九州大学大学院 医学研究院成長発達医学分野(小児科)助教/石村 匡崇先生
診療状況と地域の特色
現在、九州大学病院に通われている患者数や 地域の特色を教えてください。
石村先生今は40名で、0歳から最高50歳のインヒビターの患者さんまで診ています。3~4割が成人の方で、最 近は成人の方の紹介も増えてきています。血友病Aが多く36名、Bが4名です。女性の患者さんが4名いて、重症2名、 軽症2名です。診ている患者数の割には女性の数が非常に多いと思います。福岡県に産業医科大学血友病センターが 拠点としてありますので、当院は福岡市近郊と壱岐の患者さんが中心です。壱岐は長崎県ですが福岡の方が距離は 近いので、時々定期外来に来られています。あとは佐賀県北部や、福岡県南部からも来院されています。基本的には 福岡市近郊をしっかりとカバーする地域中核病院として頑張っていこうと考えています。
50歳のインヒビター患者さん以外にもインヒビター患者さんはいらっしゃいますか?
石村先生私が医師になって3~4年目の頃、赤ちゃんのときにインヒビターができてしまった子がおり、今も診療し ています。それから血友病Bのインヒビターもいます。また、ITI(免疫寛容導入療法)で消失した方が数人います。 2年前からフォローしている50歳のインヒビター患者さんは、以前からあまり薬を使っておらず関節が痛くてもただ 鎮痛剤を使うだけで関節症が進行し、専門医を受診したことがない状況でした。そして大出血を起こして当院の血液 内科に入院されたのですが、定期補充療法を行ったら「人生が変わった」と大変喜んでおられました。都市部でもこのように隠れている患者さんがまだいるということを知り驚きました。
保因者のケアはどのようにされていますか。
石村先生私は女性血友病患者を診ている立場から、お母さんにも貧血がないかを聞いたり、血友病患者さん が結婚して女の子が産まれた場合には1歳を過ぎた頃に凝固因子活性値を測るようにしたりしています。当院で診 ている患者さんのお母さんには活性値が20%位の方がいます。また、重症の女性血友病患者さんでは、月経や妊娠・ 出産時の管理をどうしようかと悩んでいるところです。
九州大学病院ならではの特色
九州大学の血友病診療の特長を教えてください。
石村さん5階と6階を小児医療センターと総合周産期母子医療センターとして、小児科・小児外科・小児歯科等の外来が同じ外来ブースにあって、入院も同じ北6階にあり、フロアの半分が小児外科と 小児科で占めています。更に、眼科・耳鼻科・ 心臓外科等の入院も全部同じところにありますので、科と科のつながりが非常に強いと思います。特に小児外科と小児歯科は同じ外来・病棟を使っており、全体に顔が見える連携となっています。
吉岡さんこども病院的な発想を大学病院でやられているのですね。他科とはいつも密に連携できているのは大きな特長ですね。
石村さん患者さん全員に歯科受診をしてもらって歯が生える頃から歯磨き指導を始めて、抜歯時には血液凝固因子製剤を補充する。また、外科ではインヒビター患者のポート挿入を相談するとすぐやってくれますし、逆に出血傾向のある子どもたちのAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)がちょっと長いという相談を受けることがあり、このような場合にはすぐに対処しています。また血友病だけではなく小児の遺伝性血栓症に関しても大賀教授を中心に積極的に診断・治療を行っており、凝固異常症を多く診ている施設の中で当院の特徴だと思っています。
自己注射指導や部活相談への対応
自己注射は何歳位から指導するのでしょうか。
石村さん基本的には小学校6年生から中学入学時です。中学生になると部活が始まり運動をしたい子が増えるので、自分で注射し、自己管理をし、しっかり運動しなさいということを目標に指導しています。昔と違い、今はむしろ運動をしなさいという時代だと思っています。当院の患者の中には中等症の子でラグビーをやっている例があります。福岡はラグビーが盛んで、小学校からクラブチームがあります。その子は中等症のため定期補充療法はしていなかったので私は止めたのですが、お父さんがコーチで責任を持ってやるからと小学校3年の頃から始めました。ラグビーをするなら絶対に定期補充療法をしなければダメだと言って、お母さんに注射の指導をすることにしました。
定期外来の際には必ず生活状況を聞いて、特に中学校に入る時には部活は何にするのかを詳しく聞きます。子どもの頃はスイミングに通う子が多いですが、やっぱり野球をやりたい、サッカーをやりたいという子が出てきます。
地域との関係と今後目指す体制について
地域病院との連携はどのようになっているでしょうか。
石村さん幸いにして北九州市に産業医科大学がありますので、当院は福岡市にいる患者さんを中心に診察しています。
血友病に関わるスタッフ体制や、育成についてはどのようにお考えですか。
石村さん自己注射の指導は外来看護師さんにお願いしています。残念ながら専任ナースはいないのですが、看護師さんにはマニュアルを作ってもらい、スタッフが入れ替わった際も指導技術が変わらずに引き継ぎできるよう、看護師さん同士でも教育をしてもらっています。ドクターに関しては、基本的にグループで診る体制を取っているので、私以外にも血友病を診ることができるドクターが何人かいます。未来のドクターを育てるという意味では、医学部を目指す高校生を対象にした1日見学会で模擬講義をすることがあり、そこでは毎回血友病の話を取り上げています。産業医科大学と上手く機能分担をしながらも、九州大学は血友病の拠点としてしっかりやっていきたいと思っています。徐々に紹介が増えてきたということがありますので、今後も経験を積んでいきたいですね。
(2018Vol.59冬号)
審J2005102
九大病院の特徴は、小児科、NICU、小児外科、小児歯科などが一体化・センター化されていることです。小児科は血液・免疫学の専門家、大賀教授の指導の下、血友病から血栓症まで幅広く研究・診療されています。石村先生を中心に北部九州血友病センター(産業医大)とも連携しながら血友病拠点病院として活躍いただいており心強いですね。高校生への模擬講義に「血友病」を話されているとお聞きし、感銘を受けました。血友病は診断・治療・研究はもちろん包括医療のモデルとして確立されつつある時代に入ったんですね。