医療法人 上本町ぼく小児科院長 朴永東先生
クリニックの血友病診療状況
朴先生が血友病に関わるようになったきっかけを教えてください。
朴先生1990年に奈良医大を卒業し小児科に入局しました。世界血友病連盟が認定する教育施設である奈良医大小児科では、小児科医としての臨床研修と同時に血友病のトレーニングを受けることになります。子どもから大人まで多くの血友病患者さんの担当はもちろんのこと、凝固因子活性やインヒビター測定などの臨床検査の習得までおこないました。その後、血友病グループで研究に没頭していましたが、大阪母子医療センターで小児がん・白血病や骨髄移植を勉強する機会に恵まれ、大学に戻ってからも新たに腫瘍グループを立ち上げ、9年間厳しい臨床と後進の育成に日々励んでいました。留学を経て、大阪の病院に赴任してからも引き続き小児がん・白血病を専門としていましたが、大阪では血友病を専門に診るドクターが少ないことから、適切な治療が施されず多くの血友病患者さんが関節障害に苦しんでいる姿に唖然としました。そこで、奈良医大小児科出身医として一念発起し、血友病患者さんの診療に積極的に取り組むようになりました。大阪市立総合医療センターで5年、大阪赤十字病院で3年、当クリニックを開業して7年、計15年間ここ大阪で血友病診療に従事しています。
通院患者数や年齢層などを教えてください。
朴先生定期でフォロー中の患者さんは血友病Aが49名、Bが4名、フォン・ヴィレブランド病が1名。年齢は2歳から、一番高齢の方は70歳です。大阪市内以外にも吹田市、豊中市、堺市、尼崎市、東大阪市などから来院されます。
開業医は血友病患者さんにずっと寄り添える
クリニックで血友病診療をおこなうメリットについて教えていただけますか。
朴先生1つ目は、患者さんに「いつまでも」寄り添えることです。勤務医だと異動があるのでそうはいきません。血友病は一生の病気です。子どもの時から大人になっても、信頼できるドクターに診てもらいたいと患者さんは願っています。私が開業する際も「先生はもうどこにも行かないんですね」「ずっと診てもらえるんですね」と患者さんたちがとても喜んでくれました。2つ目は、大きな病院とちがい「敷居が低い」ので来院しやすいことです。「いつでも」血友病患者さんが受診できます。平日は夜の19時まで、土曜日も診察していますので、仕事や学校帰りに来院する患者さんも多いです。大きな病院だと担当の先生の外来が平日の週1~2回、それも大体午前のことが多く、ご両親や大人の患者さんは仕事を休まなければならないので、受診が大変だという声をよく聞きます。時には、受診が遅れてしまい定期補充に必要な製剤が足りなくなることもあるようです。3つ目は、自己注射の練習がしやすいことです。クリニックでは処置室を自由に使えます。血友病の患者さんは30分でも1時間でもゆっくり落ち着いて練習できるので、不安を抱きながら赤ちゃんに初めて注射したお母さんも、67歳で自己注射にチャレンジした患者さんもすぐに注射ができるようになりました。他の患者さんの処置が忙しくおこなわれる大きな病院だとこんなにゆっくりは練習できません。注射の指導は私が直接おこなっています。2歳になったらお母さんが、小学校高学年になったら本人が、というように目安を設けています。
他科との連携や地域病院との連携はどのようになっていますか。
朴先生整形外科的な問題は、関節障害の有無に関わらず、年に1回は島田幸造先生(JCHO大阪病院整形外科)に関節の状態などをていねいに診ていただいています。成人の生活習慣病などは西田恭治先生(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター感染症内科)、歯科は前田憲昭先生・前田憲一郎先生(皓歯会阪急グランドビル歯科診療所)というように血友病の知識や経験が豊富なドクターとのネットワークがあり、安心しておまかせしています。開業医ですので、出来ることと出来ないことをよくわきまえて、血友病患者さんに最良の医療を提供出来るよう努めています。
患者会との連携や活動について教えてください。
朴先生大阪市立総合医療センターにいた頃から患者さん同士のつながりがとても重要だと感じていて、「ゆうゆう会」という患者会を作り、年に1回は集まるようにしています。当クリニックの患者さんが中心ですが、会はオープンにしているので他病院の患者さんも参加してくれます。昨年6月にはJCHO大阪病院整形外科の島田幸造先生に「血友病と運動機能障害-いい運動、よくない運動-」というテーマで講演していただきました。何と島田先生は阪神タイガースのチームドクターなんです。63名の方が参加し、今回も会は大盛況でした。実は、血友病患者さん、ご家族たちは医者が思いもよらぬ多くの悩みを抱えていて、お互いにその悩みを分かち合っている姿を見たとき、患者会を作って本当に良かったなと思いました。医者が解決できる血友病患者さんの悩みはほんのわずかですから。
血友病診療における今後の展望
今後の展望や目指すところなどをお聞かせください。
朴先生以前は開業医には血友病の診療は無理だと思っていましたが、今では開業医こそが血友病診療に最適だという考えに変わりました。私が最初から診ている患者さんは定期補充もきちんとおこなっているので、本当に血友病なのかと思うくらい元気で、スポーツも楽しんでいます。ホノルルマラソンで完走したり、テニスのインターハイでベスト4まで勝ち上がったり。患者さんから「血友病は病気ではなく、個性です」ということばを聞いて、定期補充をしていることで、こんな考え方が生まれるまでになったのだと嬉しくなりました。これからも患者さんが血友病であることを忘れてしまうような診療をおこなっていきたいものです。今後、高齢化社会を迎えます。高齢の血友病患者さんが増えると、往診をして製剤を注射したり、処置をしたりということが必要な時代になってくるでしょう。往診や在宅医療は開業医だからこそできる領域なので、これからも開業医ならではの「フットワークの良さ」を活かしていきたいと思います。
(2020Vol.64春号)
審J2003362
朴先生は血友病専門医の少ない大阪市でたくさんの患者さんを診療されています。他科の専門医と連携することで、開業医師こそが小回りが利いて血友病の診療にはふさわしいとおっしゃり、それを実践されています。将来は在宅診療・往診も考えていただいており、ありがたいですね。