Heart Hospital

大分記念病院血液内科/高田 三千尋先生 看護部長/東 美幸さん

半世紀にわたって血友病診療を行い、現在も現役の医師として診療を続けている高田先生、35年以上血友病患者さんのケアに携わってこられた看護部長の東さんにお話を伺いました。

血友病の診療に関わったきっかけを教えてください。

高田先生私は最初、熊本大学の二内科(血液内科)に入局したので白血病など血液の病気の治療に携わっていました。1966年から大分県立病院に勤務、血液内科を標榜しました。当時は県内に血液疾患を診る施設がなかったので、血友病の治療をする機会が多くありましたが、凝固因子製剤のまだ無い時代で、痛み止めや湿布の処方、圧迫止血、包帯を巻くという保存的な治療しかできませんでした。血友病患者さんの平均寿命が20歳にも満たなかった頃です。ときには親御さんの血液型が合えば輸血することもありました。
その頃から治療と併せて血友病への理解と知識を深めるために患者さんとの勉強会を始めました。数ヵ月に一度位の頻度で公民館などを借りて私が講義を行っていましたが、時には整形外科の先生に関節症の講義をしていただくこともありました。
1980年に県立病院の血液内科医4人で大分記念病院を設立しました。設立時の基本理念は「患者中心のチーム医療」でした。一人の患者さんを複数の医師が連携を取りながら診察することにより複数の視点で診ることができ、医療の質を高めることができると考えたからです。また特定の医師が不在でも患者さんが不安になることもなく安心して診療を受けられるというメリットもあります。
チーム医療も現在は進化して多職種の皆さんが協力しあって診療する「患者中心のグループ診療」として継続しています。

300回近くの患者さん向け勉強会を開催し、患者さんと共に歩んだ35年間

高田先生病院開設後まもなく、正式に「大分ヘモフィリア友の会」という患者会が結成されたことと患者さんの凝固因子製剤家庭輸注療法が可能になったので、患者さんの理解をより深め自己注射の手技を覚えてもらうために、毎月1回という積極的な勉強会を始めました。以来35年間、月1回の例会時に2時間の勉強会を続けています。ここ数年は少しペースが落ちていますが、先日279回に達しました。
勉強会では血友病の生理など基礎から臨床まで様々なことをテーマにしました。東さんも開催当初から参加してくれており血友病管理のベテランです。勉強会を続けたお陰で患者さん達は血友病について自分の病気を管理するに十分な知識を持っておられます。また、患者さんとは延べ500時間以上を共に過ごしたことになり、すっかり気心の知れた仲間になりました。
病院開設後は患者会での勉強の他に、県下の医師、看護師などコメディカルの方々、そして患者さん達を対象に院内外の会場で血友病に関する新しい情報を含めた講演会を、定期あるいは不定期に開催して来ました。最近では大分へモフィリア・ケア・カンファランス・セミナーを年1回開催しており、今年で8回目となります。セミナーでの講演内容は冊子にして九州の血友病診療を行っておられる医療機関と患者さんに配布しております。

院内の血友病診療体制について教えてください。

東さん当院では1986年に医療従事者によるヘモフィリア委員会を立ち上げています。委員会設立時は医師・看護師の3名体制でしたが、現在は医師の他に看護師が7名、ソーシャルワーカー、薬剤師、医療事務が各1名の11名の構成で血友病患者さんをサポートしています。
例えば医療制度に関する課題があるときにはソーシャルワーカーに中心になっていただき、製剤情報に関しては薬剤師にお願いします。委員会の中で情報を共有したうえで専門家が対応することで患者さんも安心して受診することができます。
また当院の看護師は他の大きな施設のように定期的に配属を替えることをしていないので、長く患者さんのフォローを続けることができています。
現在も外部の研修に参加して血友病ナースコーディネーターになるために頑張っているスタッフがいます。

他院との連携体制についてお聞かせください。

高田先生当院は内科を中心とした施設ですので、外科的な処置は県内の専門病院にお願いしています。
ただ、血友病患者さんの止血管理は、普段から診てないと管理が難しいこともあるため、注意が必要な外科手術では血友病患者さんの治療実績がある産業医科大学病院や九州医療センター、熊本大学医学部附属病院にお願いしています。

東さん他院に行かれる際には、例えば歯科の抜歯などでも補充療法が必要になりますので、事前に患者さんから当院へ連絡をいただくようにしています。患者さんの状態や製剤投与量などをまとめた情報提供書を準備することもあります。
以前あった事例ですが、交通事故により意識が無い状態で脳外科の病院に搬送された患者さんがいらっしゃいました。ご家族から当院に連絡があり、先生と私が搬送先の病院に行って、血友病に関する情報を提供しながら処置していただいたことがありました。
交通外傷などでは意識が無いこともあるので、当院の患者さんには患者カードや診察券を持ち歩くように指導しています。普段から対応可能な施設を想定しておくことも必要かもしれません。

定期的に製剤を投与されている方はどのくらいいらっしゃいますか?

東さん当院で診療を受けている患者さんの重症度別の定期投与率を調べますと、重症患者さんの76.9%の方が定期投与をされています。中等症が20%です。軽症の方で定期投与されている方はいません。全体でみますと58%の方が定期投与されています。定期投与により年間を通して出血がほぼない方が結構いらっしゃいます。また、定期投与の際に輸注記録をつけることで振り返りができますので、製剤の投与と出血の関係を患者さんご自身で実感することができ、定期投与を続ける理由にもなっているかと思います。

県内の患者会についてお聞かせください。

高田先生大分ヘモフィリア友の会は設立から35年を迎え、現在も定期的に例会を開催しています。サマーキャンプも友の会を中心に大変良い形で運営されており、今年で33回を迎えました。その中13回は九州各県友の会との合同キャンプです。また、単独でのサマーキャンプ開催が難しい時は福岡県の友の会である福友会のサマーキャンプに合流したこともあります。

東さんサマーキャンプでは、患者さんやご家族の悩みや本音を話していただくことがあります。通常の診療では時間をかけてお話を聞く時間がなかなか取れないので、大変貴重な機会だと思っています。

今後の止血治療についてどのようにお考えですか。

高田先生少し時代が変化してきている実感はあります。例えば血液中の凝固因子の最低活性値(トラフ値)を高く設定することで、より出血頻度が少ない日常生活をおくることや、患者さんの状態や活動量、製剤の特性などに応じて投与方法を設定する時代になってきていると感じています。
一方で、薬剤コストとのバランスも重要だと考えています。トラフ値を上げるために高額な製剤を無制限に使用することが良いのかという医療経済全体に関することも検討する必要があります。

今後の抱負をお聞かせください。

高田先生これまで診療や友の会を通じて接してきて、患者さんから勉強させてもらったことが沢山あり、私自身の成長にも役立っています。
今後は血友病で学んだ包括医療の考えを他の疾患においても応用できると良いと考えています。

(2017年Vol.52春号)
審J2005096

左から三和田さん、工藤さん、東さん(看護師)、高田先生、佐藤さん(看護師)、宮澤さん(薬剤師)、小野さん(MSW)、川野さん(医療事務)
大分記念病院スタッフの写真
大分記念病院の写真
所在地
〒870-0854 大分県大分市羽屋9-5
TEL:097-543-5005
http://oitamh.jp

奈良県立医科大学名誉教授・前学長 吉岡 章先生からひとこと

高田先生が東さんらと手塩にかけて築き上げられた大分記念病院の血友病診療体制は、ユニークで全国でも高く評価されています。半世紀もの長きにわたって患者さんと近しい関係を保ちつつ最新情報に基づく診療を提供いただいています。このモデル的診療体制が今後とも継続して発展されることを祈念申し上げます。