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14.遺伝の相談

Q

告白するときにもっとも説明しづらいのが、遺伝の話です。皆さんはどうしていますか。

A

パートナーに告白して了承してくれれば、ゴールインというわけにはいきません。血友病がX連鎖(伴性)劣性遺伝で、娘の男児(孫)に血友病児が生まれるかもしれないと知った時に、相手の家族が反対することもあるのです。理解を得るまで根気よく説得を続ける、友人にもどる、二人で押し切る、義父母には言わずにおく…いろいろな選択肢が想定されますが、いずれにしてもパートナーにも相当な負担がかかりますので、患者さんはそれを理解し、パートナーをしっかり支える覚悟が必要です。他の疾患でも言えることですが、患者さん本人は医療機関で検査値を知り、説明を受け、不安を尋ねることもできます。しかし、パートナーにはそうした機会はありません。本人が承諾しない限り、医療者も本人情報をパートナーに伝えることもできないのです。パートナーを心配させまいと情報を隠すよりは、ときには医療機関に同伴して一緒に診察を聞いてもらった方が、結果的に不安は軽減されるようです。血友病遺伝の仕組みや知識については、クロスハートや他の冊子にも解説されているので省きますが、遺伝の説明では第三者である医療者の説明が有効なことがあります。説明の進め方についても主治医やスタッフに相談してみてください。

もうひとつ頭に置いてほしいのは、「孫」のことを何年後に心配しなくてはならないかです。25年後ですか?30年後でしょうか?血友病医療は進歩し続けています。その頃には1回注射すれば何週間、何ヵ月も効く製剤、注射ではない製剤、凝固因子をうまく作れない肝臓を治してしまう治療等々、おそらく今よりもずっと楽で良い方法が考案されていることでしょう。

そうは言っても、保因者の成人女性にとって出産・子育ては明日にも直面する問題です。子どもの結婚を懸念する親、挙児希望の保因者の方からの相談は少なくありません。血友病でない子どもを産むことは事前の工夫でできるだろうかという質問は、最も多い内容のひとつです。結論から言ってしまえば、日本では技術的には可能であっても致死性の病ではない血友病は、原則、産み分けの対象とはされておりません。もちろん大変な想いをした両親、傍で苦労と寂しい想いを経験した兄弟姉妹もいるでしょう。そのような人たちが我が子、孫に同じ想いをさせたくないという強い気持ちがあっても十分理解できます。

ただ私がお会いしたほとんどの患者さんは血友病に生まれたことで、親を恨んでもいませんし、疾病の苦労を乗り越えられないものとも考えていません。確かに血友病児が生まれる可能性を知っておけば、難産になった際に頭部に負担のかかる出産方法を避け、万一の頭蓋内出血などの事故を未然に防ぐことができます。知っておくことは大変に重要と言えます。しかし、その可能性ゆえに結婚や出産を断念しようとするなら、その前に患者会のサマーキャンプなどに参加してみてください。そして皆と無邪気に遊ぶ子どもの姿を見てください。外見では誰が患児なのか区別はつきません。そして子らを見ている親たちの表情にも暗さはありません。きっと力づけられることでしょう。