国立成育医療研究センター教育研修部 部長 臨床研究開発センター 副センター長 小児がんセンター 血液内科 医長/石黒 精先生
24時間365日、血液凝固第Ⅷ因子と第Ⅸ因子の活性を測定できる体制を整えていらっしゃいますが、現在の診療体制に至る経緯を教えてください。
石黒先生2010年に私が赴任した時、成育医療研究センターでは血友病の患者さんを診ていませんでした。これではいけないと思い、その年のうちに血友病の診療体制を整えようと、血液凝固第Ⅷ因子と第Ⅸ因子の活性を院内で24時間365日測定できる体制を作りました。翌年には中舘医師が着任し、私たち2人が中心となり血友病の診療を行っています。ここはナショナルセンターですので、開設するのと同時に多くの患者さんがいらっしゃいました。
患者さんは何名位いらっしゃいますか?
石黒先生最近の5年間でみると、血友病の患者さんは27人で、それ以外のまれな血液疾患もたくさん診ています。当院では救急の患者さんを常に受け入れていますので、近隣の血友病専門病院から、夜間、休日、時間外だけはこちらを受診されるという方も多く、それを含めると相当な数の患者さんが当院を受診しておられます。年齢は新生児から成人までで、成人になると内科に移ります。
インヒビターの患者さんの治療について教えてください。
石黒先生現在、2名のインヒビター患者さんを診ています。インヒビター治療のために注射回数が増えると血管の確保が難しくなるので、いくつかの病院から中心静脈カテーテル(いわゆる、ポート)を入れてほしいと依頼を受け、その時だけ受け入れる患者さんが年に数名いらっしゃいます。
他科との連携について教えてください。
石黒先生他科との連携は非常に良くできていて、ポートを入れる時は外科が担当し、頭から出血した患者さんが来られた時は脳外科医がすぐに手術をしてくれます。血液内科は、止血の管理をサポートしています。
血友病診療の体制、スタッフの構成を教えてください。
石黒先生医師が2名と、メインのナースが1名と補助をするナースが2名います。お子さんが2歳くらいになると親御さんに自己注射の指導をしていますが、看護師が主にやっています。あとは、「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」という患者さんやご家族に、心理社会的な支援をする専門の資格があり、アメリカで資格を取得してきたスタッフが病院全体で3名おり、支援にあたっています。お子さんの気持ちを落ち込ませないよう心のケアをしています。小さなお子さんがそういった専門のケアを受けると、泣かずに注射を受けられるようになります。チャイルド・ライフ・スペシャリストは、主にがんの子のケアに多くあたっていますが、血友病の診療にも参加しています。
家庭注射や自己注射の指導のタイミングを教えてください。
石黒先生家庭注射は大体2歳前後で始めて、10~20回くらい練習すると皆さん上手にできるようになります。練習するペースは人によりますが、週に1回の方もいればもう少しゆっくりの方もいるし、病院から家が遠いか近いかにもよりますね。自己注射を始める時期は小学校の高学年で他の病院と大きくは変わりません。
地域の病院や周囲の専門病院との連携も非常に良好のようですね。
石黒先生他院から紹介状を持ってこられる患者さんには、適切に診断して治療方針を決め、その後は元の病院で診療を続けていただきます。当院の使命は、患者さんが危険な状態の時は確実に診療するというのが根本にありますので、普段は近隣の病院で診ていただいて、何かあった時はこちらを受診していただきます。他の病院から歯科だけを受診しにくる方も多いです。一方で当院は血友病性関節症の手術を行っていませんので、整形外科の手術が必要な方は他の専門病院へご紹介しています。外科的な治療に関しては、遠方からの患者さんも受け付けており、リスクの高い手術では、24時間365日血液凝固因子の活性を院内で測定できる特色を活かし、安全に止血の管理をしています。
小児科から内科への患者さんの移行のタイミングはいつ頃でしょうか。
石黒先生基本的には高校生になったころから内科への移行を患者さんに伝えることにしています。当院の場合は、近隣に東京医大や荻窪病院といった専門病院があり、コミュニケーションもよく取れていますので、スムーズに内科への移行ができております。
しかし、保因者女性の妊娠・出産対応については、当院は母子病院で年間2,000人ほどのお産を受け入れており、リスクの高い分娩の際には手術の管理もしていますので、成人になったからすぐに移ってくださいというわけではありません。
お薬に関する説明はどのようにされていますか。
石黒先生血友病の薬には、血漿由来や遺伝子組換え型の製剤があり、それぞれの特徴をきちんと説明するようにしています。どの薬を使うのかは患者さんに決めていただきます。
患者会との連携はどのようにされていますか。
石黒先生当院には患者会がありませんので、希望があれば他の患者会をご紹介しています。患者さん同士の交流があると良いと思いますので、待合室で患者さん同士が交流できるような工夫をしています。
今後はどのような診療体制を目指していますか。
石黒先生当院は、小児がんの中央拠点病院ですが、がん以外の血液疾患も「拠点」として認めていただけるような診療をしたい、というポリシーがあります。私と中舘医師の2名が、がん以外の血液疾患の診療はすべて受けております。血友病ではありませんが、先天性血栓傾向の代表的な疾患であるプロテインC欠乏症という病気があり、こちらの根治療法であるドミノ肝移植を世界に先駆けて移植外科と一緒に実施しました。このように、将来は凝固異常症を中心に血液に関する全般を診療する「血友病センター」の開設を目指したいと考えております。
そのためには、次世代の育成も重要になってくると思いますが。
石黒先生そうですね。私たちの後を引き継いでくれる次の世代を育てるために、奈良医大のような専門施設への派遣を含めて、血液凝固異常症の研修プログラムを準備しているところです。
(2017年Vol.53夏号)
審J2005097
石黒、中館両先生のリーダーシップでナショナルセンターが血友病救急医療とセンター内外との連携体制を構築、遂行していただいているのはとても力強いことです。24時間、365日の因子活性測定可能体制が確立されているのも安心ですね。血液凝固異常症(出血症、血栓症)の研修プログラムを通しての次世代専門医の育成を是非ご推進ください。期待しております。