第11回 血友病患者さんと訪問看護
血友病の専門医(家)に監修の吉岡先生がインタビューし、ひとつのトピックスを掘り下げる「クローズアップハート」。訪問看護は血友病患者さんのご自宅での注射の介助、リハビリテーション、その他の日常生活上の援助などを提供しています。今回は「横浜博萌会訪問看護ステーションにしよこはま」のスタッフのみなさんに、血友病患者さんが訪問看護を利用する際のメリットや注意点についてお聞きしました。
訪問看護について
吉岡先生訪問看護のことを知らない方も多いと思いますので、まずは一般的な訪問看護の制度について教えてください。
吉村さん訪問看護は、看護師等が主治医の指示のもと安心して生活や療養ができるようにご自宅に伺って看護を提供するサービスです。主治医が訪問看護を必要と認めた方であれば、小児から高齢者まで年齢を問わず全ての方が対象になります。訪問看護を受けたい方は、主治医や近くの訪問看護ステーション、ケアマネジャー、地域包括支援センター、市区町村の窓口などにまずは相談してください。その後、主治医に訪問看護の必要性を判断いただき、「訪問看護指示書」が交付され、初めて利用することができます。また、訪問看護では、医療保険ないし介護保険制度を利用することができます。利用できる保険の種類は、年齢や病名などによって決まります。
血友病の方でも40歳未満の方は医療保険、40歳以上の方で要支援・要介護の認定を受けられる方は介護保険、受けられない方は医療保険を利用することになり、保険制度は複雑になっています。
詳しくは利用する訪問看護ステーションなどに相談してください。
吉岡先生介護保険と医療保険が同時に利用できないこと、年齢と病名と介護度により利用する保険制度が異なるということですね。60~70代の血友病患者さんで訪問看護を希望される方はおそらく関節に障害があって自由に動けない方もいます。要支援・要介護の認定を受けた40歳以上の方であれば、注射をしてもらう場合、介護保険を使うということになるのですね。
患者さんのメリット
吉岡先生訪問看護ではどのような看護を受けることができますか。また血友病患者さんが訪問看護を利用することでのメリットなどを教えてください。
吉村さん主治医と密に連携し、心身の状態に応じて看護を行います。体調についての相談、必要に応じた在宅ケアサービスの紹介、関連機関との連携により患者さんの希望に沿った療養生活をかなえるための様々な支援や調整を行います。具体的には、日常の看護として健康状態の観察をし、清潔維持のためお風呂の介助、清拭、洗髪、口腔ケアなどのお手伝いや指導をします。あとは食事や栄養面のこと、排泄・おむつのこと、様々な相談を受けます。介護や福祉サービス、介護用品の紹介もします。その他にも、患者さんの状態を見ながらリハビリのお手伝いもします。また患者さん本人だけでなく、ご家族の介護相談や健康相談にも応じています。
血友病の患者さんでは、関節障害で自己注射が困難な場合や加齢により視力が落ちて自己注射ができなくなった場合や、注射をしてくれていたご家族が高齢になった場合など、訪問看護師が注射をすることで今まで通りの生活ができるようになります。関節内出血や筋肉内出血により日常生活動作に不便が生じた場合は、洗髪や入浴介助などの援助も行います。
根井さん約20年利用されている血友病の患者さんは、介入当初は20代後半でした。当初は看護師であるお母さんが注射をしていましたが、今後お母さんが高齢になり注射ができなくなることもあると考えたご本人から、訪問看護ステーションに注射の依頼がありました。その時点で訪問看護で血液製剤の注射をしているところがありませんでしたので、主治医に相談したり研修会に参加して技術を習得し、現在は訪問看護師も注射をしています。血友病の製剤は高価ですし、今でも緊張感をもって行っています。
訪問看護の申し込み方法と手続き
吉岡先生血友病患者さんが訪問看護を利用する場合、どのような手続きをしたらよいですか。
吉村さん訪問看護の入り口は色々あります。ケアマネジャーや地域包括支援センター、市区町村の窓口、病院の地域連携室・医療相談室などにご相談ください。
介護保険の認定を受ける場合は、市区町村の窓口や地域包括支援センターなどで申請をして、介護度を決める認定調査を受けます。
要支援または要介護に認定された場合は、担当になったケアマネジャーと相談し、決められた単位数の中で介護サービス計画を立て、訪問看護など様々なサービスを利用することができます。
血友病の方で、病院の地域連携室・医療相談室などとの関わりがある方は、そこから勧められて訪問看護ステーションに直接連絡してきたケースもあります。主治医から「訪問看護指示書」が交付されれば訪問看護を利用することができますので、まずはご相談ください。
吉岡先生訪問看護を利用する場合、血友病の患者さんでは、費用はどの程度あるのでしょうか。
吉村さん介護保険と医療保険で多少異なりますが、一般的には以下の通りです。
介護保険の場合、先天性凝固因子障害等治療研究事業で全額助成され、訪問看護師の交通費も介護必要単位の中に含まれているため、負担はありません。
一方、医療保険の場合、小児は小児慢性特定疾病医療費助成制度、成人は先天性凝固因子障害等治療研究事業で訪問看護の利用料は全額助成されますが、訪問看護師の交通費は別途必要になります。また、休日に利用した場合、料金がかかる場合があります。詳しくはご利用になる訪問看護ステーションに確認してください。
訪問看護がもたらす安心感
吉岡先生静脈、皮下注射など訪問看護を実施した血友病患者さんの実績と実例をご紹介ください。また、訪問看護を受ける以前と以降で、止血管理上や生活状況でどのような変化がありましたか。
根井さん現在1名の血友病患者さんが訪問看護を利用しています。区役所からの紹介で訪問を開始しました。インヒビターを保有していたため、関節内出血や筋肉内出血を繰り返して車いすの生活でした。1人でシャワーを浴びるのが難しかったためシャワー介助などの清潔のケアを中心に行っていました。ほとんどの時間を自宅か病院で過ごされており、お母さんが車に乗せて病院に行くという状態でした。注射はお母さんが行っていましたが、だんだん血管が取れなくなってきたためポートを造設しました。この時に、お母さんが高齢になってきたということで、今後は訪問看護師も注射をしてくれないかという依頼がご本人からありました。
そのため、主治医と相談の上、研修を受けるなどし現在はお母さんが不在の時や体調不良の時など、訪問看護師が注射を行っています。
前田さんその後免疫寛容療法を開始し、インヒビターが低下したため、出血することが少なくなりました。短い距離であれば歩行しても出血しなくなったため、1人で外出することもできるようになりました。特に、お母さんの付き添いがなければ行けなかった病院への受診や趣味の活動での外出ができるようになりました。
吉村さん訪問看護師が製剤の注射をできるようになったため、お母さんは今まで短時間の外出しかできなかったところ、遠方にあるご実家に帰省したりできるようになりました。また、ご本人も、お母さんに「行ってきていいよ」と言えるようになったことがとても良かったと思います。
また、お母さん自身が怪我をしたり、体調が悪い時でも、代わりに注射をしてくれる人ができたということは安心感につながっていると思います。
吉岡先生そういう面でも、訪問看護ステーションが果たした役割はとても大きいということがわかりました。
(2020年Vol.64春号)
審J2003362