兵庫県立こども病院副院長 血液・腫瘍内科 小阪 嘉之先生
診療体制および院内他科・地域病院との連携
小阪先生が、血友病診療に携わるようになったきっかけを、お聞かせください。
小阪先生昭和63年から小児血液学を担当しています。当時、勤務していた神戸大学附属病院に血友病の患者さんが3人ほどおられ、診療を始めました。また、大学院講義に吉岡先生が来られて、血友病の世界をいろいろと教えていただきました。そのあたりがきっかけだったかなと思います。
兵庫県立こども病院の診療状況を教えてください。
小阪先生現在、当院の患者さんは、血友病Aが約30人、Bが約10人の計約40人です。大半が重症の患者さんです。インヒビターは1人だけで、免疫寛容療法を受けておられます。また血友病Bでは国内で2、3例目のライデン変異兄弟例を診断しました。ライデン変異は年齢とともに第Ⅸ因子活性が徐々に増加する特徴があります。0歳児の時は第Ⅸ因子の活性が1%程度だったのですが、測定するたびにゆるやかに上昇し、かつ出血傾向を認めなくなりました。そこで東京医科大学病院に遺伝子解析を依頼し診断に至りました。内科へのトランジションは遅めのため、現在診療中の患者さんの年齢は0歳から24、25歳くらいまでです。内科との関わりを早くもっておこうと併診している方や、18歳くらいで内科に行かれる方もおられます。
院内での診療体制はどうなっていますか。
小阪先生当院の医師の中で血友病診療の比率は私が一番多いのですが、それでも私が診ている患者さんの中で血友病の患者さんは全体の5分の1くらいです。ほぼ毎日、血液外来を行うようになったことで、患者さんはある程度、ご都合に合わせて来院いただけるようになったと思います。今、一番ありがたいと思っているのは、血友病を専門に担当し、自己注射の指導などをしてくれる看護師さんの存在です。血友病専門外来や包括外来については、やりたいと思いながら、まだ実現には至っていないです。
他科との連携はいかがでしょうか。
小阪先生他科との連携は非常によく、たとえば整形外科の医師に「関節が腫れているので診ていただけますか」と言うと、その日が手術日でも対応してくださいます。理学療法士も同様です。小児歯科の先生とも連携しています。
地域の病院との連携についてお教えください。
小阪先生当院は県南東部に位置していますが、血友病地域中核病院として県内の殆どの施設と連携しています。特に北は日本海沿岸まで、西は岡山との県境までをカバーしています。県中央に位置する加古川中央市民病院には血友病の小児患者さんが10人くらいおられますが、当院の診療科長が月2回、血液外来に行って診療を行っています。そうした患者さんは、夏休みなど長期の休みに当院を受診していただいています。
自己注射の指導と保因者への対応
血友病診療のスタッフ体制・育成について、お聞かせいただけますか。
小阪先生臨床遺伝科が3年前にできました。特に保因者のことや、パートナーができる年齢となった患者さんの対応では遺伝カウンセラーに入ってもらっています。当院は小児病院で遺伝性疾患が多いので、育成体制としては、若手の医師に講演会や研究会に積極的に参加してもらっています。また、私だけが血友病の患者さんを診るのではなく、若い医師にも診療してもらい、製剤選択についてなど、一緒に考えるなかで育成に取り組んでいます。先ほど申し上げた、血友病専門の看護師の後進の育成についても積極的に進めています。
自己注射等の指導開始時期と指導法についてお教えください。
小阪先生当院は、ポートカテーテルも含めて、家庭注射の導入開始時期が非常に早いです。お子さんが1歳までにできるようになっているご家族もけっこうおられます。たとえば1週間入院して練習するというのは、なかなか難しいので、何度も来院し、練習していただきます。兵庫県では、小学校5年生の時に4泊5日間の自然学校があり、お子さんたちはそれをとても楽しみにしています。器用で前向きな子どもは、自然学校に備えて小学校5年生までに自分で打てるようになります。そうでないお子さんの場合は、自然学校の中間にお母さんが打ちに行くこともあります。それでお子さんには「6年生の修学旅行までにはできるようにしよう」と、本人による注射を促しています。
製剤選択についてお聞かせください。
小阪先生私が赴任した時、院内に血友病AとBの製剤がそれぞれ一つずつしかなかったので、Aを増やして2剤にしました。今はいろいろな選択肢がありますので、情報をお示しして患者さんご自身に選んでいただいています。血友病Aは基本的には凝固因子製剤を使用して、希望される方には抗体製剤を使っています。Bに関して言いますと、注射回数が2週間に1回程度ですむのは、親御さんにとってもお子さんにとっても、負担が軽いかなと思いますので積極的に半減期延長製剤を使用しています。
保因者診断・保因者健診等についてお教えください。
小阪先生血友病患者さんに女きょうだいがいる場合、患者さんが拒否しない限り凝固因子の活性値を測っています。時期はご家族の希望に合わせてさまざまで2歳~3歳で測るケースもあれば、本人が理解できる12~13歳まで待つケースもあります。初潮よりは前が望ましいとは思っています。患者さんの希望があれば、遺伝カウンセリングも受けてもらいます。活性値から保因者かどうかわかりにくい場合もありますので、奈良県立医科大学で遺伝子診断を受けていただいたケースもあります。いずれにしても、分娩時に初めて保因者であることがわかり緊急に輸血が必要になるような事態は避けなければなりません。当院の周産期センターでは、確定保因者が出産される際には、念のために凝固因子製剤を投与したことが何度かあります。確定保因者が男の子を出産される時は原則当院で分娩していただき、特に注意をしています。
どのような診療体制を目指していきたいとお考えでしょうか。
小阪先生各科の連携がよく取れているので何かあった場合の対応が早くできるのは良いことだと思っています。さらに包括診療の体制ができれば、定期的に来ていただいて、関節症状など、いろいろなところを検査できるようになるでしょう。5年以上を経過して症状が安定している方は年に1回、包括診療に来ていただくというような形もいいのかもしれませんね。
血友病診療医の育成について、お聞かせください。
小阪先生小児血液・腫瘍科で小児がんだけを診る傾向の病院もあるなか、当院は血友病診療にも力を入れています。診療科長は血栓止血学会認定医にもなって、後進の指導にあたっています。また、当院には2年間の研修を受け入れる制度がありまして、そこに来た医師には小児がん以外にも血友病を始めとする良性血液疾患、原発性免疫不全症などもしっかり勉強してもらおうと努めています。研修を受けた医師の中には、当院を離れた後も、血友病の研究会に来てくれている方もいます。
(2022年9月記)
審J2210492
広い兵庫県の地域中核病院として中心的な役割を果たしていただいている上、他府県からの研修医が血友病診療に親しんでいただけることも心強いですね。血友病Bライデン(Leyden;オランダの都市名)は第IX因子遺伝子プロモーター領域の点変異によって幼児期から思春期にかけて重症型が軽症型に移行するまれな病型です。