第9回 血友病患者の予防接種について考える
本誌監修の吉岡章先生が血友病の専門医(家)にインタビューし、ひとつのトピックスを掘り下げる「クローズアップハート」。予防接種の大切さや疑問、内服する際に血友病患者が注意しなければならないことなどについて、血友病治療にも熟知されている小児科医である西畠 信先生にお答えいただきました。
予防接種はどのように受ける?
吉岡先生最近の子ども達は、生まれてから小学生時代までたくさんの予防接種を密なスケジュールで受けることになっていて少々大変な気もしますが、やはり推奨されたスケジュール※通りに受けるのがよいのでしょうか。また、混合ワクチンは将来的に2~3種ではなくて、6~7種という多種類混合になってくるのでしょうか。
※日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(ホームページ参照)
西畠先生1歳前に接種するワクチンは6~7種類あり、複数回接種するものもあるため接種回数は15回以上にもなって確かに大変です。しかし、小児科学会が推奨するスケジュールで予防接種することで、接種忘れなどを防ぐことができます。混合ワクチンの方が明らかに簡便なのですが、それぞれのワクチンを作った経緯や副反応が異なるため難しい面があります。同時接種で副反応が発現する可能性はそれぞれのワクチンの足し算とされており、掛け算で多く発現するわけではありません。ただし困るのは、副反応が出やすいワクチンと出にくいワクチンがあるので、例えば一度に4種接種した時にどのワクチンで発熱したのかはわかりませんし、次回は副反応がみられたワクチンを抜くということができません。親御さん自身はこんなにたくさんの予防接種を受けた経験がありませんので、事前によく説明しておくことが大事だと思います。
予防接種時の注意点
吉岡先生血友病のお子さんが予防接種を受けるにあたって、出血等特に気をつけることはありますか。また予防接種を受けることで何かマイナス面はありますか。血友病とわかっている場合とわかっていない場合があると思うのですが、どのようにお考えでしょうか。
西畠先生日本ではワクチンは基本的に皮下注射で行います。筋肉注射となっているは12歳以降の女性を対象とした子宮頸がんワクチンだけなので、血友病患者さんの場合でも大きな影響はないですね。ですから普通の赤ちゃんと同様に接種してかまわないのです。通常は予防接種の皮下注射は皮下組織のうちでもできるだけ筋肉に近いやや深いところに注射するようにとされていますが、血友病のお子さんでは筋肉注射をしてしまうと筋肉内出血を起こすことがあります。
吉岡先生日本は皮下注射を原則としていて、出血が問題になっている事例はまずありません。だから皮下注射さえ守っていたら、血友病と診断されていない場合でも何も起こらないということですね。もちろん筋肉注射をするということであれば補充療法をしてから接種しなければならないのですが、乳幼児期にすでに血友病と診断がついていた場合に、「ワクチンは普通に受けてよいのですか?」と親御さんに聞かれた場合はどう答えたらよいでしょうか。
西畠先生皮下注射であれば問題はないですし、ワクチンの打ち方としては皮下組織の厚いところにちょっと浅めに打つということですね。そして注射後は、特に、揉まないで長めに押さえていただくことも大切です。
インフルエンザワクチンは受けた方が良い?
吉岡先生小児では、インフルエンザワクチンは一般に年に2回受けることを原則としていますが、これは接種しておいた方がよいのでしょうか。それとも必ずしも接種しなくてもよいのでしょうか。0歳時ではいかがですか?
西畠先生インフルエンザワクチンは毎年接種しておくべきだと思っています。世間ではインフルエンザワクチンを受けたけれどインフルエンザに罹ったということがよく言われています。しかし、疫学上では0歳児でも生後6カ月以降は免疫を獲得できるので接種してよいということになっています。確かに1歳台までは予防接種によるインフルエンザの回避率は10数%であまり高くありませんが、毎年予防接種を受けていると次の年には1回接種だけでも抗体が上がるとも言われており、0歳時から毎年1回は接種する方が大切です。
B型肝炎ワクチンの重要性
吉岡先生血友病患者の場合、B型肝炎ワクチンの接種についての推奨が明確ではない時代から、今日ではB型肝炎ワクチンは接種しておきましょうということでやってきています。その点について先生はいかがお考えでしょう。不利益を被るようなことはありますか。
西畠先生B型肝炎ワクチンを接種することには賛成です。B型肝炎は一時期、母子感染を予防すれば日本からB型肝炎キャリアはいなくなるのでは?と言われていたのですが、全くそのとおりにはなっていません。当初の予想以上に水平感染が多いこともわかったため、一昨年からB型肝炎ワクチンは定期接種に組み込まれました。特に血友病患者さんは、出血した場合に輸血や血液製剤、FFP(新鮮凍結血漿)を投与する可能性が考えられますので、接種しておいた方がよいと考えられます。
その他、薬を服用する場合の注意点
吉岡先生感染症は小児と大人という区別はなく誰でも罹るのですが、血友病患者であるがゆえに感染症で気をつけておいた方がよいということは何かありますか。血友病患者では特にこの病気は気をつけなさいというような。
西畠先生特に無いと思います。ただ血友病患者さんの場合に症状で気をつけなければならないのはけいれんです。普通の子供だと熱性けいれんで済むかもしれませんが、血友病だと熱があってけいれんがあって、特に麻痺を残したり片半身が動かないとか複合型の熱性けいれんの場合には、まず頭の出血を考えて対応することが重要です。
吉岡先生次に薬についてですが、感染症に罹って解熱薬や痛み止めを含め、お薬を投与される場合、血友病患者では何か注意が必要でしょうか?
西畠先生最近、日本の解熱薬はほとんどアセトアミノフェンなのであまり影響はありませんが、アスピリンは血小板の機能を抑え出血傾向を助長しますので、血友病の方は気をつけた方がよいと思います。解熱薬以外のお薬では、血友病以外の方と変わらないですね。
吉岡先生予防接種やお薬に関する具体的なお話を伺いありがとうございました。出血の管理・予防ができていれば血友病のお子さんも持っている能力を思う存分発揮できる時代になっています。ただし、血液凝固因子製剤の予防投与をしていたとしても出血は起こりえますので、血友病患者を診る医師はこの点に気をつけないといけないと思います。
西畠先生病気を克服する、闘うということではなく、病気と仲良くすることが大切だと思っています。「無病息災」といいますが「一病息災」が良い場合もあります。ひとつ病気があって大人になっていくということもあるのではないでしょうか。
(2019年Vol.62秋号)
審J1909128