新潟大学地域医療教育センター血液内科 特任教授魚沼基幹病院診療部長(血液内科) 関 義信先生
魚沼基幹病院の特性と診療状況
血友病の診療に関わるようになったきっかけをお聞かせください。
関先生自治医科大学を卒業後、まだ外来を担当させてもらえないころの新潟大学勤務時代に周術期の血友病患者さんの止血管理を当時の凝固線溶班の高橋芳右室長に細やかにお教えいただいたのが始まりです。その後、出張先の病院やエイズ予防財団のリサーチレジデント時代にさまざまな血友病患者さんを診させていただきました。新潟県立新発田病院時代には元新潟県病院局参与の伊藤正一先生に血友病診療の歴史と問題点、先生方が取り組まれたことについてお教えいただきました。
魚沼地区での診療の状況はいかがでしょうか。
関先生魚沼基幹病院ができるまで、血液疾患の患者さんは近場で長岡市、遠くは新潟市、時には東京都へ通うことを余儀なくされていました。現在は当院で15名ほど、新潟大学病院で10名ほどの患者さんを診させていただいています。成人のみですが若い方が多く、症状は軽症・中等症と重症が半々くらいです。スポーツをやりたい方が多いため予防投与は必須ですし、運動クラブに在籍しておられる方には定期補充を行っています。インヒビターの方もおられましたが、ITI(免疫寛容療法)を実施し、インヒビターがそれほど高くなかったこともあり無事に消失しました。このように患者さんの生活ニーズに適合した診療を心がけています。
貴院の診療体制とそこに至る経緯をお教えください。
関先生私が血友病外来を行っている新潟大学病院と当院は、日本血栓止血学会の血友病診療連携中核病院となっています。これまでは製剤を処方されるのみで、出血評価や適切な補充療法を受けていない患者さんを複数診療しました。そこでまず自分が関わっている病院での血友病の診療レベルを向上させることを目標としてきました。整形外科、歯科、リハビリテーション科、救急科と連携しながら、患者さんファーストの診療ができていると思います。
地域の他院との連携はどのように行われていますか。
関先生新潟県内の医療機関は新潟大学の医局出身医師が大多数を占めるので、連携は比較的容易で、中・下越地区からは新潟大学病院へ、中・上越地区からは新潟大学地域医療教育センター・魚沼基幹病院へ患者さんのご紹介をいただいています。新潟県は関東甲信越のブロック拠点病院と連携しており、東京の荻窪病院や東京医大(遺伝子検査など)にお世話になりました。
血友病診療のスタッフ体制と育成についてお聞かせください。
関先生医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師・理学療法士とのチーム医療となります。各々の役割分担を通じて1症例1症例を大事にていねいに診療・評価していくことでよい経験を積んでいただいていると思います。やる気がある方が多くて助かっています。
患者会についてお教えください。
関先生一昨年、新潟県の患者会が復活するお手伝いを新潟市民病院の高井和江先生と私とでさせていただきました。その後、コロナ禍のため活動は停滞していますが、Web会議等を利用した患者会や勉強会を模索中です。新潟県は海岸線が300kmもあるほど広大ですので、移動時間を考えるとこうした方法もいいのかなとは思います。来院した患者さんには、看護師や医療クラークが患者会に関する情報資料等を配布しています。
自己注射の指導や後天性血友病(AHA)への対応
自己注射等の指導についてお聞かせください。
関先生小学校高学年から遅くとも中学校時代に習得していただくのがよいと思います。しかし、それらの年代は小児科の管轄となりますので、小児科医へお願いするしかありません。たまたま成人になるまで、出血症状を認めるにもかかわらず自己注射手技を持ち合わせていない成人の症例(中等症)を最近2例、経験しました。出血のたびに近隣、場合によっては遠方の病院へ行って製剤を注射してもらわなければなりませんでした。そこで、当科で4泊5日(月~金)の自己注射手技のための集中入院プログラムを作成し、習得していただきました。お二人とも左右両方の腕に自己注射できるようになり「人生が変わった!」とおっしゃっていただきました。
製剤選択についてはどうお考えでしょうか。
関先生できるだけ患者さんの希望を優先しています。特に希望がないときは注射回数が少ない製剤をお勧めしています。最近では、年齢が上がって細かい指先の動きの面で定期補充がつらくなってきた50歳代の患者さんが皮下投与できる製剤を希望された症例も経験しています。ただ、出血時の自己注射は必要ですよというのは最初からお伝えしてあります。
後天性血友病(AHA)への対応についてお教えください。
関先生年に3人~4人、診療させていただいています。私がAHAを集中して診療し始めた20年ほど前、新潟県内ではまだ成人の治療に十分な量のバイパス止血製剤を在庫しておりませんでした。たしか日曜日でしたが、当時在籍していた新潟県立新発田病院で、私が緊急性を薬剤部長にお話しして東京から緊急で製剤を上越新幹線に載せて取り寄せていただいたことがあります。その後、学会発表などで製剤供給の重要性を訴えてきた成果もあり、現在は各社とも供給体制が確立されているのはありがたいことです。AHAは血液内科をはじめとする診療科では周知されていますが、AHAの初動診療科となり得るいくつかの科では認知度が低いままです。そういった科での啓発活動も重要と考えています。
保因者診断や保因者健診についてお教えください。
関先生血友病患者さんが娘さん(確定保因者)のことを心配される事例、母方に血友病患者さんがおられる結婚間近の女性(推定保因者)などの相談が多いです。問診や臨床検査でわかる場合はよいのですが、それらで診断がつかない場合は、遺伝子診断となります。日本血栓止血学会の血友病診療連携協議会が厚労省をはじめとする行政とタイアップして、予算を確保しスタッフや受診プロセスの整備をしていただけたら素晴らしいことだと思います。
今後、どのような診療体制を目指しておられますか。
関先生新潟県内の患者さんに標準レベルの血友病治療を受けていただき、出血回数を減らし、関節症やその他の合併症も減らし、QOLの高い生活を送っていただきたいと思っています。そのためには前述の日本血栓止血学会の血友病診療連携システムが全国で稼働してほしいです。最近、血友病のエイジングの問題が脚光を浴びていますが、軽症で血友病の自覚がない患者さんがポリープ切除や粘膜切除で何回も出血し、調べると血友病だったとわかることもけっこう多いです。医療者側にも、病院の規模や専門分野を超えたさらなる周知が望まれます。
(2021年9月記)
審J2111180
関先生は県立新発田病院時代(2015年)に次いで2回目のご登場です。先生の幅広い内科診療のご経験をベースに、一人一人の患者さんを大切にする魚沼基幹病院の血友病診療体制を自ら立ち上げ、多くの患者さんに実施していただいています。最近、後天性血友病(AHA)症例が増えている中で血友病専門医の存在は益々重要になっています。