北海道大学病院血液内科 講師 HIV診療支援センター 副センター長/遠藤 知之先生
北海道大学病院(以下、北大病院)の血液内科では、白血病、悪性リンパ腫等の血液悪性腫瘍を中心に、血友病を含む血液凝固異常症などの血液疾患全般に対して幅広い診療が行われています。またHIV感染症/AIDS診療のブロック拠点病院として、多くのHIV患者さんの診療も行われています。平成28年に開設された「HIV診療支援センター」で副センター長を兼務されている遠藤 知之先生に、血友病の診療についてお話を伺いました。
現在、北大病院に通われている患者さんは何名いらっしゃいますか?
遠藤先生血液内科を受診しているのは40名ほどいて、25歳から73歳までの成人患者さんだけで重症の方が多いです。小児は小児科が診ていますが、数はそれほど多くありません。
血友病センターでない当院に患者さんが多く集まっている理由は、当院がHIVの拠点病院だからで、私自身もHIVに携わっていてその流れで血友病を診ている割合が多いことはあるかと思います。
患者さんは北海道全域から来られるのですか?
遠藤先生道南から道北や道東まで、北海道全域から飛行機で通われる方も多いです。通院の頻度は2~3ヵ月に1回くらいで、前泊して受診する方もいます。遠方の場合、薬は地元の薬局や配送サービスで受け取るという方もいらっしゃいます。
診療の体制・特色
遠藤先生最近は患者さんが高齢化してきて、自己注射をどうするのか、血友病性関節症のリハビリをしっかりやってほしいといったご要望が多いです。体制としては、昨年7月1日に「HIV診療支援センター」が設置され、そのセンターには血液内科、消化器内科に加えて、血友病に関する整形外科やリハビリ科が所属しています。歯科やC型肝炎の肝移植のため臓器移植医療部も所属しており、センターで血友病に関しても総合的に取り組もうとしています。(図1)
北海道の血友病の診療体制について教えてください。
遠藤先生北海道は札幌徳洲会病院(クロスハートvol.41&42を参照ください)が血友病診療の中心となっており、今年の4月に「血友病センター」が開設されました。血液内科がある病院は道内に10数ヵ所ありますので、それぞれ数名ずつの血友病を診ていると思います。血液内科医のいない病院で、私が週に1回、外来診察しているところが1ヵ所あります。
地域の病院との連携についてお聞かせください。
遠藤先生よく連携をお願いするのは、札幌徳洲会病院です。北大病院では血友病性関節症の手術はしますが、外来でリハビリをするシステムがないため、リハビリなどを徳洲会病院にお願いすることがあります。あとは、個別に近隣の病院から治療に関する相談を受けることはあります。
診療に携わるスタッフについて
遠藤先生血友病に特化した専任のスタッフはいませんが、血液内科のドクターは誰でも血友病を診ることができます。初診で来られるとその日の担当医が主治医になる形です。
自己注射の指導については、いかがでしょうか。
遠藤先生血液内科は成人の患者さんだけなので、既に自己注射できる方がほとんどです。指導が必要なときは、血液内科のナースかHIV診療支援センターのナースが指導をします。例えば製剤が変わり使い方が変わった時などに、注射の指導が必要になります。
ご家庭において本人以外の方が注射する時に配慮されていることはありますか。
遠藤先生関節症を発症していると、高齢化に伴いご自身での自己注射が難しくなる場合があります。そういう方は、訪問看護で週3回自宅で注射をしてもらっています。北海道は広いですが、各地に訪問看護ステーションがありますので、空きさえあればある程度は訪問看護を受けられると思います。以前大きな問題だったのは、感染症があるからと訪問看護ステーションを双方が敬遠する傾向がありましたが、最近ではそれもかなり克服されてきていると思います。
血友病診療医の育成についてお聞かせください。
遠藤先生病院によっては、血友病に特化して診ている科もありますが、北大病院としては血液内科が幅広く診ていますので、その中で興味を持ってやりたいと考えるドクターが出てくれば良いと思っています。血友病に興味を持ち「新患が来たらぜひ診たい」と言っているドクターはいます。また、企業が主催している研究会や学会のセミナーへの参加を機に意識が変わる人もいます。勉強会に積極的に参加することで、全国の専門医や医師・看護師以外の医療従事者、例えば薬剤師・理学療法士・作業療法士等のコメディカルとの連携にも繋がります。
小児科から内科へのトランジション
遠藤先生小児血友病の場合、診断は全て小児科がやりますので、血液内科に来る新患は北海道への転勤を機に受診したという方などです。小児科との連携という意味で、成人したら内科へのトランジションも大事だと思っています。
小児科の患者さんは、成人してもずっと小児科にかかることが多いのですか?
遠藤先生成人したから内科に来ることはごく稀で、成人病などを合併したから血液内科に来ることはあります。血液内科に血友病を診ている専門家が少ないことが、小児科からのトランジションが少ない原因の一つかもしれません。そういった意味でも、とにかく血液内科医であれば血液に関する疾患は幅広く診療し、血友病であっても最低限診られるようにと考えています。そうすれば、他の病院へ移った時も診られますし、一度も診たことのない医師を無くすことで裾野を広げる努力をしています。
後天性血友病について教えてください。
遠藤先生患者さんが来る頻度は少ないですが、北海道には「北海道後天性血友病診療ネットワーク」があり原因不明の出血症例や凝固異常症例について、検体を送るとすぐに検査を行い、診断や治療方法のコンサルタントを行っています。事務局は北海道医療大学にあり、どこからでもすぐに検査を受けていますので、そのネットワークに北大病院も加わっています。
今後、目指していきたい診療体制
遠藤先生北大病院では外来のリハビリができないなど限界がありますので、徳洲会病院等との連携を強化することは、患者さんが適切な医療を受けられるようにする一つの近道と考えています。
(2017年Vol.54秋号)
審J2005098
北大病院血液内科はHIV診療支援センターの中核として、遠藤先生を中心に血友病診療にも力を入れていただいており、特に、感染症を合併した患者さんには心強いですね。広大な北海道では道内各地から札幌市内の血友病センター病院(北大や徳洲会病院、天使病院など)での医療を希望される患者さんも多く、これらセンターと地元の病院・診療所との連携はとても大切だと思います。