットがありました。
ある製剤については、導入後の脱落率はゼロであることにメーカーさんがびっくりされた(一般的には30~40%が脱落、と)のでインストラクターさんのことを紹介しました。
外来の看護師さんが指導をしている病院も多いと聞いていますが、院内異動も多く、固定化が難しいです。また、煩雑で忙しい外来では、薬剤部とは業務の時間的な流れが違うので連携もとりにくいと思います。当院のISGインストラクターさんたちは薬剤部に所属しているので、いつでもやり取りができ患者さんの情報を共有しやすいのです。患者さんたちにとても近い存在になり、お家で不安なことなどがあったら気軽に電話でも相談していただくこともでき、それを皆で共有できています。最近、使用する製剤が変更になった患者さんたちも、外来の忙しい診察室や処置室でなく、薬剤部の説明室で落ち着いて聞くことができます。変更になる溶解方法やそのほか気になる点について、処方薬を受けとって実物を見ながら説明を聞いたり質問したりできています。そこで自信がなければ、自分でインストラクターさんと一緒にするように予約を取って何度でも納得いくまで一緒にやってみることができます。私たちも患者さんたちの手技等を確認できて安心です。
さらに、注射針や廃棄物についても最初に手技説明の一環として具体的に説明を受けるので、患者さんたちは悩まず困らず、正しく廃棄することができています。
私たちは患者さんをしっかりフォロー・サポートできる薬剤部でありたいといつも思っています。
これからもよりよいシステム作りを考えていきたいと思っています。

(2019年Vol.60春号)
審J2005103

阿曽沼 和代先生 倉敷中央病院 薬剤部 本部長補佐