熊本大学医学部附属病院輸血・細胞治療部 助教/内場 光浩先生
薬剤部 薬剤師/田上 直美先生
地域医療連携センター 医療ソーシャルワーカー/原田 薫さん
血液内科・感染免疫診療部 HIVコーディネーターナース/高木 雅敏さん
診療状況と地域の特色
現在、熊本大学医学部附属病院に来院されている患者数や地域の特性を教えてください。
内場先生患者さんは熊本県を中心として宮崎、鹿児島他、九州全域から来院されています。患者数は先天性血友病、後天性血友病、フォン・ヴィレブランド病を含め、1年に1回程度通院されているのは58名で、定期的に通っていらっしゃるのは20~30名くらいです。進学や就職で熊本市内に転居されて当院に来る10代20代の若い患者さんもいます。インヒビターは7月現在で1名入院中。もう1名、普段地元の病院で対応してもらい、脳出血や止血困難な時に救急車等で当院に来ている方がいますので、全体では1.5名ということになります。
他科との連携はどのようになっていますでしょうか。
内場先生手術をする場合は、事前に手術の規模に合わせた製剤の投与量や、手術中の管理等をガイダンスすると、その後は脳外科であっても産婦人科であっても処方箋を含めて全て担当医が対応してくださいます。歯科だけは外来で使用できる製剤が限られていますので、外来で抜歯をする時には私が処方し、「これで大丈夫なので抜歯してください」という流れになっています。もし出血が止まらない場合は連絡をもらうようにしています。
血友病を診療されるスタッフの体制や育成についてはいかがでしょうか。
内場先生そんなに大層なことはやっていませんが、正直、スタッフの方々が勝手に育ってくれているので私は非常に楽です。
田上先生内場先生が様々な情報提供をしてくださるので私達も動きやすいですし、きめ細かくお声掛けいただけるので、他の業務をしている時でもタイミングを逃すことなく患者さんに対応できます。
熊本大学医学部附属病院ならではの特色
受付の前に「おしゃべりサロン」の看板が出ていましたが、どのような場所なのでしょうか。
原田さん熊本地震があり、感染症を持つ患者さんとお話しする機会が増える中で感じたことは横とのつながりや地域とのつながりが少なかったことです。2017年3月にはお花見のお茶会を院外で行いました。普段は月1回第一金曜日と決めていますが、診察日に合わせて自由に出入りでき気軽に参加してもらえるよう工夫しています。
田上先生 何度言ってもきちんと定期補充療法をやっていただけない患者さんがいたのですが、おしゃべりサロンで他の患者さんから「それではダメだよ」と言われてちゃんとやるようになった方がいます。
内場先生夜にしか注射をしていなかった方に、患者さん自身の第Ⅷ因子の半減期をデータにして見せることで、朝や昼に投与するようになった例もあります。
原田さん「自己注射あるある」みたいに、こんな失敗があるよねという話が出たりします。他所では出来ない共通の話題ですね。例えば「関節症には補助具や装具を使っているよ」とか、訪問看護に抵抗のある患者さんに「そんなに気を使わなくても良いよ」等、実際の体験を直接聞けるのが良いみたいです。
自己注射の指導等はどのようにしていらっしゃいますか。
高木さん基本的に自分で打たれている方が多いですが、高齢者の中には出血を繰り返し関節症がひどくなっている方がいますので、その場合は訪問看護師を24時間対応で入れてもらい、ご自身やご家族が対応できない時にはすぐに注射をしてもらっています。新しく自己注射を始める患者さんにはデモ機を使ったりして指導し、一連の流れができているかしっかり確認します。
田上先生訪問看護とは将来的にもっと連携したいと思い、院外研修のような機会を作って2016年に12カ所、2017年に23カ所、今年も既に23カ所で行いました。
内場先生訪問看護側も関与したいけど恐い、わからないということがあるので、研修を通じそれを取り除いてあげることが必要です。
保因者へのケア
保因者健診等はどのようにされていますか?
高木さんお子さんで保因者の可能性のある女性がいたら受診してくださいと説明して、高校生くらいになったら血液検査をした方が良いという話をします。地域医療連携センターで遺伝カウンセリングをやっていますので、そちらに引き継ぐこともあります。
内場先生保因者の場合は検査を行いますが、軽症・中等症の患者さんの娘さんはなかなか来ていただけず、別の病院で出産し産後の出血で少しトラブルを起こした事例が何例かあります。保因者とわかっている方には、出産の時は血液内科、小児科、産婦人科の設備が整っている所で産むようにと伝えています。
熊本震災をどう乗り切ったのか
2年前に大きな震災があり色々なご苦労をされたと思うのですが、その際の状況や震災から得られた教訓等を教えていただけますか。
高木さん内場先生と一緒にすぐに患者さん全員に電話をして必要な薬やそれを打てる環境かどうかを確認しましたが、幸い全ての患者さんに連絡がとれて安心しました。病気のことを周りに話していない方が多いので、避難所ではたくさんの人の前で注射をするのが嫌で車中でされたり、手を洗えないので薬剤に入っているアルコール綿で手を拭いたりとプライバシーや衛生面では大きな課題があります。
原田さん避難所はスペースが限られていて膝の悪い方にはすごく大変な環境だったのですが、福祉避難所に早めに移してもらえるようにソーシャルワーカーから働きかけ対応してもらったりもしました。
田上先生東日本大震災の時に薬が手に入らなかった教訓からできた「災害薬事コーディネーター」や「災害対 策医薬品供給車両(モバイルファーマシー)」が熊本震災で初めて配置され薬剤は比較的スムーズに確保できましたが、問題は患者さんにどうやって届けるか。避難所に送っても移動されている方もいたので、ケアマネージャーさんの力を借りて介護施設に送ったりもしました。皆さん、快く協力してくださいました。
内場先生スタッフの皆さんは大変有能で、患者さんのことを考えボトムアップのようなかたちで動いていただいています。今までも、これからも、いつも患者さんのためになることを淡々とやっていくという気持ちでいます。
(2018Vol.58秋号)
審J2005101
歴史ある熊大血液内科では感染免疫診療部と一体化して幅の広い血友病診療をしていただいています。基礎医学にも造詣の深い内場先生、松下修三教授が指導者・診察医として診療してくださっています。さらに、薬剤師(積極参加はまだまだ少ない)、ソーシャルワーカー、HIVコーディネーターナース(血友病全般にも対応)が患者さんの診療はもちろん色々な相談にもきめ細かく乗ってくださっており、ありがたいですね。「おしゃべりサロン」、訪問看護師への働きかけや熊本震災時の活動も素敵で、安心ですね。