神奈川県立こども医療センター血液・腫瘍科 後藤 裕明先生
血友病に関わるきっかけと診療状況
後藤先生が血友病を診ることになったきっかけを教えていただけますか。
後藤先生横浜市立大学附属病院で小児科の医師としてキャリアをスタートした際、血友病と診断された患者さんを数名診ていました。2012年に神奈川県立こども医療センターに移り、神奈川県の小児血友病の診療拠点病院ということもあり、本格的に血友病診療に携わるようになりました。私のもともとの専門は小児がんでしたけれども、当然、小児血液の専門ということで血友病の診療も前任者から引き継ぐかたちで続けています。
診療状況や通院患者数等を教えていただけますか。
後藤先生ここは小児専門病院であり、原則的に就職等を一つの目安として成人診療科に移行するようにしていますので、どんどん患者数が増えるということはありません。だいたい50人前後の患者さんがこのセンターを受診され、新しい患者さんが年間5名位増える一方で、同じくらいの患者さんが成人診療科に移行していきます。年齢の上限は決めていません。学生でこの辺に居住であれば20歳になったからといって診察をやめましょうということはなく、就職を一つの目安としています。患者さんはほとんどが神奈川県内の方です。現時点ではインヒビターに対する治療を行っている患者さんはいません。
成人診療科への移行は就職が一つの目安ということですが、その際の連携はどのようになっていますか。
後藤先生就職してベースになる本拠地において血液内科を紹介する方針で行っていて、都内であれば荻窪病院や東京医科大学、県内であれば横浜市立大学附属病院や藤沢市民病院などの血液内科をご紹介しています。
神奈川県立こども医療センターの診療の特色
院内の血友病診療の体制の特色や、現在の体制に至る経緯を教えていただけますか。
後藤先生こども専門病院であるため整形外科、歯科、リハビリ科すべてにこども専門の診療を行う医師が揃っています。血友病の患者さんに対しても複数科の連携が緊密にとれるのが特徴ではないかと考えています。特に整形外科の先生が診療に介入してくださって、関節に関する定期的な検診をずっとしてくれます。また、一昨年から血友病の患者さんや家族が参加する「家族教室」を年に1回開催しており、歯科医、整形外科医も一緒に参加してもらって「血友病ってなあに?」ということを勉強しています。主な対象は比較的最近に血友病と診断された患者さんです。自己注射まで確立しているお兄さん患者さんにお願いしてお話をしてもらったり、自己注射の実演をしてもらったりしてセルフケアができるようフォローをしています。また、やりたいスポーツがあれば、それに併せて自己注射導入を早めたり、注意事項を確認したりということもしています。
血友病のスタッフ育成に関しては、どのようにお考えですか。
後藤先生システマティックにやっているわけではありませんが、現在血友病の診療をしている医師は4名で、外来担当医がそれぞれ患者さんを振り分けて診るという体制です。また、血友病担当の看護師が固定でいるわけではなく、外来を担当する看護師の中に血友病に関するチーフを1名おいて、自己注射の練習等を主導して実施したり、他の看護師に知識を伝えたりしています。自己注射のプロトコールが用意されているので、看護師はそれを代々使ってやってくれています。
自己注射の指導はどのように行っているのでしょうか。
後藤先生「就学までにはなんとかおうちでできるようにしましょうね」という感じで少しゆるめです。県内のアクセスが良いということもあり、自己注射が確立するまでは週3回通ってここで注射を受けるという患者さんもいます。ただ学校が始まってしまうと週に3回注射に通うのは大変になりますので、就学までにはご両親による在宅注射ができるようにしています。自己注射指導は少し遅いかもしれませんが、中学生位になってご本人が自覚もあって良さそうかなというときから始めています。
血友病診療の目指すところ
院内・院外に関わらず、今後目指していきたい診療体制や目標等についてどのように考えていますか。
後藤先生院内的には血友病診療のほとんどが外来診療ということで、患者さんの診療にあたる医師が決まっていて、病棟を担当する若い医師にあまり血友病診療の機会が無いということが問題だろうと感じています。知識や経験は、実際の診療をしてみないと簡単には伝わらないと考えられるので、血友病の患者さん、外来で診ている凝固異常症の患者さんに特化したカンファランスを実施し、イメージだけでも知識や経験を共有する機会を設けることを計画しています。それが院内工夫の一つです。そして、院外との連携については成人診療科への移行を毎回個別に考えるというと聞こえが良いのですが、体制としてきちんと整備されたものではありません。今後は目に見えるかたちで血液の成人診療科の先生と連携ができたら良いなと漠然と考えています。神奈川県内の成人診療科の先生達とあまり血友病に関して情報交換する機会が無いので、神奈川県にも協議会のようなものが必要ではないかなと考えております。
(2019Vol.62秋号)
審J1909128
神奈川県立こども医療センターでは、初代の長尾大先生(本クロスハート誌の初代監修者)が家庭注射・自己注射を含む先進的な小児血友病包括医療体制を立ち上げられ、県下の診療ネットワークを構築してくださいました。まさに、これが小児血友病診療のロールモデルとなりました。その精神と手法の実践は気賀沢寿人先生(前部長)、そして、現在の後藤先生に引き継がれています。