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6.インヒビター

Q

お母さん仲間の児がインヒビターが出たと言われたようで、落ち込んでいます。何か言ってあげたいのですが…

A

安全で便利、しかも効果的な凝固因子製剤が開発されている今、これまで書いてきたように、血友病の患者さんには、“まずは普通に運動しましょう”、”出血しないように定期的な注射を心がけましょう”、”出血時は必要量を輸注して安静にしましょう”、“腫れがひくまでは痛みがなくても輸注しましょう”などをお話しして良い状態を保ってもらえるようになりました。

しかし、血友病を少しでも勉強したことのある方なら、“インヒビター発生”がどれほど面倒な事態を引き起こすかは十分にお分かりでしょう。インヒビター患者さんには第Ⅷ因子や第Ⅸ因子製剤がなかなか効きません。バイパス止血製剤がありますが、バイパス止血製剤は出血直後でないと十分な効果が発揮されなかったり、たくさんの輸液を時間をかけて注射しなくてはいけなかったり、第Ⅷ因子や第Ⅸ因子製剤と同等の使い勝手や効果を得るまでには至っていません(将来は分かりませんが)。

そもそも血友病が男児1万人にひとりの稀な病気、重症のインヒビターはその血友病の5~15%程度とも言われています。こうした状況の中、インヒビター患者さんは患者会の中でも孤立感を強めることがあります。つまり、患者会に参加して他のお母さんの「普通にさせてあげれば良いのよ。製剤があるから大丈夫」といった意見でも、インヒビターのお子さんを持つ母親は「通常の製剤が効かない私たち母子とは違う」という気持ちになるのです。あるお母さんがおっしゃっていました。「血友病が稀な疾患なので、こうして話し合えることはとてもうれしかった。地球にいる宇宙人がやっと集まって悩みを話している感じ。でも、しばらく話していると、ここでもメジャーなのは火星人と金星人。インヒビターの私たちは、宇宙人の中でもどこかの衛星出身者みたいなもので、当てはまらない話も多くなる。」こんな時は助言や激励よりは、安心して話せて、黙って聞いてもらえるだけでも、いいのです。もし、お近くにインヒビターに悩む方や家族がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。

もしインヒビター仲間と話がしてみたいと感じていらっしゃる方がいらっしゃいましたら、今は”全国ヘモフィリアネットワーク”という組織がありますし、東京近郊であれば、筆者の病院でご紹介することはできます。

この領域も現在、急速に進歩し、免疫寛容導入療法、中和療法、バイパス止血療法などで、止血管理や治療が行われています。これまでにない複合因子製剤も開発されつつあります。インヒビターを消すことに成功している患者さんも少なくありません。近い将来、このインヒビター患者にも効果のある製剤ができるはずです。期待がもてますね。