愛知三の丸クリニック名誉院長 緒方 完治先生
きっかけと患者さんの特徴について
血友病の診断治療に関わられたきっかけと時期を教えてください。
緒方先生学生時代、血液学の講義が自分にとって印象的だったことですね。三の丸病院(当時愛知県職員病院)に赴任して、同時に名古屋大学の第一内科第三研究室(以下、三研)に所属しました。三の丸病院と三研は密接な関係にありました。当時、血友病の患者さんはオンデマンドで止血治療をしており24時間対応が必要でしたので、三の丸病院の当直も三研の協力を受けていました。
その後、1978~1980年には米国オハイオ州のケースウェスタン リザーブ大学 血液内科オスカー・ラトノフ教授のもとに2年間留学しました。ラトノフ教授は、血液が固まっていく仕組みについて、滝が連続して流れる様に似て、各因子が次々と活性化されていくことから「Water Fall Theory(瀑布理論)」と名付けた有名な血液学者です。ラトノフ教授が患者に出血時間の測定検査を実施している、当時の貴重な写真がありますので紹介します。彼の血友病治療は血液を介した感染症をいかに回避するかに苦労し従来の治療を続けていました。日々の臨床に対する彼の熱意が感じられる貴重な写真と思っております。
通院しておられる患者さんの数、年齢層、症状はどのようになっていますか。
緒方先生私が留学から帰って三の丸病院で働き始めた1981年には、血友病Aが73人、Bが14人で、平均年齢24歳でした。それから40年後、昨年のデータではAが38人、Bが11人、平均年齢53歳となりました。約40年間には残念ながらHIV感染や肝がん、肝不全、頭蓋内出血等で多くの患者さんが亡くなられました。頭蓋内出血は重症・中等症に関係なく起こる可能性があります。なお、当院の最高齢は90代の方です。
インヒビターの方はいらっしゃいますか
緒方先生血友病Bのインヒビターが2人いましたが、その内1人はアナフィラキシーという重篤なアレルギー反応が発生したため名古屋大学医学部附属病院(以下、名古屋大学)で診ていただきました。
院内外の連携について
院内での血友病診療の体制はどのようになっていますか。
緒方先生三の丸クリニックは病院から診療所に変わり夜間の対応ができなくなっているため、緊急事態が発生した時にカバーしてくれるところとしっかりと連携しなければなりません。そこで名古屋大学の血液内科の先生方にお願いするということになっています。
他科との連携についてお聞かせください。
緒方先生クリニック内で特に連携があるのは歯科・口腔外科です。肝臓の病気に関することや、血友病性関節症や人工関節の適用については名古屋大学の専門科及び専門医と連携しています。基本的には、東海・北陸地方の血友病センターとして名古屋大学があります。名古屋大学からは、血液内科の医師が当院に来られて血友病も診ておられます。名古屋大学では月2回、包括外来があり、血液内科と整形外科と口腔外科等で診察してもらえるシステムとなっています。
吉岡先生血友病の患者さんでも高齢になると高血圧や動脈硬化が起こる場合があります。また、かつては血友病患者さんで血栓症が発症することはありませんでしたが、現在は定期補充療法や、出血時投与でも血液中の血液凝固因子の濃度が一定以上の高さで一定期間続くことで、血栓症のリスクがないとは言い切れなくなりました。包括外来等を受診し自身の健康状態を確認することが重要です。
製剤についてははいかがでしょうか。
緒方先生昔と比べて今の製剤は相当良くなっている認識があります。ただ、患者さんにとって医療費が高くなるプレッシャーがあり、それは高齢になるほど増す印象です。患者さんにそういうふうに感じさせてはいけないと思いながらやっていますけれどね。定期補充療法の投与法については、各製剤の添付文書に書かれた用法・用量をしっかり守り、最もコストパフォーマンスがいい状況でやろうと考えています。
患者会についてお教えください。
緒方先生昔から鶴友会という患者会がありました。当初、血友病の治療費が県によって患者さんの負担が異なる状況でしたので、それを一律に自己負担がなくなるようにという運動がありましたね。その時代は患者会の活動も活発で、全国で統一的に動きました。しかし、今は患者さんが集まって要求しなければならない問題があまりないともいえます。患者会の集まりでは、あるテーマを決めて医師が話をした後、患者さん同士でお話ししたり、新しい薬剤の情報を得たりしています。
今後の方向性についてお聞かせください。
緒方先生当院の患者さんは平均年齢が53歳とあって、ご自身の身体のこと、こんな時はここへ行くということ、医療連携についてもよくわかっておられます。当院は、名古屋市内で交通の便が良く、駐車場と診察室が近いメリットがあります。今後も名古屋大学と連携しながら、現在のやり方をさらに進めていこうと思っています。
(2021Vol.67春号)
審J2104013
実は、県立奈良高校の同窓(私が1年上)というご縁で、長く親しくお付き合いをさせて頂いて参りました。私たちが参入する前から、三の丸病院では名大一内3研と一体となって血友病診療を熱心に実施いただいていました。クリニックになった今も緒方先生を中心に成人患者さんの「かかりつけ医」を務めてくださっています。