Heart Hospital

宮崎大学医学部附属病院小児科 助教 上村 幸代先生

整形外科との二本立ての診療

先生が血友病の診断・治療に関わるようになったきっかけと時期を教えてください。

上村先生研修時に希望して小児科に入局した頃から、血液疾患を専門にしたいと思っていました。指導についてくださった先生もたまたま血液を診られていて、一緒に血友病の診療にあたったのが最初です。その後外来が主になり、血友病の外来患者さんを診る機会が増えました。また、当時宮崎にあった血友病の患者会の方たちが大学を訪ねてこられ、日常に困っていることなどを教えていただきながら少しずつ関わってきました。

宮崎大学医学部附属病院の血友病の診療状況はいかがですか。

上村先生軽症が8名、中等症が3名、重症が11名いらっしゃいます。重症の方のうち、他の施設でしている方を除く9名の方に定期補充をしています。全員が血友病Aで、Bの方はいらっしゃいません。インヒビターができた方は以前2名いらっしゃいましたが全て消失し、今はいらっしゃいません。私は小児を中心に、乳児から40歳くらいまでを診ています。

患者さんは宮崎県全域からいらっしゃっていますか。

上村先生はい。宮崎県は南北に長い県ですが、遠く県北のほうからいらっしゃる方もいます。

院内の血友病の診療体制について教えてください。

上村先生以前は福岡県北九州市にある産業医大さんに年に1度ほど患者さんに行っていただいて、包括外来で評価・フィードバックしていただくというように、どちらかというと産業医大さんが中心となって連携していました。しかし、covid-19感染拡大で、できるだけ移動せず県内でという意識が患者さんの中でも強くなりました。宮崎県は各スポーツの合宿・キャンプなども多く、整形外科のスポーツドクターが多いという地域性がありますが、たまたま整形外科の関連病院で血友病に関心を持った先生がいらっしゃって、定期的に診てくださるようになりました。そういうわけで現在は整形外科と二本立ての体制でやっています。もちろん歯科や泌尿器科、産科などの他科との連携も図っています。

地域病院やクリニックとの連携はいかがですか。

上村先生当院が一番連携をとっているのは関連病院の都城医療センターで、そこの患者さんが整形外科受診の際にいらして、止血管理の相談を受けることもあります。あとは県立の3病院(宮崎・延岡・日南)が関連病院となっていて、そちらから患者さんが来られたり、そこでの整形外科の手術の際にこちらで止血管理のプランを立てたりもしています。軽症の方の場合は、患者さんの近くの病院で製剤が確保できるようにして、認可だけ当院に来られて行うなどの連携を図っています。

患者さんは県外からもいらっしゃいますか。また県外の病院との連携もありますか。

上村先生都城市のすぐ南隣が鹿児島県ですが、そちらから来られることもありますし、南西部のえびの市などは熊本県が、県北は大分県が近いなど、地域それぞれにかかる病院も違ってきます。就学や就労でこの地を離れる場合も、次の病院につなぎ、お引き受けいただいています。

製剤の選択はどのように行っていますか。

上村先生スポーツをがっつりする方には因子製剤を使いますし、患者さんの加齢に伴ってノンファクター製剤に切り替えることもあります。4日おきの投与をきちんと守れるような几帳面なお母さんがいらっしゃるところには小さい頃からなじんできた因子製剤を使うなど、ケースバイケースでご希望に合わせています。

患者さんやご家族の負担を減らす医療を

自己注射の指導開始時期や指導法についてはいかがですか。

上村先生ご家族には3歳くらいから、来院の際に指導しています。それ以前は腕がむっちりしていて成功体験に結び付きにくいので。自己注射を体得していただくにはたいへん時間はかかりますが、失敗したら来院するようにと言っています。患者さん本人には小学生の高学年から中学生くらい、基本的に修学旅行の前後のタイミングで指導しますが、個人の事情に合わせて臨機応変に行っています。最近は共働きの親御さんも多く、毎日連れてくるのはたいへんなので、5日間入院させて指導するなどしています。

後天性血友病の診療もされていますか。

上村先生血液内科が積極的にしています。年に1人いらっしゃるかいらっしゃらないかですが、いらっしゃった場合に備えています。

保因者診断や検診などはされていますか。

上村先生結婚や出産などを控え、そうでない場合も自分の活性は知っておいた方がいいよねということで、保因者と思われる女性親族の方に「検査しませんか」と積極的に声をかけています。凝固因子活性が低く保因者とわかった方には、公費制度のお話をします。公費制度に申請でき、それで治療ができるのならばと、ほかの親族からも検査したいという方が出てくる傾向があります。検査を迷う方も多いなか、意外にそれがきっかけとなることもあります。

血友病診療のスタッフの育成はどのようにされていますか。

上村先生当院には血液・腫瘍グループの医師が5名おりまして一緒に診療をしています。また、関連病院に若手医師が勤務したときに、血友病を診てもらうようにしています。また熱心に血友病に関心をもっている整形外科医師もいらっしゃり他院の包括外来の見学をされたりなどしているようです。

宮崎県に血友病の患者会は、今もありますでしょうか。

上村先生宮友会という患者会があったのですが、解散状態になってしまいました。ただ、有志の方々が年に1度の講演会でつながっています。そして昨年には、やはり再開させようという動きになっています。患者や家族を孤立させないようにとある患者さんのお父さまが尽力してそれぞれの方をつなぎ、患者会の再開に向けて準備をしているところです。

今後目指していきたい診療体制はありますか。

上村先生他科の医師のご協力をいただかなくてはなりませんし、いろいろクリアしなくてはならない問題はありますが、将来的には包括外来で患者さん個々のさまざまな心身の問題を包括的に診ていくことができたらと考えています。当院で、あるいは県内で全て診られるようになれば患者さんのご負担も減ると思います。

(2024年11月記)
審J2502309

宮崎大学医学部附属病院
小児科 助教 上村 幸代先生
上村 幸代先生
宮崎大学医学部附属病院
所在地
〒889-1692
宮崎県宮崎市清武町木原5200
TEL:0985-85-1510(代表)
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/home/hospital/

奈良県立医科大学名誉教授・前学長 吉岡 章先生からひとこと

比較的広い宮崎県では宮崎大学病院が中心となって、小児科・血液内科・整形外科などが関連病院とも連携しながら診療されています。上村先生は保因者検診にも乗り出しておられます。患者会の再開も待ち遠しいですね。