埼玉医科大学病院血液内科 教授 宮川 義隆先生
東京のセミナーへ若手を積極的に参加
先生が血友病の診断や治療に関わるようになったきっかけと時期を教えてください。
宮川先生10年ほど前になりますが、血友病の患者さんが当院に緊急入院されたのがきっかけです。私は血液内科の臨床医ですが血友病の患者さんを診るのは初めてで、しかも血友病Bのインヒビターという非常に稀な症例でした。その頃は大学にも血友病を専門にしている医師はおらず、県内の血友病患者さんは小児科の開業医の先生が大人まで診ているか、都内の荻窪病院や東京医科大学病院に通っているのが現状でした。私は初めての血友病患者さんの診療について小児科の先生に相談するところから始めて、研究会で荻窪病院の花房先生にお尋ねしたりもしました。その後、荻窪病院の後任の先生のご厚意で、その患者さんとご家族と一緒に出かけ、セカンドオピニオン、そしてカウンセリングにも同席させていただきました。こうした方々のお力添えがあり、必死に学んで今に至っています。その患者さんも私の先生だと思っています。
埼玉医科大学病院の血友病の診療状況を教えてください。
宮川先生10年前にはゼロでしたが、そのような経緯で、現在約20人の患者さんを、私が診ております。内科医ですので成人の方ばかりで、年齢の偏りは特にありません。血友病患者さんの統計と同じく、約半数の方が重症です。
院内での血友病診療の体制、特色などはいかがですか。
宮川先生特色として、治験に積極的にエントリーして新薬の開発に力を注いでいるということがあります。遺伝子治療にも日本で初めて取り組み、約10名の治療実績があります。それは、私が血液学会として初めて医師主導治験を行った経験、そして海外の製薬会社グループの日本研究所での勤務経験があったこと、また留学して海外の治験による新薬開発などをつぶさに見てきたことなどによります。患者さんに新薬のことをきちんと伝えて、患者さん自身にエントリーするかどうかを選択していただけるよう、取り組んでいます。
院内の他科との連携はどのようにされていますか
宮川先生整形外科で年に1回、外来で関節を診たり評価するなどしてサポートすることも可能です。また当院はリハビリテーションにも手厚いので、患者さんの症状やご希望により柔軟に対応しております。そのほか、歯科ともしっかりとした連携を築いています。
血友病診療スタッフの体制や育成についてお聞かせください。
宮川先生私自身は若手の助教2人を教育しています。患者さんの話を一緒に聞いて、製剤の投与の方法を一緒に考えます。また、いくつかの治験にも入っているので、常に最先端の治療方法、製剤のことを学びながら疫学や病態、先の経過まで見通すことができます。彼らは血栓止血学会のチューター役もしています。東京での若手医師や看護師に向けたセミナーにもスタッフは積極的に参加して学んでいます。実は私もそこで学んできた経験があります。若手医師ではなかったですけれど、たいへん温かく迎えていただきました。
県内に患者会はありますか。どのような関わりをされていますか。
宮川先生規模は大きくないのですが、埼友会というのがあります。私が最初の血友病の患者を診ることになって、1人ではなく多くの患者さんのさまざまな症状や声を知る必要を感じ、連絡をとって学ばせていただくようにお願いしました。それ以来毎年参加させていただいています。
患者さんが安心できる最善の治療を
自己注射の指導についてはいかがですか。
宮川先生私は内科医で成人の方を診ているので、ほとんどの方は小児科の先生がすでにご指導していて、私から始めるということはほとんどありません。製剤やこれまでの経緯から、初めてという患者さんがいらっしゃる場合には、臨機応変に看護師とサポートしています。
血友病患者さんへの製剤の選択は、先生はどうお考えですか。
宮川先生血液難病の患者さん全般に言えることですが、私は医師として、患者さんに元の日常生活に戻ってほしいと考えています。血友病は遺伝病で、完全に治ることはないというものの、治療法は進歩しています。患者さんのお話をよく聞いて、何に困っているのか、何をするとどんな症状が出てしまうのか、また何をしたいのか。そうしたことをうかがって、個々に最善の治療法を選択していきます。
後天性血友病の診療もされていますか。
宮川先生年間4~6人の患者さんがいらっしゃいます。地域病院として、わりと多くの方がこちらに紹介されて来られます。軽症例は外来で治療を行うことがあります。
保因者診断・健診なども行われていますか。
宮川先生患者さんが約20人になりましたので、当然姉妹といった方に保因が疑われます。2~3カ月に1回、よく説明しご本人の意思を尊重して、保因者健康診断のようなものを行っています。丁寧な問診をすると過多月経などが見られ、女性血友病と診断される方もいらっしゃいます。遺伝子検査まで希望される場合は、東京医科大学をご紹介しています。
県内の血友病診療の現状はどのようですか。
宮川先生9年ほど前までは近くの小児科の先生と埼玉県立小児医療センターだけでしたが、この9年で大きく変わりました。西の方には当院がありますし、川越市に埼玉医科大学総合医療センターがあります。また、東の方の越谷市には獨協医科大学埼玉医療センターがあります。当院には隣接する東京都と千葉県からも来られる患者さんがいらっしゃいます。現在は東京に出ることなく埼玉県内でも血友病の診療ができるようになりました。
今後目指していきたい診療体制はどのようなものですか。
宮川先生大学病院の使命、また大学病院の医師の喜びというのは、たくさんの経験やリソースから、また進めている研究によって、他の病院では治せない患者さんを治すことができるということだと思って若手にも話しています。当院でいえば遺伝子治療や抗体製剤の開発の最先端に後進の医師たちが関われる。その環境を整えるのが私の仕事だと思っています。また私自身が10年前に血友病の患者さんを初めて診ることになったとき、わかりやすい診療のガイドラインのようなものがほしくて、東京医科大学の天野景裕先生と共に『血友病の診療マニュアル』という本を出版しました。これから血友病患者さんを診ていく、特に地域医療をがんばっている先生に向けて少しでも手助けになればと考えています。診療に関してはセンター化も理想ですが、誰もが血友病の診療体制が整っている拠点病院に通えるわけではありません。当院も都心から2時間以上とアクセスは決してよくはありません。どの地域でも地域医療が充実し、患者さんが安心して治療していくことができるようになるのが願いです。
(2023年12月記)
審J2404018
宮川教授が着任され、埼玉県西部の血友病診療施設と体制がさらに整備されてきています。特に、先生は幅広い血液学研究と診療実績を背景に新しい止血治療薬や遺伝子治療の国際治験(臨床研究)にも積極的に参加することによって、次世代の治療を目指しておられます。