風の音~輝く星たち~

「大人」

5歳になる甥っ子の最近の口癖は「大人になりたくなーい」です。皆さんは、どこまでが子供でどこからが大人だと考えますか?私は1人暮らしをして、門限がなくなった時に、大人だ!!と思ったのを覚えています。

半面、今でも、世の中のこんなことも私は知らなかったのかと、子供の頃に思い描いていた大人像から自分がずいぶん離れていることに落ち込みます。

無知であることが、自分の選択肢や自由を狭めているかもしれないと、努力しない自分を反省する一方、恥ずかしながらその反省は継続しないのですが…。

さて、どこまでが子供でどこからが大人だと考えますか?という投げかけは、お察しの通り、血友病の医療費助成が子供と大人で活用する制度が異なることを指しています。

ソーシャルワーカーとして、皆さんに、ご自身が活用なさっている血友病の医療費助成について改めて知っていただきたいと思い、悩んだ末、このテーマにしてみました。というのも、時々「親が手続きしていたからよく分からない」と困っていらしたり、手続きが滞っていたがために、手続き後に再受診なさったり、医療費がかかってしまったりする方がおられるからです。

その前に少しだけ。血友病の医療費助成が公費で0円になるまでには、専門医と患者会の尽力がありました。この制度は先人たちの苦しみや努力の上に成り立ってきた制度です。私は、その当時まだ働いておらず、大変さを共有してきた世代ではないので、私自身も本当の意味で理解はしていないのかもしれませんが、血友病の医療費助成の成り立ちや歴史が、正しく次世代へ紡がれていくことも大事なことのひとつであると思っています。

さて、話を医療費助成に戻します。
血友病で利用する医療費助成制度は4種類。
①公的医療保険(健康保険法)②特定疾病療養受療証(通称マル長、以下マル長/血友病A・Bのみ/健康保険法)③小児慢性特定疾病医療費助成制度(以下小児慢性/基本18歳未満まで、条件により20歳未満まで延長あり/児童福祉法)④先天性血液凝固因子障害等治療研究事業(通称マル血・マル特、以下マル血/難病の患者に対する医療等に関する法律)

この4種類を組み合わせて活用することで医療費負担が0円になる仕組みとなっています。
①+②+③もしくは④(子供は③、大人は④)

なぜ、小児慢性は18歳~20歳までなのか。その答えは制度の根拠法にあります。小児慢性は児童福祉法に基づいており、児童福祉法では〝児童とは、満十八歳に満たない者をいう〟と定められているからです。(但し、小児慢性制度では18歳到達時点で治療と小児慢性制度の継続が必要と認められた場合、20歳未満まで延長が認められます)

また、医療費助成には優先順位があり、下記のように活用すべき順番が定められています。

医療保険>マル長(特定疾病療養受療証)>小児慢性>マル血(先天性血液凝固因子障害等治療研究事業)

そのため、子供は小児慢性、大人になったらマル血となっているのです。年齢以外でも制度切り替えの手続きを要する場面はいくつかあります。就職や転職でご自身の保険証を持った際も、マル長の手続きが必要です。どうでしょうか?少しでも「へぇ~」とか、医療費助成制度について知ろうと思うきっかけになっていただけましたか?青年期になると、親御さんから離れて、一人や友達だけで外出したり、コミュニティも行動範囲も拡大していきます。出先や旅行先で急遽受診が必要になることがあるかもしれませんが、制度を理解しておくことで、安心して楽しんでもらえると思っています。知らなくて損をしたという体験はありませんか?知識は、選択肢と自由と可能性を広げてくれます。これから大人になる皆様へ、大人になるタイミングでご自身の制度を今一度知る機会にしていただけたら嬉しいです。大人として“自分で自分のことを”なさろうと思われた時、ソーシャルワーカーのお手伝いが必要だったらおっしゃってください。私達ソーシャルワーカーの支援が、皆様の生活や人生の豊かさに繋がったらとても嬉しいことです。

「大人になりたくなーい」という甥っ子にも、私自身のことは高く棚にあげながら、「自分のことが自分でできるようになって、大人って楽しいことが増えるよ」、そう伝えてあげようと思います。

(2020年Vol.66冬号)
審J2101502

大竹口 幸子 東京医科大学病院 総合相談・支援センター ソーシャルワーカー