独立行政法人国立病院機構 仙台医療センター感染症内科 医長 HIV/AIDS包括医療センター 室長/伊藤 俊広先生
現在、仙台医療センターに通われている患者さんは何名くらいですか?
伊藤先生人数を調べてみると、これまでに累計170名の患者さんが受診しています。一時的に来たり、手術のために来て、終わったら元の病院へ戻ったりと動きがありますので、通院している患者さんは50名位です。
血友病Bは少なく、ほとんどが血友病Aで、血友病以外ではフォン・ヴィレブランド病や第Ⅶ因子欠乏症がいます。重症型が約8割を占めています。
患者さんの年齢層と診療の体制
伊藤先生年齢は40~50代の方が一番多いです。当科は感染症内科ですので、HIV感染症を合併した方が受診し、非感染の方は血液内科を受診されています。私は両方で診ています。小児患者は、宮城県立こども病院でよく診ていますので、当院を受診する小児患者はそれほど多くありません。
現在の診療体制に至るまでの経緯を教えてください。
伊藤先生私が赴任したのは2002年ですが、当院は1996年にエイズ診療の拠点病院となり、1997年頃からHIV感染症に合併した血友病患者さんを中心に診療してきました。その当時の患者さんからHIV感染症と血友病の両方を診られる医師をという強い要望があり、その時に勤務していた先生とのご縁もあり、私に声がかかりました。
血友病の診療に関して、基本的には全診療科で対応できる体制になっています。止血管理はこちらでやりますが、それ以外は各科にお任せしており、患者さんは問題なく診療を受けられています。
定期補充療法の実施率
伊藤先生第Ⅷ因子製剤の投与は週3回の定期補充療法が基本ですが、週に1回投与していれば定期補充療法と思っている人もおり、きちんと守れている人は少ないです。自己申告での定期補充療法実施率は8~9割ですが、絶対量が少ないのか、月に1~2回程度出血する患者さんもおり、そういう方は何とかしなければと思っています。
最近は、患者さんの薬物動態※を測って、それぞれに合わせて製剤の量を調節するテーラーメード医療が行われていますが。
伊藤先生最近、患者さんの薬物動態を簡易的に測定できるツールがインターネット上で利用可能となっており、それを使用したことはあります。単独で実施すると10回程度の採血が必要になるところを、このツールを使用すれば3回の採血で済みます。患者さんには病院で製剤を投与することで来ていただき、製剤を投与する直前と製剤を投与し30分~1時間後、そして翌日の24時間後位にもう一度採血し、それぞれの凝固因子活性を測定します。患者さんには2日連続で通院していただかなければなりませんが、一度測定していただければ、より的確な製剤の用量を処方できると思います。
吉岡先生それは良い試みですね。製剤の量が足りない人がいれば増やせますし、逆に過剰投与の場合は少なくもできる。低力価のインヒビターなど様々なことが分かりますので、一度確認しておくのは意味があることです。
※薬物動態とは、投与された薬物が体内に吸収され組織に分布し、小腸や肝臓中の酵素により代謝、排泄されるまでの体内での濃度と速度過程を言います。インヒビターについて
伊藤先生現在インヒビターを保有している方はいませんが、他院でインヒビターを持つ患者さんが小脳出血を起こし、そちらには脳外科がないため当院に搬送され、バイパス止血製剤を使用して治療した経験があります。また、以前HIVを合併している重症患者で肝臓がんの手術をした時、一過性のインヒビターが発生したが自然に消えていったケースがあります。別のケースでは、中等症で胃がんの手術をした際、製剤を使ってインヒビターが発生してしまい、なかなか消えずに苦労した経験もあります。
自己注射の指導について教えてください。
伊藤先生重症型の方は皆さん自己注射ができています。中等症で出血する患者さんで大人になってから導入した例があり、その時は外来で看護師が自己注射の指導をしました。
20歳前後の患者さんで、痛みがあっても注射をせずに我慢してしまうケースがあり、思春期から大人の間にあたる人に定期補充療法をきちんと認識してもらう難しさを感じています。
関節症と自己注射について
伊藤先生肘に関節症があると自己注射が非常に困難になります。また頻回の注射は血管にダメージを与えるので、刺す血管がなくなってきたとおっしゃる人がいます。今後は患者さんが高齢化し、関節症があると製剤を打てなくなることも考えられます。その時にサポートする体制を作っておく必要があると考えています。
地域の医療連携についてお聞かせください。
伊藤先生仙台市に関して言えば、宮城県立こども病院や仙台西多賀病院との医療連携はできていると思います。何か問題があれば私に連絡が入りますし、他の診療科へ直接紹介されていることもあります。当院は総合病院なので脳出血があった場合の緊急手術や、肝炎を合併し治療が必要な場合にも対応できます。
保因者の出産のときなどは、生まれてくる赤ちゃんが血友病患児である可能性があるため産婦人科とこども病院が連携しています。逆に、ずっとこども病院を受診して大人になった患者さんが、内科を受診するために私の方に紹介される例もあり、最近だけで3名いました。
患者会との連携はいかがでしょうか。
伊藤先生東北では岩手県と宮城県に1つずつの計2つ患者会があります。毎年1回総会が開かれますので、できるだけ出席するようにしています。
東日本大震災後の患者会との連携
伊藤先生2011年に東日本大震災がありましたが、震災から約1年後に患者さんへのアンケート調査を実施した際には、患者会にもご協力をいただきました。調査では災害があった時の製剤の供給や、患者自身がどう動くべきか、日ごろの備えなどについて聞いています。震災の時、製剤の供給では日赤がよく動いてくれました。災害に備えて、日ごろから製剤は1か所だけではなく、自宅と職場など数か所に分散し置いておくと安心との意見がありました。
今後目指すべき診療体制とは
伊藤先生血友病は子どもから大人までずっと関わるものですので、血友病センターを1つ設け、患者さんを生涯フォローしていく包括医療体制の構築が必要です。宮城県が最初にセンター化できると思いますが、それ以外の東北各県の患者さんをどのようにフォローすれば良いかも考えなければなりません。また、これからを担ってくれる後継の医師をどのように見つけ育てていくかも大きな課題です。
(2017年Vol.55冬号)
審J2005099
仙台医療センターは、HIVやB型・C型肝炎を合併した血友病患者さんに対しても伊藤先生を中心に全科が協力する診療体制が組み立てられており、安心ですね。県立こども病院(Vol.43)、西多賀病院などとの県内の連携体制も機能しています。また、東日本大震災のご経験に基づくコメントは示唆に富んでおり、今後の血友病広域診療体制の整備にも生かせます。