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2.柔道・剣道の授業に向けて

Q

中学校に入学すると、柔道が必修だと聞かされました。
身体をぶつけ合うような武道はやらせてもよいのでしょうか?休ませるべきでしょうか?
体育の先生方とは何を打ち合わせておかねばならないのでしょうか、教えてください。

A

身体をぶつけ合う武道は、血友病患者にお勧めのスポーツとは言えませんが、血友病患者さん一律に禁止するような時代でもありません。まして今回のように学習指導要領で必修化されていますので、全く参加しないのも、本人は肩身が狭いでしょう。反対に軽症血友病だからと危険性を無視するわけにもいきません。血友病でないお子さんでも危険なこともあります。これを機会にお子さんと一緒に病気と自分の症状について学習、再確認しましょう。

ここでは原則をあげて説明し、その後に具体的な注意事項をいくつか述べます。

原則 その

個人の病態、体調、練習内容によるので、参加の仕方を一律には決めない。

参加すると決めても不調で参加できない場合や不参加にしたが内容を見てできそうだと思える場合など、状況は変化します。柔軟に対応してください。

原則 その2

本人の判断を信じる。

中学生ともなれば、血友病の出血との付き合いも長くなります。武道練習の内容を見て、自分で判断することができるでしょう。もちろん友人と一緒にしたいから無理する、辛いから痛いと言って、サボることもあるかもしれません。しかし、どちらにしても注射をする羽目になるのは自分です。まずは信じてあげてください。成人患者さんはよく言っています。「何が辛いって、痛いのに信じてもらえないのが一番辛い」。

原則 その3

前述の2点について事前に体育教師、本人と親の三者が合意しておく。

参加の仕方について、いろいろあることを事前に、体育の先生や担任の先生と合意しておくことが大切です。

さて具体的なチェック項目です

  • 1. 正座が続けられる

  • 2. 短時間なら正座できる、または曲げた足首の上に尻をのせ、正座風に座れる

  • 3. 立膝、またはあぐらができる

  • 4. 体育座りのみ

柔道にしても剣道にしても礼法に則り参加するとなれば、正座は基本姿勢のひとつとなります。1.2.であれば、時間はともかく、とりあえず形はできます。
しかし、3.4.では形をとることもできません。事前にどのようにするかを話し合っておいてください。また指導者が見学者に長時間の正座を強要するようなことがないようにも注意してください。

  • 1. 頭蓋内出血の既往がない

  • 2. 頭蓋内出血の既往が乳幼児期にあった

  • 3. 頭蓋内出血の既往が幼稚園から小学校にかけてあった

1.軽症でほとんど出血がなく、ターゲット・ジョイント(標的関節・出血を繰り返すようになってしまった関節)がなくても、頭蓋内出血などの危険性を考えると剣道の地稽古、柔道の乱取りはできれば避けたいものです。それでも行うのであれば、経験者と組み合わせるなどの配慮が必要です。
2.では地稽古・乱取りは禁止。剣道の打ち込み稽古などでの受け、柔道の大きい投げ技などの受けの練習も避けてください。
3.に関しては柔道の受け身、剣道の形、素振り程度に留めてください。いずれにしても授業後、あるいは帰宅後に頭痛や吐き気、めまいや悪気などの変調が起きたら、直ちに主治医に連絡をしてください。関節・筋肉の痛みも出血が原因なら直ちに家庭治療を行ってください。

  • 1. 股関節・膝・足首などに問題がない

  • 2. 頻繁ではないが無理をすると股関節・膝・足首などに出血する

  • 3. 股関節・膝・足首などで頻繁に出血を繰り返す部位がある

1.であっても無理な柔軟体操などは避けてください。特に相撲を選択する学校では股割りや柱に向かってのつっぱりの練習などは禁止です。
2.剣道場でなく、体育館での剣道練習は床が固いために足首を傷めやすいものです。剣士用の「かかとサポーター」を使っても出血するようなら、打ち込みの練習は止めてください。柔道では、投げる側でも関節に無理がかかる技は注意しましょう。
3.であれば、柔道の固め技でもひどい皮下出血や関節出血を起こす危険もあります。受け身の練習、あまり踏み込まない程度の形の練習に留めてください。

  • 1. 製剤が校内にあり、自己注射ができる

  • 2.  自己注射はできないが、製剤が校内にある

  • 3. 自己注射はできず、製剤も校内にない

出血が起きた時、いかに早く凝固因子製剤を投与できるかが、予後を左右します。いつもは学校に製剤を置いていない場合も、武道の授業期間中だけでも校内に製剤を置いてもらえるようお願いしましょう。人が快適に過ごせる温度の範囲(常温といいます。5〜30℃)なら冷蔵庫内でなくてもよい製剤が増えています。常温でよいなら、先生に相談して職員室の棚の隅にでも置かせてもらってください。なお、使わなくても定期的な薬の交換も忘れずにお願いします。自己注射ができない皆さんはこれからのこともありますから、これを機会に覚えてみてはどうでしょう。
いろいろ申し上げましたが、多くの皆さんが楽しく授業を受けておられます。