弘前大学医学部附属病院弘前大学大学院医学研究科 輸血・再生医学講座 教授 玉井 佳子先生
移動の不便を密な情報共有で乗り切る
先生が血友病の診断・治療に関わるようになったきっかけと時期を教えてください。
玉井先生青森県の血液内科領域には血栓止血領域の専門の先生方がたくさんいました。大学院修了と同時に、その臨床の患者さんを1人、2人と指導医の先生と一緒に診て、何かあったら相談するということが普通にありましたので、比較的早くから関わっていました。
弘前大学医学部附属病院の血友病の診療状況はいかがですか。
玉井先生血液内科の成人の患者さんでは、血友病Aの方が15名、Bが4名いらっしゃいます。ほかに年に1回だけ遠方からいらしたり、整形の受診がてらに顔を見せに来られる方もいらっしゃいます。Aは定期補充に入られている方ばかりで、Bの方は中等症なので定期通院はなく、けがをしたり手術の時に管理をしています。小児の患者さんは小児科で診ておられます。成人になって引き継いだ方たちが多いです。うちでインヒビターが発生したことはないのですが、ほかで発生して、転居によって当院に通っている方は1、2名いらっしゃいます。
どのような範囲から通院されていますか。
玉井先生車で1時間圏内の、比較的近いところからの方ばかりです。私自身は、津軽の五所川原市と県南の八戸市の2次医療圏の病院に月2度ずつ通い、情報提供などしています。血友病の患者さんは遠くに移動するのはつらいので、その箇所箇所で診ていただき、問題があればいつでもご連絡をいただくようにしています。青森は移動距離が長く、雪の問題もありますので。
血友病の診療体制についてはいかがですか。
玉井先生血液内科の専門医が今4名おりますが、初診にあたった者が診ていくようにしています。私は新患は診ていませんが、相談を受ければアドバイスをして、というようなやり方をしています。彼らにはそれぞれ専門がありますが、青森県はそういうことも言っていられず、どのような病気であっても来られた患者さんから逃げずに責任を持って診療をするということが大切になります。気軽に院内で相談できる環境があるので、若い医師も積極的に診療を行っています。また、当大学院では血液内科の講義の中で止血・血栓・血小板にかける時間が代々とても多く、学生の頃からその領域をよく学んで、相談しやすい土壌があると思います。
院内の他科との連携はいかがですか。
玉井先生小児科とはうまく連携がとれています。15歳になって大人の扱いを受けたい方はこちらにシフトしてくるし、主治医の先生から離れたくない方は引き続き小児科で診てもらっています。また、整形外科の医師がとても関節手術に熱心で、血友病であるかないかにかかわらず、必要であるとなれば声をかけられ、私たちが手術期の止血管理をするという形で、こちらから頼むことなく進みます。リハビリもとても熱心にやってくれているので、あまりこちらで関節のことに気をとめなくてもいいという診療体制ができています。関節の検査に関しても、そちらで適切な方法を選んで進めています。
県内外の地域病院やクリニックとの連携はいかがですか。
玉井先生県内は移動が大変なので、定期補充して病状が落ち着いている患者さんは近くの病院やクリニックから処方をいただいています。成長期で体重が変わったり、何らかの気になることが起こった場合は主治医の先生からお電話で相談を受けたり、また一度ご本人にこちらに来ていただくというような対応をしています。弘前で開業をされている先生方は私の大先輩で、アドバイスすることなどないのですが、何らかの事象で入院が必要になった時はお引き受けし入院管理しています。
青森県に患者会はありますか。
玉井先生以前はありましたが、消滅してしまいました。でも今はインターネットが発達しているので、積極的な方はそれで情報収集したり、SNSなどでほかの患者さんとつながったりしています。そういうのをしない患者さんで何か情報が欲しいという方には紹介したりしています。
ケースに合わせてきめ細かく対応
自己注射の指導についてはどうされていますか。
玉井先生小児科から移行してきている患者さんはすでに体得している方がほとんどです。また、定期補充に切り替えた方には、最初は内科処置室の常駐看護師が注射を行い、徐々に自分でできるように指導して、10回くらいかけて導入しています。動画などもありますが、やはりマンツーマンで指導したほうがイメージがわくようです。
製剤の選択はどのようにしていますか。
玉井先生小児科から移行、あるいは他院から紹介されてきた患者さんに関しては、流通の問題でもない限り基本的には変更しません。関係性ができていろいろなことが話せるようになると、標準型、半減期延長型、バイスペシフィック抗体製剤など、その特徴を説明して、興味があれば言ってくださいというふうに情報を提供します。変える方、変えたくない方、半々くらいです。
後天性血友病の患者さんはいらっしゃいますか。
玉井先生年に1、2件必ず来られます。地域の先生からも、APTTが延長しているけれどというような相談が来て、すぐ送るから引き受けてくれとかではなく、適切な処置方法をアドバイスしたりします。当院のほかの科や検査部、麻酔科でも、APTT延長には非常に敏感で、異常が認められるとすぐに私どもの方にコンサルトの依頼があります。そういうことで軽症の血友病や後天性血友病を見逃すことなく発見して、こじらせる前に処置するということができています。
保因者診断などは行っていますか。
玉井先生積極的にはしていませんが、血友病の患者さんにお嬢さんがいたり、お嬢さんが生まれた時には遺伝の形式を説明して、保因者の話もしています。出血傾向があるかどうか気を付けてあげてください、聞きにくかったら奥さまに気を付けてもらってくださいという話はします。気になることがあれば一度来ていただき、遺伝子診断まではできませんが、診察をしてしかるべきところにつなぐこともします。出血があれば治療介入もします。当院では産科も積極的で、妊婦さんのAPTTが長いけど、と私どもの方に相談が来ることもあります。
今後、どのような診療体制を目指していきたいですか。
玉井先生私どものような地域では、患者さんも、遠くの最先端の拠点病院に通うよりも、何かあった時にすぐに診てくれる医師とつながっていたいという方が多いのが現状です。例えば、主治医が診療方針等で迷ったときには、他県の医師にいつでも相談できるという医師同士のつながりを構築してきています。このほうが、患者さんが動かなくていいというのが、個人的な考えです。県内外の先生方とのミーティングなどにも参加し、連絡を密にしておくということを心がけています。
(2024年7月記)
審J2408111
青森県は三方を海に囲まれ、豪雪の地帯もあります。患者さんは弘前大学や県立中央病院への通院にも一苦労されているという背景から平素は各医療圏で完結しつつ、手術や重症者は弘前大学等で対応いただいています。玉井先生はその先生方・患者さんからのコンサルトに対応しておられます。患者さんは心強いですね。