目次

11.海外に行く、暮らす

Q

仕事で初めて海外に行くことになりました。税関や入国審査、緊急時の対応など、不安があります。事前に準備することなどを教えてください。

A

赴任期間、赴任先、健康保険の扱い方など、いろいろな条件によって準備も違ってきます。北米・欧州・豪州・台湾や韓国などでは、現地で製剤を入手することもできますが、現地で製剤を入手できる、これらの国でも、高額な一時負担が生じます。また、それ以外の国では原則、簡単には入手できないと覚悟し、原則、自分が製剤を持っていくことを前提としてください。

さて、二つに分けて回答いたします。

旅行を含め、在外期間が3ヵ月以内の短期間の海外滞在の場合

疾病や製剤に関する英文証明書の準備

入国手続きや税関で液体や注射器の持ち込みが問題になることがあります。主治医に英文証明書を書いてもらい、用意します。

製剤数の検討

出血のしやすさと渡航期聞によって決めますが、旅行では普段よりたくさん歩いたり、アクティビティに参加したりしますので、普段よりも多めに見積もってください。

渡航先の専門医療機関を調べる

WFH(世界血友病連合World Federation of Hemophilia)のサイト(http://www.wfh.org/)で検索できるほか、製剤メーカーのサイトにも掲載されていますので、ご利用ください。また、そのリストになくても薬によっては滞在予定近隣に納品先の医療機関がある場合もあります。詳しく知りたい方は、主治医の先生にご相談して、使用している製剤のメーカーに調べてもらうのがよいでしょう。

製剤の保管

数週間の旅行や出張でも、常温の範囲(5〜30℃)を保てるのであれば、冷蔵庫は特に必要のない製剤が増えています。持ち歩いても暑くなり過ぎたり、液体が凍ったりしないことを確認できればOKです。冷蔵保存を考慮する場合は、滞在先で製剤を保管できるような冷蔵庫があるかどうかを調べておいてください。部屋に冷蔵庫がないホテルが当たり前という国もあります。なお、帰宅後は持ち歩いた物から先に使用してください。

旅行中の損害・医療保険

約款で血友病が除かれている場合や医療補償金額が低水準の場合もありますので、注意してください。空港で思いつきで加入するのではなく、事前に調べておいた方がよいでしょう。

在外期間が半年以上の海外赴任・留学の場合

旅行を含めた短期間の海外滞在の場合に加えて、健康保険への対策、製剤の入手が問題となります。

健康保険(医療保険)について

会社の健康保険にそのまま加入し続けられ、かつ住民票も異動させなくてよいのであれば、これまで通り、医療費補助を受けながら製剤を日本で入手することができます。問題は運搬だけです。しかし、会社の健康保険からいったん離れ、赴任国の医療保険に各自加入するよう言われるケースにおいては、これまで通りとはいきません。多くは赴任先の民間保険会社と契約することになりますが、補償医療費に限度額が設定(たとえば2万ドル程度)されている、あるいは血友病が対象外にされている、入ろうとすると高額な保険料になるといった事例があります。血友病を会社に伝えていない人の場合は大変に悩むことになるでしょう。これを機会に会社に打ち明けた人もいます。ちなみに住民票を日本から海外に移した場合は日本の住民税は納めなくてよくなりますが、国民健康保険に加入することもできなくなります。マイナンバー制度の運用開始により、この管理が厳格化することも予想されます。このあたりは複雑なので、ソーシャル・ワーカーとよく相談する必要があります。

製剤の運搬

日本で製剤を入手して、赴任先へ製剤を持ち込む場合ですが、入国後、半年以内であれば、本人の荷物として送ることができます。しかし、過ぎると輸入品扱いとなり、多額の関税がかけられる可能性があります。また、送った薬がトラブルや盗難で届かなくなってしまう国もあります。この辺の事情については前任者や周囲からよく情報収集しておいてください。確実なのは本人が半年に1回一時帰国して、その都度、持参することですが、病院も一度に多量の製剤を処方することはできませんので、輸注量の多い人は、事前に何度かに分けてもらっておくよう、お願いしてください。

その他

膝の可動域に制限がある人ですと飛行機の座席に長時間座ると出血をすることがあります。最低でも1回分程度の製剤は機内に持ち込んでおくと安心です。また季節や航空会社によっては関節の不具合を事前に伝えると多少の便宜を図ってもらえることもあります。

最後に自分がよく出血する場所、痛みの表現も渡航先の言葉で言えるといいですね。余裕のある人は勉強して片言で言えるようにする、あるいは、書いた物を作ってみてはいかがでしょう、より安心できます。

海外旅行等により携帯して海外へ持ち出す血液製剤等の取扱いについて

血液製剤を使用する方ご本人が、海外旅行等で出国する際に血液製剤を携帯する場合は承認を受ける必要はありません(輸出令第4条第2項第4号及び同令別表第6より)。
なお、ご家族をはじめとした血液製剤を使用する方以外の方が、海外に出国されている血液製剤を使用する方のために、血液製剤を携帯して出国する場合には、携帯品には当たりません(同別表第6備考1より)。
海外で個人的に使用するための血液製剤を、使用する方やご家族をはじめとした血液製剤を使用する方以外の方が、国際郵便等により海外に送付する場合は承認を受ける必要がありません(輸出令第4条第2項第2号及び同令別表第5第3号の規定により)。

【平成29年5月16日付 薬生血発0516第1号より引用】