血友病看護について
血友病看護
~患者さんとの出会い
出血から派生する様々な問題を抱えた患者さんを多面的にサポートするために産業医科大学病院には1984年に血友病センターが設立されました。私はその血友病センターに専従看護師として1990年から勤務していますが、初めて血友病患者さんにお会いしたのは、1985年に病棟から異動で小児科外来勤務になった時でした。異動の時に医師(他科)から、「血友病は最近在宅自己注射が認可されたから看護師がすることはあまりない」と言われ、気乗りのしない異動となり、血友病の勉強をしないまま新しい職場に臨みました。深夜になって救急外来を受診される血友病患者さんは少し苦手で、「痛ければもっと早く受診すればいいのに」と思っていました。しかし、診療の場での学びや経験を積み、さらに患者会やサマーキャンプ等で接するうちに患者さんやご家族が抱えておられる問題の深刻さを理解できるようになりました。そのような中、ある患者さんに自己注射指導を行いました。その方は成人されていましたが無職で親御さんとの同居で、出血のたびに救急外来を受診されていました。しかし、血友病の知識と注射の技術を習得されて間もなく職業訓練校に入校して、やがて就職され、親元から独立し見事に自立の道を切り開かれました。この方への自己注射の指導を通して外来看護の可能性に感激し、私はこの方に外来看護の重要性を教えられたのでした。
血友病センターにおける看護師の役割
血友病センターに専従として勤務する現在の看護活動は、1.包括医療システムでのコーディネーターとしての業務、2.患者さんご家族の相談窓口、3.患者さん・ご家族、そして学校関係者など患者さんを取り巻く関係者への教育などがあり、このうち特に重要な役割は患者さんご家族への在宅自己注射療法の導入を含めた教育と考えます。
「知ることは最大の防御なり」を信念に疾病教育をひたすら遂行
血友病は先天性の病気で現在では完治することは難しい疾患ですが、患者さんやご家族が病気についての基本的な知識とその人のライフスタイルに合った個別的な知識を習得し、自己注射など自分を守る技術を身につけることで病気をコントロールすることができます。知識と技術を習得し、成功体験を積み重ね、「やっていける」という自信をつけ、その人らしく生きてゆくことを支援することが血友病看護の最も重要な役割と考えるのです。そのために、看護師は患者さんご家族との信頼関係を築き、些細な相談事にも対応するよう配慮し、医師をはじめとした血友病医療スタッフとの連携を構築し、チームで患者さんご家族を支援するパイプ役を果たすことが大切な役割となります。
治療計画に沿った看護の提供
当院の血友病担当医師は、患者さんの受診時には必ず看護師に陪席するよう指示があり、私もできる限り診察に同席します。特に診断後間もない患者さんご家族のときは名前や顔を覚えてもらい、「こんな時はどうしたら」の相談に対応できるように心がけます。出血への対応や定期補充療法が開始されると段階的に家庭輸注を導入すべくサポートや教育を開始します。最近は1次定期補充療法が主流になり、1~2歳の子どもに親御さんが注射をするケースが増えています。子どもの発達段階や親御さんの力量に合わせて無理なく時間をかけて指導するように心がけます。子どもさんが小学6年生になると夏休みや冬休みに1週間(月~金)入院のうえ自己注射指導を行います。在宅自己注射療法が適切に継続されるためには、注射の手技はもとより、知識の教育をしっかりすることが重要と考えます。個人差もあると思いますが、理論がわかって行動につながるという観点から、学校での理科の授業内容などとレベルを合わせるとやはり小学6年生くらいが理解するうえで適切と考えます。新たに在宅自己注射療法を導入する患者さんやご家族への教育・指導は年間10~15例になります。私が注射を指導した子どもたちが、輝く未来に大きく羽ばたいて自分の人生を切り開いてほしいと、いつも願っています。
(2018年Vol.57夏号)
審J2005100