福島県立医科大学附属病院血液内科 主任教授 池添 隆之先生
助教 高橋 裕志先生
診療体制および院内他科・地域病院との連携
お二人が、血友病診療に携わるようになったきっかけと時期をお聞かせください。
高橋先生私は2019年の4月に、血友病患者さんの診療を前任者から引き継ぎ、その患者さんを現在も診ています。
池添先生私は、血液内科として薬害エイズの診療に携わったのがきっかけでした。現在当院では高橋先生が中心となり血友病の診療を行っています。
福島県立医大附属病院の診療状況をお教えください。
高橋先生当院の血液内科にかかっている血友病の患者さんは12人です。その内、私が診ているのは10人です。年代は20~60歳代で、重症の方が多いです。関節痛や関節症の訴えが時々ありますが、入院や手術が必要となるような症例はいらっしゃいません。日常の止血管理は凝固因子製剤の定期投与だけで済んでいます。軽症の方が1人いらして、その方は定期投与をせずに、手術などをする場合だけ製剤を投与しています。インヒビターをお持ちの方はいらっしゃいません。フォン・ヴィレブランド病については、軽症ですが何人かいらっしゃいます。先天性第ⅩⅢ因子欠乏症の方が2人いらっしゃいます。福島県は浜通り・中通り・会津と3地方ありますが、当院がある中通りの北半分ぐらいの地域から患者さんがいらっしゃっています。
後天性血友病の患者さんの診療はいかがですか。
池添先生年に3~4人はいらっしゃいます。救急車などで運ばれてきます。県内ですと後天性血友病のような緊急の出血を診ることができる施設が少ないため、バイパス止血製剤をすぐに使える当院へ来られる場合が多いです。昔は診断がつかなかったものも、最近は診断がつくようになったのではないでしょうか。決してまれなものではないように思います。特に血液内科は後天性血友病を診る機会が多いですから、まだまだ広く知ってもらう必要があると思います。
院内の診療体制・他科との連携はどうなっていますか。
池添先生3カ月に1回位のペースで、定期的に整形外科・検査部・小児腫瘍の先生方とミーティングを行っています。特に関節の状況を評価し、患者さんのQOLを維持しながら診療ができるように意見交換しています。どの先生も非常に熱心にやってくださり、他科との連携はよくとれていると思います。
地域病院との連携についてお教えください。
池添先生県内には郡山と会津に、クリニックで小児期からの患者さんを診ておられる先生がいらっしゃいます。将来的には連携が必要となるケースがあるかもしれません。県内の血友病診療に携わる先生方とは、研究会等を一緒にやらせていただいて、どんどん距離を縮めたいと考えていましたが、COVID-19感染症が流行したためそれが難しくなりました。今後、実際にお会いして距離を縮める必要性を感じています。大学病院と各地域の血友病を診療する病院は、年に1~2回は情報共有を行い、何かあった時には大学病院が県内の拠点病院となりバックアップできる体制を構築することが大切と感じています。これは血友病に限らずですね。常に新しい情報を地域の先生にお届けするのが大事だと思います。
高橋先生毎月の定期的な受診や製剤の投与は地元で行っていただき、年に1回の関節評価などは当院でさせていただきたいと思います。あと東北地区全体では、仙台医療センターなどが中心となりブロック拠点会議を実施しています。
池添先生東日本大震災の経験もありますので、リスクマネジメントとして日頃から他病院・診療所と連携をとっておくことは大事です。いざという時にどこにアクセスできてどんな先生がいらっしゃるか、日頃からお付き合いをし、顔が見えていれば連携はうまくいくと思います。
自己注射の指導と保因者への対応
血友病診療のスタッフ体制・育成について、お聞かせください。
高橋先生血液内科に常勤の看護師が2人います。患者さんは既に自己注射の手技を習得されていますので、看護師が直接自己注射の指導に携わることはほとんどありません。研究会などがあると声をかけています。また血友病に関する新しい情報や製剤を変更する際には患者さんへの指導をお願いしています。
自己注射等の指導開始時期と指導法についてお教えください。
高橋先生私が3年前に患者さんを引き継いだときには、自己注射の指導が必要な方はいらっしゃいませんでしたが、コロナ禍でお1人、静注用の製剤から皮下投与の製剤に切り替えた方がいるので、その指導をしました。
血友病診療医の育成についてお考えをお聞かせください。
池添先生血友病に興味を持たれる若い医師はそう多くないのが現状です。難しいというイメージがあるようです。しかし、さまざまなバックグラウンドを持った患者さんにずっと付き添えるということでは、人との関わりを大切にできる、やりがいのある仕事と思います。育成としては日本血栓止血学会に入ってもらうところから始めないといけません。あとは検査部で凝固の勉強をしてもらうことですね。
製剤の選択についてお聞かせください。
高橋先生患者さんの病歴は私の医師歴よりも長いので、基本的にはトラブルがなければ同じ製剤を続けるようにはしています。日常的に活動性が高く、凝固因子活性のピーク値を高く保たなければいけない患者さんは多くないので、患者さんの生活に合わせて製剤の選択や投与回数を調整しています。例えば、関節症を患い肘関節が曲がっていて自己注射ができなくなった患者さんには、静脈の注射から皮下注射に切り替えた例があります。
保因者診断・保因者健診などについてはいかがですか。
池添先生妊婦検診で見つかる方もいらっしゃいます。そういう方はすぐに血液内科に送られてきます。つい数カ月前にも、東北のブロック会議で保因者診断の話題が出ました。ただ、まだどこの施設でも、遺伝子カウンセリングや保因者健診まではできていないのが実情のようです。今後対応していくべき課題だということで意見が一致しました。
今後どのような診療体制を目指していきたいとお考えですか。
高橋先生県内のほかの病院に通っている患者さんも含めて、年に1回ぐらい当院に来ていただける診療体制を築きたいと思います。宮城県などでは、既にそういった診療体制を行っているところもあるので、今後も東北全体で連携し教わりながら検討していきたいと思います。
(2022年11月記)
審J2303625
広大な福島県の北部中通り地方を中心に、大学病院として指導的立場で診療され、東北ブロック全体の連携にも取り組んでいただいています。幅広い疾患をカバーする血液内科では後天性血友病症例が増えているようです。